80.治療
半ば呆然としていた陛下が、ジョージア様に肩をゆすられて、ようやくうなずいた。
よし、許可が下りた…すぐに治療しなければ。
「では、わたくしたちで治療いたします。
魔術をかけますが、陛下はそのままの状態でいてください。
失礼いたします。」
まずはレイニードが薬物鑑定をかけて、体内に残っている毒物を詳しくみる。
上級薬物鑑定は私も持っているけれど、これは薬草や毒物の知識も必要とする。
この手のものは知識があるほうがより使いこなせる魔術のようで、
私よりも詳しく見ることができるレイニードに任せることにした。
「エミリア、4種類残っている。
ハイドロ草、カシムの汁、マンガン石、ルアンの乾燥した実。
解毒可能か…?」
「大丈夫、用意した腕輪で間に合いそう。
陛下、失礼いたします。これから解毒用の魔術具をはめます。
この腕輪がそうです。三日ほどはこのままつけておいてください。」
レイニードが解析した毒に合わせて、用意してきた腕輪型の魔術具をはめていく。
長い年月身体の中に残っているだけあって、すぐに解毒はできない。
少し時間がかかることも説明して腕輪をはめると、すぐに魔術が発動し始めた。
「毒はこれで解毒できるはずです。
あとは、下半身だけでなく内臓までかなり悪くなっているようですので、
全体的に治癒をかけます。
…わたくしとレイニード、同時にかけますのでめまいがすると思います。
目を閉じていただけますか。それでは、いきます…。」
私が上半身に、レイニードが下半身に治癒をかけていく。
さすがに腐りかかっている内臓を治癒するなんて初めてのことで、
魔力の加減がわからない。
強い魔力にさらされると意識を保つのがつらいと聞いていたので、
陛下にはあらかじめ目を閉じてもらうことにした。
どれくらい時間が経過しただろうか。
陛下はおそらく気を失ってしまっているが、見るからに顔色が良くなってきている。
完全に治すのは無理だろうと予測していたが、それでもかなり良くなったはずだ。
同時に行っている解毒が思ったよりもうまくいったようだ。
「…終わりです。腕輪はこのまま壊れるまでつけておいてください。」
「本当に治ったのか…父上の顔色がこんなに…。
父上、父上、大丈夫ですか!?」
治療が終わったと声をかけると、
ジョージア様が陛下に駆け寄ってゆすって起こそうとする。
何度か声をかけられてゆっくりと目を開けた陛下は、
身体の傾きを直してしっかりと座り直した。
「動ける…少し麻痺は残っているが、自力で座れる…おおおぉ。
もう…あのまま死にゆくだけだと思っていたのに…。
レイニード、エミリア嬢、本当にありがとう。
君たちには申し訳ないことをしたというのに、なんとありがたいことだ。」
ボロボロと涙をこぼしているのにも気がつかない陛下が、
立ち上がろうとしてひざの布をはらった。
陛下の下半身は細い帯のようなものでぐるぐる巻きにされていて、
そこまでしなければ座ることも難しかったのだとわかった。
自分の身体に巻き付いているものをほどこうとして、
もどかしくなったのか叫んでいる。
「あぁ、もう邪魔だ。ジョージア、この布を切ってくれ。」
「父上、わかりました!ちょっと待ってください。」
短剣を取り出してその布を全て切り落とすと、
陛下がよろめきながらも立ちあがることができた。
ジョージア様の肩を借りて、一歩、二歩と歩き出している。
これほどまで回復するとは思っていなかったが、成功したことでほっとする。
もし治療できなくても責められることは無いとわかっていたが、
魔術師長の予言を聞いてしまったからには治さなければいけない気になっていた。
「感謝する!このお礼をどうやって返したらいいんだ!
本当にありがとう!」
私たちの近くまでたどり着くとレイニードの両手を掴み、
まるでしがみつくかのようにしながら礼を言っている陛下に、
同じようにレイニードに抱き着きそうなほど喜んでいるジョージア様。
その騒ぎを止めたのはリシャエルさんだった。
「陛下~第一王子様~お願いがありますので、落ち着いてもらえますか~?」




