46.危機管理
「実は…この国の王女を娶る話も出てたんだ。
俺か第四王子のどちらかにどうかって。
だけど、大臣たちから反対の声が出てね。
ビクトリア王女って病弱で療養中なんだろう?
うちの国は子が出来なくても離縁できない国だから。
さすがに病弱な王女じゃ困るって。」
あぁ、こんなところにも影響が出ていた。
噂を収束するために病弱ということにしたから、
ビクトリア王女の嫁ぎ先が無くなってしまったんだ。
まだ王都にも来れない状態じゃ…
この国の貴族令息から婚約者を探すこともできないだろう。
「でも、どうして貴族科じゃなくて魔術師科だったんですか?」
ファルカの疑問ももっともだった。
嫁を探しているのなら、貴族令嬢が多くいる貴族科に入るべきだろう。
魔術師科には今まで貴族はいなかったと聞いているし。
「この国の魔術師科って、他の国の魔術師学校よりも難しいんだよ。
一学年より上にあがるのが半分以下って、ここくらいなものだ。
だから十三歳から入学できるだろう?
その分、ここを卒業したら優秀な魔術師になれると言われている。
せっかく留学の許可がでたんだし、挑戦してみたくなって。
入学してみて、ダメだったら貴族科に入り直せるしね。
その方が長くこの国にいられると思ったのもある。
イストーニア国って、王族に厳しいっていうか…自由が無いんだよなぁ。
俺がこうやってのんびり話しているのも怒られるって感じなんだ。」
どちらかというとおおらかなサウンザード国と違い、
イストーニア国は王族と貴族の差がはっきりしていると聞いている。
元は同じ国、ファラー国だった二国。
第一王子と第二王子が仲たがいし、長年にわたる戦争になった。
結果、第一王子はサウンザード、第二王子はイストーニアを治めることになった。
ファラー国が二つの国に分かれたのはもう220年ほど前の話で、
今の両国は友好的でお互いに王女を嫁がせることも多く、王族の顔立ちは似ている。
金色の髪、青か緑の目の色という、両国の王家の色も同じだった。
ジングラッド様は少し肌が色黒なのと、
鍛えているのか身体つきががっしりしているのもあって、
顔立ちはジョージア様と似ているとは思うが、印象は全く違って見える。
「でも、この国は第一王子も第二王子も婚約していない状態です。
おそらく婚約者のいない高位貴族の令嬢は候補者になっているのでは。
その状態で婚約者を探すのは難しくないですか…?」
ジングラッド様に聞きながら、思わずアヤヒメ様の方を見てしまう。
それに気がついたのか、二人に笑われてしまった。
「ホント…エミリアは貴族らしくないな。
顔に出てしまっているよ。
その通り、俺はアヤヒメを連れて帰る気でいるよ。
返事は保留だけどね。」
「えっ。」
もう求婚済みだったの?
アヤヒメ先輩、保留しているってどういうことですか?
「もう…ジンってば。内緒にするんじゃなかったの?」
「ごめんね?なんだか、この子たちは信用できそうだし、
それにエミリアを見ていると危ういっていうか…ね?」
「そうね…とても危ういわね。」
「私ですか?」
二人が言う危ういとは、なんだろう。
「ねぇ、エミリア。俺が嫁探しって言ってるのに、
なんでエミリアは自分には関係ないって顔しているの?
自分だって貴族令嬢で、しかも歴史ある侯爵家だ。
王家に求められる可能性が高いってわかってないの?」
「え?でも、私はもう婚約していて…。
レイニードと婚約の儀式もしているのですけど?」