79.謁見
玉座に座る陛下のひざから下は布がかけられていて見えないようになっている。
確か下半身が動けないから、縛り付けて座らせているという話だった。
布がかけられているのはそれらを見せないためだろう。
それでも、まっすぐに座ることのできない様子に、陛下の身体が弱っているのは一目でわかる。
少し斜めになった身体を脇に持たれかけさせ、頭も後ろにつけている。
顔色が土気色に近いほど悪く、金髪もぱさぱさになって抜けてしまっている。
目が落ちくぼんでいて、くちびるが乾燥しているのか黒く見えた。
そのすぐ脇にジョージア様が立っている。
小声でしか話せない陛下の声を伝えるためのようだ。
ぼそぼそと陛下が何か言った後で、
ジョージア様から三人とも近くに寄ってほしいと伝えられた。
近くに行くと、腐臭が強くなったように感じた。
内臓が腐りかけているというのは本当なのかもしれない。
そのくらい死臭に近いような臭いだった。
「今回はフレデリックのことで多大な迷惑をかけてすまなかった、
王族として、今後は二人に関わることは無いと約束しよう。
本当にすまなかった。」
言葉はジョージア様が伝えてくるが、
陛下の目がこちらに向かって真っすぐに見つめられ、
申し訳なさそうにしているのがよくわかる。
座っているだけでもつらいのか、額には油汗をかき始めている。
これは…一刻も早く治療した方が良さそうだ。
レイニードと一瞬だけ目を合わせ頷いた。
「お初にお目にかかります、陛下。
レイニード・ジョランドと申します。」
「わたくしはエミリア・エンドソンです。
こうして陛下にお会いすることができ、光栄ですわ。
…わたしくしたちは魔術師科の学生ではありますが、
この国の貴族の子でもあります。
お話を続ける前に…陛下の体調がとてもお悪いご様子、
わたくしたちに治療させていただけませんでしょうか?」
「は?」
驚いた顔の陛下の横で、
もっと驚いた顔のジョージア様が戸惑ったように聞いてくる。
「レイニード、エミリア嬢。魔術師協会は王家に関与しないのではないのか?
治療してもらえるというのなら…それはありがたいのだが…。」
私たちに聞きながらも、視線はリシャエルさんの方に向いている。
治療をお願いしたい気持ちはあるが、魔術師協会の意向が気になるのだろう。
「魔術師協会に所属する予定ではありますが、今現在はただの学生です。
そして、この国の貴族の一員でもあります。
わたくしたちの力で治療できるかどうかはわかりません。
…それでも、陛下がこれだけお辛いご様子では…。
お話しするにしても陛下御自身で話せるようになった方が良いと思いますし、
治療を試すだけでも…どうでしょうか?」
「父上…私はぜひ治療してもらうべきだと思います。
この二人は信用できる人間です。それに才能ある魔術師だと思っています。
きっと治療できると信じています。
…魔術師協会が認めてくれるのであれば…ですが…。」
「え~魔術師協会ですか?
私は謝罪の立ち合いに来ただけです。
今の話はレイニードくんとエミリアさんの貴族としての申し出でしょう。
まだ魔術師ではありませんし、うちに所属しているわけでもないですからね。
この件には魔術師協会は関わりません。」
「では、ぜひ!
父上、かまいませんよね!?」
半ば呆然としていた陛下が、ジョージア様に肩をゆすられて、ようやくうなずいた。
よし、許可が下りた…すぐに治療しなければ。




