40.王族の二人
顔を上げるように言われ、すぐさま非礼を詫びる。
この魔術師科では相手の身分がわかるような行動をしてはいけなかったのに。
つい反射的に頭を下げてしまっていた。
「申し訳ありません。考え無しに行動してしまいました。
エミリア・エンドソンと申します。」
「同じくエンドソン家から通っています、レイニード・ジョランドと申します。」
相手の身分を勝手に明かしてしまった以上、こちらが名乗らないわけにはいかない。
私とレイニードは学園に来て初めて正式に名乗ることになった。
「あの有名なエンドソン家か。魔術師科にいたんだな。
もうエンドソン家の魔術師はこの国にいないと聞いていたのに。」
「ええ、驚いたわ。二人ともエンドソン家から通っているの?
他にもエンドソン家の魔術師はいるのかしら?」
魔術師史の授業でエンドソン家のエミーレ様が出るので、
魔術師科にいるのならエンドソン家を知っているのだろう。
二人とも目を輝かせて話しかけてくる。
「今のエンドソン侯爵、私の父は魔力がありません。
それに父は一人息子で、他の兄弟姉妹もおりません。
そのためにエンドソン家の魔術師はいません。」
「エンドソン家はエミリアしかいないので、俺が婿に入りました。
俺とエミリアは二人とも魔力がありましたから、魔術師を目指しています。」
そう説明すると納得してくれたようでうなずいている。
先ほどの失礼は…気にされていないのだろうか。
それに気が付いたのか、アヤヒメ様に咎められるように聞かれる。
「でもね?どうして私たちのことを知っているの?
あなたたち、まだ夜会に出れる年齢じゃないわよね?
私たちだってまだこの国の夜会に出席していないし…。」
やっぱり聞かれてしまった。
やり直し後の今は、アヤヒメ様にお会いしたことは無い。
こうしてすぐ気が付くのはおかしいのだ。
どうしようかと迷っていると、レイニードが前に出て答えてくれる。
「申し訳ありません。
私の兄、ライニードがジョージア様の側近候補でして。
つい先日会った際にアヤヒメ様の話を聞いたのです。
たいそうお美しい方だと…それで、ついエミリアにも話してしまったのです。
虹色の黒髪はジンガ国の王族の色ですし、
お会いしたことが無くてもわかりました。」
あとでライニードに謝らなきゃ…。
そう思いながらレイニードの話に同意するようにうなずいた。
「あれ。アヤヒメだけ?俺には気がついてなかったの?」
レイニードの言い訳を聞いた男性が面白がるように聞いてくる。
金髪緑目で、少し色黒ではあるが…このお顔立ち…ジョージア様に似ている。
きっと、この方も王族なのだろう。
「イストーニア国の王族の方でしょうか…?」
「あぁ、色でそのくらいはわかるか。
ジングラッドだ。イストーニアの第三王子。
留学してきたらアヤヒメがいて驚いたよ。
この国の魔術師科には貴族がいないって言うからのんびりできると思ったのにさ。
まぁ、結局俺とアヤヒメだけになっちゃったから、のんびりしてる。
というわけで、この学園にいる時は先輩として扱ってくれる?」
「はい…もうしわけ」
「ほら、それ。やめよー。先輩ごめんって言ってくれればいいからさ。」
「ジン、さすがにそれは無理でしょう。ごめんなさいね。
でも、慣れてくれたらうれしいわ。アヤヒメ先輩って呼んでくれる?」
「はい、先輩。」
「わかりました…先輩、これからよろしくお願いします。」
「うんうん。あ、じゃあ後ろの二人の名前は?」
あ、そうだった。
思い出して振り向くと、ルリナとファルカが固まっていた。