84.巻き込まれたライニード
「は?ビクトリア王女がライニードと婚約したいって言ったんですか?」
渋い顔で訪ねてきたお義父様の話は衝撃だった。
ビクトリア様が王宮へ戻って来ていたことも知らなかった私たちにとって、
ライニードとの婚約の話を聞かされるなんて思っても見なかった。
「…陛下から聞いたのだが、本当はレイニード、お前を欲しがったそうだ。」
「え?」
「先日、王宮へ行っただろう?
その時にちょうど王宮に戻って来た王女に見られたらしい。
それで銀髪だったからライニードだと最初は思っていたそうだ。
護衛騎士にして婚約者にしたいとねだられて陛下は断った。」
「…あの時に。
俺がダメだからライニードをいうことですか?」
「そのようだがな…陛下もおかしいと言っていた。
すぐにレイニードをあきらめるような感じじゃ無かったそうなんだ。
レイニードとは婚約できないと言われた意味もわかっていなかったと。
それが、少し経ったら兄のライニードのほうと婚約したいと言ってきたんだと。
どう思う?」
「…あの王女が一度欲しいと思ったものをあきらめるとは思いません。
ライニードと婚約することで公爵家に来ようとしているとか、
俺に近付こうとしているとかは考えられます。」
「やはりそうか…この話をどうやって断ればいいか相談したくて来たんだ。
陛下は断ってくれてかまわないとは言っている。
だけど、建前としてなにか言い訳は必要だろう。」
お義父様が陛下に逆らうようなことはしたことがない。
ジョランド公爵家は騎士の家系として、王家に忠心な家だと知られている。
婚約を断るにしても他家から怪しまれないようにしたいところだろう。
「ライニード自身はどう言ってるんですか?」
「今日も連れてこようと思ったんだが、陛下が元気になられたことで、
仕事が増えているものもあるようなんだ。
ジョージア様の手伝いをしに行くと言っていた。
婚約は今はする気が無いそうだ。忙しくてそれどころじゃないと。
ジョージア様の婚約が決まっていないのもあるし、
自分自身が側近となるための勉強も忙しい。
そんな時に婚約者との交流なんてする時間は無いそうだ。
俺としてはジョージア様の婚約者候補で、王太子妃に選ばれなかった令嬢の中から誰かをと、
そう思って婚約者を決めずに待っていたんだがな…。
あと10年は結婚している暇がないと言われたよ。」
「…なるほど。10年。そうしたらビクトリア王女は行き遅れになりますよね。
それだけでも理由にはなりそうですが、信ぴょう性がいまいちですね。
マジェスタ公爵家に打診してみるのはどうでしょうか?
リリーナ嬢ではなく、妹のミリーナ嬢なら、確か今8歳くらいでしたよね。
10年後に結婚する相手として相応しいのでは?」
「マジェスタ家ならたしかに相手としてあうのだが…。
それだと婚約者との交流とかライニードは嫌がるだろう。」
「リリーナ嬢はジョージア様のお茶会に呼ばれますよね。
その時にミリーナ嬢も連れて来てもらえばいいのではないですか?
婚約は結ばないにしても、顔合わせしておけばいいでしょう。
ミリーナ嬢が学園に入学してから本格的に話し合いをすることにしておけば、
それまでに何かあってもなかったことにもできます。」
マジェスタ家のリリーナ様とは礼儀作法の授業でお会いしているが、
金髪に碧眼、静かな方だが優雅で、あの方なら王妃となっても問題ないと思う。
婚約者がいないのもジョージア様の候補として考えてのことだろうし。
ジョージア様がリリーナ様と結婚するというのなら、
その妹のミリーナ様を側近であるライニードが娶るのもおかしくはない。
「なるほどな…わかった。
ライニードにはそのように話してみる。
さすがに王女を降嫁させるつもりは無いようだから、きっと話に乗るだろう。」
「ミリーナ嬢は噂によれば金髪に緑目でとても可愛らしいお方だとか。
一度会ってから考えてもいいんじゃないかとライニードに伝えてください。」
「あぁ、わかった。助かったよ。」




