59.強くなりたい
「もちろんです。アヤヒメ先輩のように…私もなりたいです。」
「じゃあ、まずは我慢しない。
嫌だったら嫌だっていうところから始めましょう?」
「…頑張ります。」
「ふふふ。そうねぇ、じゃあ一つジンガ国の話をしましょうか。」
とびきりの笑顔になったアヤヒメ先輩は、
面白がるように私にジンガ国の情報を教えてくれた。
「ジンガ国の王族は多いのだけど、無条件で王族に残れるのは王妃の子だけなの。
側妃の子は、強い魔術師を他国から連れて帰って婚姻しなければならない。
今、ジンガ国には私の一つ上に第二妃の娘が、二つ下に第四妃の娘がいるわ。
連れて帰る条件は強い魔術師の男性、その一点なのだけど、
どちらの王女も貴族出身じゃなければ嫌だと言ってるそうなの。
では、問題よ?貴族出身の強い魔術師…そんなにいると思う?」
「いないはずです。
この国もしばらく魔術科に貴族はいなかったと聞いています。」
「そうよね。
比較的魔力のある貴族が多いサウンザード国でもそんな状態だもの。
他の国はもっと少ないのが現状でしょうね…。
で、そんな中、公爵家二男で家を継ぐ必要もなく、
どう考えても強い魔術師になるのがわかっていて、
容姿も剣の腕も素晴らしいレイニードの価値は?」
「え?」
「この国の婚約の儀式をしていても、心を奪えばいいのよね?
だったら、自分に自信がある王女たちはどう行動すると思う?」
「…私を気にせずに、レイニードを誘惑してくると思います…。」
「そうするでしょうね。
で、私がサウンザード国に来ている以上、
ジンガ国にエミリアやレイニードの情報は流れているわ。
…いつ王女たちがレイニードをねらって留学して来てもおかしくないってこと。」
「…。」
狙われているのは私だけじゃなかった。
まさかレイニードも狙われる可能性が高いなんて…。
目の前にいるアヤヒメ先輩の異母姉妹…きっと美しい王女様に違いない。
そんな王女様たちが留学してきて、レイニードに近付いてきたら…。
「ね、エミリア。本当にそんなことになってもいいの?」
「…。」
「今なら、私が止められるかもしれないけど…?」
「…本当ですか?」
「それは…エミリア次第ね。どうしたいの?」
ビクトリア王女の自信満々な笑顔が思い出される。
その腕がレイニードの腕に添えられて…。
あのようなことが、また起きるなんて…そんなの…。
「…嫌です。たとえ、アヤヒメ先輩の姉妹で美しい王女様だったとしても…。
レイニードの隣にいるのは…私です!」
「よく言えたわね。最初の一歩、踏み出せたんじゃないかしら。
そう、嫌なことは嫌だって言うのよ?
ちゃんとレイニードとも向き合って、
過去の嫌だったこと全部言ってしまって、
一回くらい殴っておけばいいわ!」
「…殴るのはやめておきます…。」
「ふふ。そう、そうよ。
ちゃんと自分の意見を言えるようになったじゃない。
私がこの学園にいられるうちに、
強いエミリアが見られるのを楽しみにしているわ。」
「アヤヒメ先輩…ありがとうございます。」
久しぶりにすっきりとした気持ちだった。
何か、自分の中で区切りがついたような…そんな気がした。




