70.決闘状(レイニード)
それを見た時、まさかと思ったが、
ジョージア様とライニードの顔色の悪さを見ると本物らしい。
「一応聞きますが、これは何ですか?」
「…決闘状だそうだ。」
「本気ですか?」
「おそらく…本気だと思う。
これでも、全力で止めた結果なんだ…一応見てくれ。」
「…わかりました。」
そこまで言うならと受け取って読んでみると、
次の剣技大会に出て俺と正々堂々勝負しろと書いてある。
フレデリック様に負けたらエミリアを解放しろと。
予想はしていたが、ここまで愚かだとは…。
「それで、ジョージア様は俺にどうしてほしいのですか?」
「剣技大会に出ろとは言わない。
そもそも魔術師科の学生は出場できない。」
「それはそうでしょうね。
魔術師に魔術無しで戦えといっても無理ですから。」
「あぁ、わかっている。」
もうすでに身体強化して戦うのが普通になってしまっている。
普段の剣術の授業の時点でそうなのだ。もちろん講師たちもそれを容認している。
わざわざ魔術を制限しろと求められることは無い。
それなのに剣術大会に出てこいとは…。
「もうこの際なのではっきり言いますが、
あのままではフレデリック様は王族とは認められません。
六か国法を無視し、魔術師をないがしろにし、魔術師に婚姻を強いるとは…。
このままの態度を貫こうとすれば、必ず問題が起きます。
五国から戦争をしかけられても反論できませんよ?」
「…わかっている。」
「今の魔術師科には他国の王族が二人いらっしゃいます。
母国に報告される可能性があります…。
もう遅いかもしれませんが…。」
「…。」
「陛下には報告しましたか?」
「まだだ…こんなこと報告したら、廃嫡されてしまうかもしれない。」
「でしたら、早く対処してください。
どうするつもりでこれを見せたんですか。」
「もし、あいつが剣術大会で優勝したなら、
その後で一度だけ戦ってやってくれないか?
おそらく騎士団で一番の腕だからと自信過剰になってしまっている。
今の王宮にいる騎士団はあまり強くない。
ほとんどの若手は地方に行って訓練しているから…強いものが近くにいない。
それで自分が強いと過信してしまっているんだ。」
「俺に負けたら納得すると思いますか?」
「もし負けても変わらないようなら、その時はあきらめる。
父上に報告して、廃嫡することも検討しよう。
だから、一度だけ手合わせしてやってくれないだろうか。
おそらく、あいつにはそれが一番わかりやすいと思うんだ。」
強い相手がいないから、負けたことが無いから自信過剰に…もしかして。
俺が騎士団にいないからなのか?
以前なら何度も手合わせしていたが、俺が負けたことは無かった。
フレデリック様は騎士団にはいたが、卒業後は騎士団に所属しない予定だった。
騎士団長を目指すのは無理だから、
俺は兄上の補佐として王族の仕事をするよと言っていた。
もし、今の性格が俺が騎士団にいないせいだというのなら…
俺にも責任があるのだろうか。
「わかりました。
剣術大会の後、一度だけ手合わせいたしましょう。
手加減はしますが、それでいいでしょうか?」
「あぁ、かまわない。
手加減されなかったら命の危険があるだろう。
感謝する…この借りはきちんと返す。いろいろとすまないな…。」
「いいえ。ジョージア様が苦労していらっしゃるのはわかっています。
ただ、これ以上の猶予はありませんので…。」
「ああ、わかっている。ありがとう。」
少しやつれてしまったジョージア様と困った顔しているライニードを見送ると、
後ろからそっと手を握られた。
今まで俺の後ろで静かに話を聞いていたエミリアだった。
「どうした?」
「…ごめんね。私のせいで騒動に巻き込まれてしまって…。」
「いや、エミリアのせいじゃないよ。
多分、俺が騎士にならなかった影響なんだと思う。
俺が騎士団にいた時はフレデリック様とは何度も手合わせをしていた。
その時には一度も負けたことは無かったし、
そのせいかフレデリック様の性格は謙虚だったと思う。
今回の俺は騎士になることを選ばなかった。
だからフレデリック様の性格が変わってしまったんだ。」
「そうなの?」
「うん、だからこれは俺の責任なんだと思う。
大丈夫。ケガはさせないようにするから。
エミリアは心配しないで。さぁ、帰ろうか。」




