52.食事時
「え。もう修行をはじめたんですか?
今日の夕食の時に紹介してからって言ったじゃないですか!
だからレイニードもエミリアも食事に来れずに…。
父上、母上…やりすぎですよ。ゆっくり始めるんじゃなかったんですか?」
「俺はそのつもりだったんだがな…。」
「私だってそのつもりだったのよ?」
「じゃあ、どうして…。」
久しぶりに父上と母上が帰ってくると言うので、
できるならレイニードとエミリアに身を護るすべを教えてほしいと、
そう頼んだのは自分なのだが…。
まさか旅から帰って来たその日のうちに修行を始めるとは思わなかった。
おかげで魔力を使い切るまで修練場で戦っていたレイニードは、
意識を失って倒れ、今は自室に寝かされている。
母上に調合を学んだエミリアは使い慣れていない術に疲れ、
ぐったりとしていて食事もできない状態だと言う。
一緒に食事をしている席で文句を言うつもりは無いのだが、
学園もあるというのに、これが毎日続くようなら困る。
父上と母上にはほどほど、とか限度、という言葉が存在しない。
こちらが気を付けてやらなければ、二人が倒れかねない。
「どうやら、エミリアの存在が危ういということに気がついたようだ。
そのためレイニードは守らなければと焦っていたし、
エミリアは足手まといになりたくないと悩んでいた。」
「それは…。」
「修行させながら話を聞いたら、
ジンガ国の姫とイストーニア国の王子が魔術師科にいるそうだな。
王族からみたら、サウンザード国でしか過ごしたことのない令息令嬢のことなど、
のん気なものに見えるのだろう。警告してもらったそうだよ。」
「警告ですか…もう少し先でも大丈夫だと思いましたが、
その余裕も見透かされたのかもしれませんね。」
「俺たちが帰ってくれば警告すると思ってたのだろう?
だが、俺たちが言うよりも効果あったようだな。かなり深刻に考えておったよ。
今日の修行を魔力切れ起こすまでやめなかったのは、その反省なんだろうな。」
「エミリアも、何も考えられなくなるまで没頭したがってました。
それだけ、何かしなければ落ち着かない状態に追い込まれていたのでしょう。」
「そうですか…二人ともそんな状態でしたか。」
「一か月あればいいと思っていたが、予定を変える。
二か月はここにいて教えることにする。あれはきちんと修行させるべきだ。
明日からはもう少し落ち着いて修行できるだろう。
二か月も修行できれば、少しはましになる。」
「エミリアも、二か月もすれば調合と錬金もできるようになるでしょう。
知識の重要性はきちんと理解できているようです。
わかっているのなら、使いこなせるようになるのも早いと思いますよ。」
「わかりました。父上、母上、二人をよろしくお願いします。」
「ああ。わかった。」




