53.師匠と弟子
外側は固い金属でできた騎士の身体に、水の塊を埋め込む。
その塊を一気に蒸気化させると、内部から爆発して騎士は崩れおちる。
外に向かって破片が飛ばないように、騎士は一体ごとに結界を張っておいた。
すべての騎士が消えると、向こう側にジョセフ様が笑っているのが見えた。
「かなり使いこなせるようになったな。
騎士の内部を透視して、隙間に水を転移させて爆発させて結界を張る、か。
ここまで同時に使いこなせる魔術師は少ないだろうよ。」
「ジョセフ様はできますよね?」
「俺は…六か国の中でも有数の使い手なんだぞ?
年老いたとしても、魔術師としての腕は落ちていない。」
ジョセフ様は魔術師としてとは言ったが、
剣士としてもその腕はかなりのものだった。
俺も前の時に騎士を目指していたこともあるし、
それなりに才能はあると自負していたが、その自信は初日にかき消された。
いかに自分ができていなかったのか、徹底的に思い知らされた。
「もうすぐジンガ国に戻るのですか?」
「いや、ジンガ国に戻る前に、ユラール三国を見てこようと思う。」
「ユラール三国に?」
ユラール三国とは、旧ユラール国のことで、
今はヒュンレル国、ダンバル国、タユンケル国に分かれている。
ユラール国は辺境伯が内乱を起こし、二国に分かれた後も争いが続き、
中立する王族と貴族がもう一つの国を作った。
以来、ヒュンレル国とタユンケル国の真ん中に中立国のダンバル国が入り、
三国のバランスを取っている。
六か国の中で一番戦争が起きやすい地域でもある。
何度かヒュンレル国とタユンケル国の間で小競り合い程度の争いは起きており、
その都度ダンバル国とジンガ国が仲裁に入っている。
「…また争いが起きそうなんだ。
ジンガ国から頼まれてな。様子を見てきてほしいと。」
「ユリミア様も一緒にですか?」
「ああ。心配するな。ユリミアはああ見えて強いぞ。
攻撃魔術に特化したものでなくても、戦うすべはいくらでもある。
俺はそれをユリミアから教えられたよ。」
「そうですか…。」
「レイニードも一緒に行くか?」
「は?」
「強くなりたいのであろう?
俺と一緒に行けば、間違いなく強くなれるぞ。
エミリアが心配なら、その間ユリミアをここに置いていく。
お前を連れて行って、もう一度ここに戻って来てからジンガ国に帰ればいい。
どうだ?修行しに行かないか?」
ユラール三国へと修行をしにいく?
それは…確かに危険な地域に行くなら戦う機会も多いだろうし、
旅をすることで学ぶことも多いだろう。
この二か月で自分がどれほど成長できたのか、確認できるかもしれない。
それにジョセフ様から実践を通じて修行し続けることができる。
確実に強くなれるはずだ。
そこまで考えた後で、結論を返した。
「俺はジョセフ様についていくことは出来ません。」
「…どうしてだ?」
「俺は…エミリアを守るために強くなろうとしています。
だけど、それよりもエミリアと約束したことがあるんです。
ずっと離れないでそばにいるって。
エミリアのために強くなりたいからと言って、
エミリアのそばを離れたら意味が無いんです。
俺は…エミリアのそばに居続けるために強くなりたいのですから。」
「おし。合格だな。」
「え?」
「強くなりたいというやつは、
何のために強くなろうとしているのかを忘れがちだ。
レイニードがそれを忘れて修行に行こうとするなら、
喝を入れておこうと思ったのだがな。
どうやら余計なお世話だったようだ。」
「いえ、俺は一度…自分さえ頑張ればエミリアのためになると思って、
結果エミリアを深く傷つけてしまったことがあります。
だから決めたんです。二度と間違えないと。
エミリアのそばにいます。その上で強くなってエミリアを守ります。
自分一人だけの力じゃ無理でも、
父上や義父上の力を借りてでも、エミリアを守ります。
いつか…ジョセフ様の力に頼ることもあるかもしれません。俺が弱いせいで…。」
「それでも、エミリアのそばからは離れない、というんだな。」
「はい。」
「それでいい。困ったら俺やユリミアを頼ってもいい。
お前はもう俺の弟子だし、すぐに孫になるんだろう。
力が必要になったら、すぐに呼びなさい。」
「はい!」




