27.魔術師の常識
お弁当を食べながらルリナと話していると、
ファルカとレイニードも意気投合しているように見えた。
「あの後、俺にも話しかけて来たぞ。あの女。
ああいうの本当にめんどくさくて嫌なんだよな~。
自己紹介でレイニードが婚約して一緒に住んでるって聞いて、
こいつらなら大丈夫だって安心してたんだ。
まさかもう一人があんなめんどくさいのだとはな~。」
「まったくだ。
俺もファルカがルリナと結婚するって自己紹介した時から、
こいつらは大丈夫だって思って、
エミリアと仲良くなってくれるんじゃないかって安心したんだ。
…まさか遅刻してきたもう一人がああいうのだとはな…。」
愚痴の言い合いなのかのろけ合いなのか、
言いながらも二人はどんどん食べ進んでいる。
二人ともよく食べるなぁと思って見ていると、
同じような顔したルリナと目が合って二人で笑ってしまう。
「ねぇ、レイニードっていつもこんな感じ?」
「レイニードが他の人と話すのを見たことあまりなかったから、
いつもこんな感じなのかよくわからないの。
ファルカはいつもこんな感じ?」
「そうね。だいたいこんな感じよ。ファルカとはいつも一緒にいるの。
私とファルカは一族の中で魔力が高いから、昔からよく狙われてて。
その度にファルカが蹴散らしてくれていた感じかな。」
「一族の中で魔力が高い?二人は同じ一族出身なの?」
「ええ。白い髪と赤い目で産まれたら、まず間違いなく魔術師になるの。
だから小さい時から結婚相手にって狙われちゃうのよね。」
あれ?白い髪に赤い目…。
「もしかして…リシャエルさんって、知り合い?」
「あら。リシャエル兄さんの知り合い?
リシャエル兄さんはファルカの兄よ。」
「ええ?そうなの?」
「なんだ、兄さんの知り合いなんだ。そうだよ、似てるだろう?」
「あぁ、そう言われれば似ているな。
ファルカがもう少し身長伸びたらそっくりになるんじゃないか?」
確かに背の高いファルカがもう少し成長して大人になったら、
リシャエルさんにそっくりになりそうだった。
ファルカの方が身体つきは鍛えてそうだけど。
「うちの家系は身長が高いんだよ。男ばっかなんだ。
弟もそのうちここに通うだろう。まだ10歳だけどな。」
「リシャエルさんって何歳なの?」
「今年で21になる。
兄さんの下にも19歳の兄さんがいて、俺、弟の四人兄弟。
ルリナとは従兄弟なんだ。だからルリナも兄さんって呼んでる。」
「そうなんだ。」
全員の食事が終わったからお茶でも飲もうと思い、
左のポケットから木のコップを4つと紅茶ポットを取り出した。
コップに紅茶を注いで渡すと、ルリナとファルカが目を見開いて止まっている。
「え?どうしたの?紅茶、いらなかった?」
「やっ!えっ!…なに、今の?」
「紅茶ポット、どこから出てきた!?」
「え?ローブのポケット、収納になってるよね?」
「そんなわけあるか!」
「…俺のも収納になってるけど?」
「うそ!どういうこと!?」
どうやら普通に制服のローブだと思っていたものは違うらしい。
魔術科だから便利だな…くらいに思っていたのに。
「…えっと、二人ともローブのポケットが収納になってるのね?
どこでそのローブ手に入れたの?」
「…わからないわ。お父様が注文するって言って作ってくれたものなの。
どこに注文したのかしら。」
「お父様…えっと、家名を聞くのはダメなんだろうけど、
貴族なんだな?二人とも。」
「ええ。」
「そうか…じゃあ、きっと俺たちじゃ手に入らないな。残念。
まぁ、手に入ったとしても、魔力量が足りなかったら使えないんだけどさ。
驚いたよ。二人ともすごい魔力量なんだな。
俺たち…これでも一族の中ではすごいって言われてきたんだけど、
上には上がいるんだな。
そんなすごいやつと出会えてうれしいよ。
あらためて仲良くしてもらえるとうれしい。」
「ああ、こちらこそ。
俺たち、親が魔力無しだから、魔術師の常識がわからないんだ。
いろいろと教えてくれると助かる。よろしく頼むよ。」
「あぁ、そういうことなの。
そうね…常識がわからないと困るかもしれないわ。
何かあれば聞いてね。」
「ありがとう!ルリナ。」
ローブ一つのことでも、どうやら常識外れだったようだ。
おそらくお父様も魔術師の常識を知らないだろう。
二人に教えてもらえることになって良かった。
食後のお茶を飲み終わる頃にはすっかり仲良くなって、
午後の授業へと4人で教室に戻った。