83.王女の願い
「ダメだ。」
「え?」
いつもならお願いを聞いてくれるはずのジョージアお兄様が、一言で私のお願いを断った。
それだけでもありえないのに、久しぶりに会ったお父様までもお願いを聞いてくれなかった。
「今日はライニードは王宮へと来ていない。
来ていたのは弟のレイニードだが、彼は魔術師科の学生だ。
貴族科にいるわけではない。
それに騎士でもないのに護衛騎士にできるわけ無いだろう。」
「どうして?貴族科にうつればいいじゃない?」
貴族科にいないのが理由なのだとしたら、貴族科にうつればいいし、
騎士じゃないというのなら騎士になればいいじゃない。
私が護衛騎士にしたいと言ってるのだもの。
騎士になった方が良いに決まっている。
なのに、どうしてお兄様もお父様も渋い顔でため息ついているの?
「彼は魔術師協会に所属することが決まっている魔術師だ。
だから王宮に勤めることはないし、騎士団に入ることもない。
念のために聞いておくが…婚約者に欲しいと言い出さないだろうな?」
「言うつもりだったわ。
だって公爵家なのでしょう?私の結婚相手にちょうどいいもの。
気に入ったし、問題ないでしょう?」
何を怒っているのかしら。
そろそろお兄様だって婚約者を決める時期だろうし、
私だって婚約してもおかしくない。
ジョランド公爵家なら、私が降嫁しても問題ないでしょう?
だから護衛騎士にして仲良くして、それから結婚しようと思ってるのに。
「無理だ。」
「ええ!?どうして?」
「彼には婚約者がいる。」
「そんなの婚約し直せばいいでしょう?」
婚約なんて貴族の家の結びつきを強くするためのものでしょう?
どこの家と婚約しているかわからないけど、王女の方が良いに決まっている。
こういう時は婚約し直すのが普通じゃないの?
「はぁぁぁ。ここまでひどいとはな…。」
「すみません、父上。俺が甘やかしたせいです。」
「いや、俺が動けなかったせいだな。すまん。
これからは俺もいるから。お前だけに負担かけてすまなかった。」
お父様とお兄様が何を反省しているのかわからないけれど、
なんとなく私のお願いを聞く気がないことだけはわかる。
「もう!お父様もお兄様も何を言っているの?
私は彼が良いの!彼を護衛騎士にして、婚約者にして!」
「それはできない。彼は王族とは結婚できない。」
「どうして!?」
「…もう少し学んでいればすぐにわかることなのだがな。
わかるまで自室でおとなしく勉強していなさい。
わかるまで新しいドレスを作るのも禁止だ。
次の家庭教師を追い出すような真似をしたら、
周りの侍女をすべて女官にするぞ。」
「…どうしてよ…」
「女官長、ビクトリアの家庭教師は三人つけろ。
一人では足りんし、追い出そうとするだろう。
なるべく年配の厳しいものを選べ。」
「わかりました。さぁ、ビクトリア様、お部屋へお戻りになりましょう。」
嫌だって言ったのに、女官長に追い出されるように部屋を出た。
今までいた私の言うことを聞く侍女は半分に減らされ、
女官長のような笑いもしない女官が増やされた。
どうして?今まで優しかったお兄様がどうして怒ったの?
すぐに家庭教師が来て、ずっと部屋に閉じ込められて勉強させられている。
家庭教師たちが何を言ってるのか…全然わからないけど…。
「…あきらめない。絶対に手に入れるんだから。」




