61.三学年開始
「三学年になっても、お前たちがやることはあまり変わらない。
二学年と違って授業はないが、図書室に通い、
この一年間で中級の魔術書をすべて身につけること。
レイニードとエミリアは貴族科の必須授業があるが、
そっちは貴族科の先生から説明を受けてくれ。」
「「はい。」」
「ファルカとルリナは二人がいない間に魔術書を読んでおくんだな。
レイニードとエミリアは中級の魔術書も残り50冊といったところだろう。
少しでも差を縮めて、追い越すくらいの気持ちでな。」
「…無理ですよ…。」「…。(無理)」
二階の学年には担当の先生はつかないらしく、普段は放っておかれている。
三学年に上がった初日、プロイム先生が久しぶりに来て説明をしてくれた。
頼りになる先輩たちは四学年になったため、この階にはいない。
この説明がなかったら、何をしていればいいか困ってしまっただろう。
「あぁ、そうだ。新しい二学年なんだがな…。」
そうか。私たちが三学年になったら、新しい学生が二学年に上がってくる。
ジングラッド先輩やアヤヒメ先輩たちのように、
私たちも先輩として後輩の手助けをしなければ。
そう思っていたのに…。
話しにくそうにプロイム先生がそれを止めた。
「残念だが、お前たちとはレベルが違いすぎる。
それに全員が平民なんだ。…多分、話しかけても固まってしまうだろう。
ミーアが失敗したことも、他の学生にバレてしまっていてな…。
レイニードもエミリアもそういうことは気にしていない、
だから大丈夫だと言ったんだが、貴族に関わるのは恐怖でしかないらしい。」
「え?」
ミーアさんの失敗?
もしかして、前にレイニードに伝言されてた私に謝りたいって言ってたこと?
確かに平民が貴族相手にする態度ではなかったと思うけれど、
私たちは貴族として学園に通っているわけではないし、名乗ってもいなかった。
魔術師科ではそれが当然だと思っているから、気にしなくて良かったのに。
それが他の学生にまで影響するなんて思ってもいなかった。
「向こうから相談されたら応えてやってくれ。
それ以外は、慣れるまでそっとしておいてくれないか?
ちなみに今年の二学年は6名。全員が裏教室から上がってきている。」
「そうですか…わかりました。
こちらからは何もしません。挨拶も無用です。
何か必要なことがあれば声をかけるように伝えてください。」
仕方ないと言った感じの声でレイニードが答えると、
プロイム先生は安心して帰って行った。
せっかく後輩ができると思っていた私は少し落ち込んでしまったが、
ファルカとルリナはどうでも良さそうだった。
「…ルリナは後輩欲しくなかったの?」
「え?いたら楽しそうだけど、覚えていない?
私とファルカが先輩たちに初めて会った日。
王族と話すなんて!って固まってしまってたでしょ?」
「うん、そういえばそうだね。」
「だから、怖いっていう気持ちよくわかるんだよね。
そのうち慣れたら話せるかもしれないし。ね?」
「そうだね。」
最初は挨拶するだけで精いっぱいだったファルカとルリナだが、
今では先輩たちと食事をしたり訓練したりできている。
新しい二学年の子たちも私たちに慣れてくれたら…
その時には先輩として手助けできるようになるかもしれない。
そう思って、後輩たちには無理に近付かないことにした。




