39.新たな出会い
二学年になって最初の作業はバッジをつけることだった。
「このバッジが無いと校舎の階段が見えないようになってる。
二階は二学年と三学年の教室と中級以上の魔術書がある図書室だ。
このバッジが無いと中に入れないようになってるから忘れないようにな。
制服かローブにつけておけ。」
赤い雫が二つ並んだバッジを一人ずつ渡される。
それを制服につけるとプロイム先生が満足そうにうなずいた。
「この学年は優秀だったな~。五人中四人あがれたのは初めてだよ。」
「先生、ミーアさんは…?」
「うん、頑張ってるぞ。もう少しで三語覚えるところだ。
反省したようだし、魔術書もじきに開くんじゃないかな。」
「そうですか。」
あの状況では学園をやめてもおかしくなかったと思う。
まだ頑張って通っていると聞いて少しだけほっとした。
「先生、三学年は何人いるんですか?」
「男女比は?」
少し怖い顔したレイニードとファルカが先生に早口で質問している。
他の生徒に興味を持つのはめずらしいと思って見ていると、
なぜかルリナは呆れたようにしている。
「三学年は…二人しかない。男女一人ずつだ。
後で挨拶に来ると思うが…どちらも優秀な生徒だ。
あの学年は入学時には十一人いた。二学年にあがったのは二人だけだった。
一人は辞めて、残りの八人はミーアと一緒に頑張っているよ。
去年、留年クラスから二学年にあがったのが三人いたんだが…
二人との実力差がありすぎて、その三人は裏教室に移ってる。
今年は留年クラスから二学年にあがるものはいないから、
お前たちはそのまま四人で問題ないだろう。」
「二人だけ…男女一人ずつ。」
「それなら大丈夫かな…。」
ぶつぶつと小声で何か言いながら考え込んだレイニードとファルカを置いて、
ルリナは早くいこうと手を引っ張っていく。
「ちょっと待って。そんなに引っ張らなくても行くから大丈夫よ。」
「あ、エミリア。俺も行く。」
「え、みんなして置いて行かないでよ~。」
ルリナを先頭に四人で階段を上がっていくと、広い廊下に出た。
両脇に一つずつ扉があり、奥には一階と同じような石柱がある。
おそらく石柱があるところは図書室だろう。
「左右に教室…どっちが二学年かな。」
そうルリナが言ったのが聞こえたのか、左の教室から生徒が二人出てきた。
「そっちが二学年の教室だよ。ここは三学年。
今年の二学年は四人もいるのか?優秀だな。」
そう話している金髪緑目の背の高い男性の後ろから、
黒髪赤目の妖艶な美女が出てきたのを見た瞬間、
反射的に頭を下げて礼の姿勢をとってしまった。
レイニードも同じように頭を下げている。
後ろのファルカとルリナが慌てているのに気が付いて、
しまったと思ったが遅かった。
男性と女性は私たちの行動に驚いたようだったが、すぐに対応される。
頭を下げられることに慣れている者として。
「この二人は貴族なのか。」
「あらあら。魔術師科で貴族に会うと思わなかったわ。
二人とも顔を上げてくれる?」
やり直し前の時に何度か夜会で見かけたことがあった。
光の反射で虹色にも見える黒髪はジンガ国の王族特有の髪色だ。
この方はジンガ国の第四王女アヤヒメ様。
我が国の第一王子ジョージア様の…婚約者だった。




