33.ミーアの努力
それからというもの、家庭教師の先生が家に来るようになった。
「六か国の公式語は三つです。これは必ず覚えなくてはいけません。
我が国のはファラー語です。読み書きは出来ますか?」
「話すのはできるけど、読み書きは少しだけ。」
「じゃあ、まずはファラー語からですね。
入学前にはジンガ語とユラール語も覚えなくてはいけません。
大変ですが頑張りましょうね。」
若い女の先生はそう言ったけど、
それまで教会で勉強するだけだった私にはファラー語を書くのが難しかった。
何とか読めるけど、書こうとすると文法が違いますって怒られる。
ようやくファラー語で合格したと思ったら、ジンガ語は絵にしか見えなかった。
「何これ。文字じゃないよ、こんなの。」
「絵のように見えますよね。
ですが、ジンガ語は六か国会議の議長国ジンガの公式語です。
必ず覚えなくてはいけません。
頑張りましょう?」
「…。」
頑張ってようやくファラー語を覚えたのに、今度はジンガ語。
しかも絵にしか見えないのに、これが言葉?
…それに、これ覚えても、ユラール語が待ってる。
魔術師になるのに、なんで六か国の公式語を覚えなきゃいけないの?
もっとこう、魔力を高める訓練とか、そういうのないの?
「魔力を高める…ですか?
魔術書を読むためには、公式語を覚えないといけないのですよ?
ユラール語まで覚えたら、魔術書を読めるようになりますから。」
来る日も来る日もジンガ語の絵を覚える毎日。
ちっとも頭の中に入らない。
あっという間に最初の家庭教師の日から一年がたっていた。
「ミーアの調子はどうだ?」
「それが…ジンガ語が覚えられないようで、
ユラール語もまだなのですが…。」
「一年もたって、ファラー語しかできていないのか?
入学まで間に合うんだろうな!?」
「…わかりません。」
「わかった、お前はもう来なくていい。」
そんな会話をお父様と先生がしていた次の日から、
今度は怖そうな顔したおじいさんが先生としてきた。
おじいさん先生の授業は厳しくて怒鳴るから、すぐに嫌になって逃げ出した。
毎日先生が来る前に部屋から出て、友達の家に遊びに行った。
そんな日が三か月続くと、今度は違う先生になっていた。
でも結果は同じ。厳しい先生ばかりで、すぐに逃げ出すことになった。
「…これは入学試験受からないかもしれませんね。」
そう先生は言ったけど、試験には公式語が出なかったから合格した。
喜んだお父様が制服とローブを買ってくれて、
勉強道具もすべて新しいものをそろえてくれた。
公式語を覚えなきゃ魔術師になれないなんて誰が言ったの?
試験には出なかったし、ちゃんと合格したもの。
覚えなくても問題なかったってことよね。
学園楽しみだな。どんな子がいるんだろう。
かっこいい男の子いたらいいな…。
同じ学園には貴族も通ってるって聞いた。
もし見初められたらどうしよう。
「お嬢様はお可愛らしいから、貴族のかたに見初められるかもしれませんね。
その時はアンナも一緒にお嫁入先に連れて行ってくださいね。」
そんな風にアンナにお願いされて頷いた次の週、
学園の魔術師科に入学した。
朝起きるのが苦手で、何度も起こされてやっと起きて、
そのあとも寝癖を直してもらっていたら時間がギリギリだった。
商会の馬車を一台私専用にしてくれたから、
行き帰りは馬車で送ってもらうことになっている。
アンナを連れて行くことは出来ないけど、
馬車で学園の中まで連れて行ってもらえるから大丈夫。
ようやく学園に着いたら、もう授業が始まっていた。
「ごめんなさいっ!遅れちゃいましたぁ!」