7.儀式
「…これは驚きました。二人とも神の加護がついているとは。」
水晶の光が収まると、神父様がしぼりだすように声を出した。
お父様はまだ驚いたままの顔をしている。
「とりあえず、お二人から話を聞かせてもらえますか?
何か心当たりがあるのではないですか?」
そう言われ、私が神父様に説明をする。
きっと、私から話した方がわかりやすと思ったから。
17歳の夜会で令息たちに追われ、
捕まえられたくなくて逃げたら、神の審判から落ちてしまったこと。
目が覚めたら12歳に戻っていたこと。
私もレイニードもその記憶が残されていること。
教会にはレイニードが以前と違って魔力があるのを感じ魔力測定に来た、
そこまで話し終わるとお父様は泣いていた。
「エミリアがそんな目に…。
どれほど恐ろしい思いをしただろう。」
そう言って抱きしめてくれたけど、私はレイニードが気になって仕方なかった。
私が落ちた後、いったい何があったのだろう。
視線に気が付いたのか、レイニードが次は自分のことを話すと言い出した。
「夜会の途中でエミリアがいないことに気が付いて探したら、
令息たちがエミリアを追いかけていったと聞きました。
その後を追うと、神の審判の上で追い詰められているエミリアが見えて…。
急いで駆け付けた時には遅く…エミリアは目の前で落ちていきました…。
俺も…エミリアを追って、神の審判から落ちました。」
やっぱり…私はそう思ったけど、神父様とお父様は信じられないようだった。
「落ちたって、自分から飛び込んだって言うのか?」
「はい。
エミリアは何も悪いことはしていない。
ただ逃げようとして落ちただけです。
神が本当にいるのなら、きっとエミリアはどこかでやり直せると思いました。
…俺は、エミリアと一緒にやり直したかった。」
「確証もないのに、やり直せなかったらどうするんだ。」
「エミリアが落ちたのは、助けられなかった俺のせいです。
エミリアがそのまま死んでしまうとしたら、俺も死んで良いと思いました。」
「…そこまで、エミリアのことを。」
それほどまでにレイニードが自分のせいだと思っていたなんて。
レイニードの行動が正しいことではないとわかっているのに、
私を追って飛び込んでくれたことがうれしいと思ってしまった。
それがレイニードの責任感からだとしても。
「事情は分かりました。
神の審判のやり直しが認められたということは奇跡です。
お二人が共にやり直しするということにも意味があるのでしょう。
ですから他から邪魔されないように、秘密にした方がいいと思います。
特に、この白銀の魔力は…下手すれば王家に狙われます。
お二人が引き離されてしまうことも考えられます。」
「…神父様、この二人の魔力測定は無かったことにしてもらえますか?」
「ええ、もちろんです。
私は王家ではなく、神に仕えています。
神を裏切ることは出来ません。
…今日は魔力測定ではなく、神に感謝するために来てくださったのですよね?」
「…はい!そうです!」
「ありがとうございます!」
神の審判のやり直しが他に知られたらまずいことになりそうなのはわかった。
特に王家に狙われて、ビクトリア王女に関わるような真似はしたくない。
レイニードが騎士を目指さないなら、今度は関わらないで済むかもしれない。
「…そうです。婚約しているのですよね?
では、婚約の儀式をしてしまいませんか?」
「婚約の儀式ですか?12歳で?」
「本人たちの気持ちがしっかりしていれば構いません。
それに、この子たちの中身は17歳なのでしょう?
十分に理解できる年齢だと思います。」
「そうか…中身は17歳なのか。
エミリア、レイニード君、どうする?
婚約の儀式をしてしまえば、
王家が出てきてもそうそう引き離されることはないと思うが…。」
「俺はしたいです。」
「私もいいけど、本当にいいの?」
「エミリアと離れないですむなら、こっちからお願いしたいくらいだ。」
婚約の儀式をする貴族は少ない。
家のつきあいや政治的理由での政略結婚がほとんどのこの国で、
一度結んだら離れるのが難しい儀式は必要とされていない。
何かあれば婚約解消して、新しい婚約を結ぶこともめずらしくないからだ。
婚約の儀式をしたら、お互いの不実以外は破棄できない。
この不実というのも心が離れたらというもので、
身体が無理やり奪われようと心さえつながっていれば婚約を破棄できない。
「それでは、手をつないで…。」
レイニードを縛るようなことをして良いのかなという思いは消えなかったけど、
少しでも離れないでいられるように結び目が増えるのならと。
心の声を聞かなかったことにして儀式を終えた。
この日結ばれた婚約の儀式は、この国では数年ぶりのことだったらしい。