54.異変
昼休みに外に出ようとしたら、
ジングラッド先輩とアヤヒメ先輩が外から戻ってくるところだった。
二人もちょうど昼休みになったところだったようで、
久しぶりに一緒に昼食を食べることになった。
ルリナとファルカは図書室に本を返してから来ると言うので、
三人で階段を降りて外に向かう。
ちょうどジングラッド先輩に用事があったので話しながら向かった。
「そうか。もう旅立ってしまったんだな。」
「はい。半年後にはまたジンガ国に戻る予定のようです。
ローブが必要なら、その時に連絡してほしいと言ってました。」
「本当か!それはありがたい!」
「ふふっ。良かったわね。
あの魔術具屋さんは客を選ぶし、ローブはなかなか作ってくれないのよね。
まさかエミリアのお祖母さまだったなんて。」
「私も今回お祖父さまとお祖母さまが帰ってくるまで知りませんでした。
どこかで生きているらしい…というのはわかってたのですが、
家の中で魔術に関する話をするのは避けていましたので…。」
「ああ。父親が魔力無しで魔術師になれなかったんだったな。
それは…たしかに気まずくて聞きにくいか。」
「今回の件で、それも誤解だとわかりました。
お父様とお祖父さまの仲がいまいちなのは、
ただ単に性格が合わなかっただけのようです。
お父様は物静かな感じなのですが、お祖父さまは…豪快な方で…。
一緒に暮らした二か月の間、お父様が怒っているのを何度も見ました…
侯爵位を譲った後、お祖父さまたちが旅に出たのもわかる気がします。
お祖母さまも…自由な方ですし。」
「魔術師って、たいていそんな感じよ?
自由というか気ままというか…貴族とは相性悪いわよねぇ。」
「そうだな。俺も魔力無しの兄上たちとは相性悪いな。
自国にいた時はしょっちゅう怒られていたよ。
魔術使って隠れてると…余計気にさわるのか怒られて…。
まぁ、そういうのは仕方ないな。」
「そんなものですか…。」
「そういえば、レイニードはどうした?
一緒にいないのはめずらしくないか?」
「いつもの場所に一緒に向かっていた途中で忘れ物に気がついて、
レイニードには先に行ってもらったんです。
きっと昼食をひろげて準備してくれてると思います。」
ほら、と指さした先にはいつものテーブルに昼食を用意しているレイニードがいた。
その隣に女生徒が一人いるのを見て、足が止まる。
向こうを向いているレイニードの表情は見えないが、
こちらを向いている女生徒が笑顔をレイニードに向けているのを見て、
頭の中に以前の記憶がよみがえってくる。
いつもいつもレイニードの横には令嬢がいた。
ビクトリア王女、男爵令嬢、エリザベス…名前も知らない令嬢たち…。
それを私は見ているだけだった。
レイニードにうれしそうに笑いかける令嬢たちがうらやましくて…憎くて…苦しくて。
真っ黒い感情の渦に飲み込まれるように、そこから動けなくなる。
「おい…?どうした?」
「エミリア…?どうしたの?大丈夫?」
先輩たちの声が遠くに聞こえているのに、
頭の中は誰かといるレイニードのことでいっぱいだった。




