69.修練場にて(レイニード)
「よし、そこまで!」
講師から声がかかり、打ち合いをしていた皆の動きが止まる。
武術の授業は剣術か棒術のどちらかを選択することになっていて、
俺は前回と同じように剣術を選択していた。
8割の学生が剣術を選択するだけあって人数は多く、教室は5つに分かれている。
修練場や外など、その時によって授業を受ける場所が変わる。
そのため、剣術の授業の時はエミリアには教室で待っていてもらっている。
エミリアの場合は礼儀作法でもお茶会でも授業を受ける教室は変わらないからだ。
汗をぬぐいながら外に出ると、フレデリック様とその学友たちが待ち構えていた。
ジョージア様が手をまわして王子とは違う教室にしてくれたというのに、
わざわざ俺の教室まで来るとは何の用なのか。
向こうから話しかけられるまでは、こちらから何もするつもりは無い。
そう思って目の前を通り過ぎようとしたら、声をかけられる。
「おい、待て。」
「何か御用ですか?」
「レイニードと言ったな。
お前、エミリアとの婚約を解消しろ。いいな?」
わざわざ俺に会いに来たと思ったら、何を考えているんだ。
周りにいた令息たちも動きを止めてこちらをうかがっている。
「お断りします。」
「なんだと!?」
「エミリアと婚約解消する理由がありません。」
「…エミリアは俺が娶って第二王子妃とする。
王子妃になるのは、令嬢にとってこの上ない名誉だろう。
だから、お前は潔くあきらめて婚約解消しろ。」
「…ですから、そうする理由がありません。」
「お前は…わからない奴だな…。」
いや、わからない奴なのはお前だよと言ってやりたいけど、さすがにこらえる。
何を言われてもフレデリック様の思う通りにはならないと知っている。
だけど、エミリアを自分のもののように言われるのはやっぱりむかつく。
「エミリアは第二王子妃になるつもりはありませんよ。」
冷静に、できるかぎりわかりやすく伝えようとしたが、無理なようだった。
「それはお前がずっと一緒にいて洗脳しているからだろう!
引き離そうとして呼んでも断られる。
おかしいだろう!?俺が呼んでいるんだぞ?
お前がエミリアに命令していなければありえない。」
「エミリアを呼んだのですか?」
「そうだ。さきほど、ゆっくり話をしようと思ってエミリアを呼んだ。
お茶会の教室へジュリアに迎えに行かせたが断られたそうだ。
俺が呼んでいるといっているのにも関わらずだ。
お前が何かしているのだろう!」
どうやら直接フレデリック様が何かしたのではないとわかり、少しホッとする。
だけど、男爵令嬢に呼びに行かせた?侯爵令嬢のエミリアを?
それも第二王子の名で呼びに行かせただと?…ありえない。
この人は第二王子だというのに、そんなこともわからないのか…。
これはもう少しジョージア様に危機感を持ってもらった方がいいな。
この状態で他国の王族と会ったら…何かしでかしかねない。
「呼ばれても行かなかったのなら、それはエミリアの意思です。
俺が何か命令しているわけではありません。
話は以上ですか?
それでは、失礼します。」
「おい、待て!
俺が話している途中だろう!」
通り過ぎようとしたところを捕まえられそうになったので、
身体強化を全身にかけて速度を上げ、さっと通り過ぎる。
一瞬で外に出ると、修練場の中から騒いでいる声がした。
「おい!どこにいった!探せ!」
これ以上付き合っている時間は無い。
ただでさえエミリアを待たせてしまっている。
今日のことは…ライニードに報告してジョージア様に伝えてもらおう。
前から人の話を聞かない人だとは思っていたがこれほどとは…。
あまりのひどさにため息しか出なかった。




