38.エミリアの評価
「ふぅ…。」
「ん?読み終えた?少し休憩しようか。」
学園の授業が早く終わるようになって、
帰ってきてから夕食の時間までは図書室にこもるようになっていた。
同じソファで魔術書を読んでいるレイニードにもたれかかるように座ると、
レイニードの体温が伝わってきて安心する。
読み終わった魔術書をテーブルに置いて休憩しようとしたら、
腕の中に閉じ込めるように後ろからレイニードに抱きかかえられた。
「まだ落ち込んでるの?」
「…うん。どうしてあんなに嫌われちゃったのかなって。
前の時もそうだったけど、女の子に嫌われやすいのかな…私。」
「あー。前の時って、もしかして王女やエリザベスに何か言われた?
それとも他の令嬢?
ミーアに言われてるとき、言い返してなかっただろう?
エミリアを見ていたら言われ慣れているような気がして…。
俺の知らないところで言われてたんじゃないかって思ったんだよね。」
「…そうね。前の時はよく言われてたわ。
学園でも夜会でもお茶会でも…。
直接話してくれる人はいないのに、私に聞こえるように言われるの。
地味女とか、王女の恋愛を邪魔してるとか、
私なら恥ずかしいから自分から婚約解消を申し出るのに、とか。
でも、言われても仕方ないかなって思う…。」
「エミリア…。」
抱きしめる力が少し強くて、そのせいなのか胸が苦しい。
レイニードが私の髪を少しとって、くちづけてくれる。
「…前の時、エミリアの髪が手入れされてないのに気が付いて、
何度か香油を送ったことがあった。」
「香油を?」
「うん。エミリアのお気に入りのやつ。
でも王女に気が付かれるとまずいから、
ライニードに頼んで侯爵家に送ってもらったんだ。
…結局はエリザベスに盗られてたみたいだけどね…。」
「知らなかったわ。レイニードが私の髪を気にしてくれてたなんて。
あの頃、髪も肌も爪も手入れできなくて…化粧もさせてもらえなかった。
どんどんみすぼらしくなっていって…
こんな私じゃレイニードにふさわしくないって思ってた。」
「…エミリアは化粧してなくても、綺麗だったよ。
一人でいてもきちんと前を向いて凛としていた。
なんていうか、それが他の令嬢とは違って、透き通るような綺麗さだった。
だから令嬢たちにねたまれたんだと思う。」
そんなことはないと反論しようとしたら、レイニードが悲しそうな目をしていた。
「エミリアが綺麗なのは変わってなかったけれど…
少しずつ少しずつ俺を見る目が冷めていくのがわかって…。
無関心になったように感じていたんだ。それが怖くて…。
本当はすぐに駆け寄って抱きしめて好きだって言いたかった。」
「レイニード…。」
「ごめんな…俺のせいで令嬢たちに文句言われてたのに。」
「レイニードのせいじゃないよ。」
「この髪も、この肌も、ようやくこうしてさわれる…。
どこをさわってもすべすべで柔らかくて…とても綺麗だ。
抱きしめて、体温を感じて、ようやくエミリアを実感できる。
もう二度と失ったりしない…から。」
頭のてっぺんから少しずつキスが降りてくるのをそのまま受け止めて、
振り向くように見上げた。
そっと優しくくちびるが重なって、それから何度も何度も重なり続けていた。




