24.魔術師科
ゆっくり馬車がとまると、先に降りたレイニードが手を貸してくれる。
長めのワンピースとローブを踏まないように降りると、
見慣れない学園風景が広がっていた。
「わぁ…裏門ってこんな感じだったんだ。」
「思ったよりも魔術師科の校舎大きいな。」
貴族科と騎士科が使う正門は正式には東門というらしく、
魔術師科が使う裏門と呼ばれる場所は正式には北門というらしい。
どうして魔術師科だけ裏門を使うのかというと、校舎が違うからだった。
正門から入ると貴族科の校舎をぐるっとまわりこまなければならず、
歩くとかなりの距離があった。
裏門から入れば目の前に校舎があり、
この門は魔術師科と一部の先生しか使用しないということで、
小さな門ではあるが貴族たちと会わなくて済むという点で安心感があった。
「魔術師科の入学式は無いから、直接教室に行けば良かったよね?」
「うん。校舎の一階が一学年の教室だって。」
校舎の中に入ると、すぐに教室は見つかった。
教室の中は二人掛けの机と椅子が真ん中の通路を挟んで左右に、それが三列。
全部で12人が座れるようになっている。
貴族科の教室と比べると半分以下の大きさだった。
「ずいぶんこじんまりとしているな…。
それだけ学生数は少ないとか?」
「そうかもしれない。全部座っても12人?
入学試験を受けていないから、他の学生のことわからないものね。
仲良くなれるかしら…。」
「…仲良くなれなくても、俺が隣にいるから大丈夫だろう?」
「そうだけど…女の子の友達欲しいなって。」
「そっか。いい子がいるといいな。」
仕方ないなって感じで笑って頭を撫でてくれるレイニードは、
この数か月で身長が伸びて、私と頭半分くらい差がついてしまった。
まだこれからもっと身長が伸びるのは知っているけれど、
少しだけ置いて行かれる気がして焦ってしまう。
前から一番目の左側の席に二人で座ると、
すぐに同じような男女の二人が教室に入ってきた。
二人とも白い髪に赤い目で、私たちと同じようにローブ姿だ。
男の子のほうはレイニードと同じくらいの身長で、
女の子のほうは小柄で私よりも少し小さいように見える。
声をかけようか迷ったところで先生が教室に入ってきたので、
慌てて座り直して前を向いた。
二人はどうやら私たちの後ろの席に座ったようで、椅子を引く音が聞こえてくる。
後で話しかけてみようと決意しながら先生の説明を聞いた。
「ん?まだ一人足らないな。まぁ、始めるか。
俺はこの学年の担当教師のプロイムだ。
一応は魔術師だが、教師やってるくらいだから腕はいまいちだな。
その辺はあまり期待しないでくれ。」
自分でいまいちって自己紹介する先生に驚いてしまう。
長めの黒髪を後ろで一つに結んでいて、
眼鏡の奥には細めの緑目が見える。
ほっそりしていて、ローブ姿はいかにも魔術師って感じだ。
おだやかでのんびりした話し方の先生で、なんとなくほっとする。
多少は厳しくても仕方ないけれど、初めて魔術を習うなら、
優しくて怒らない先生のほうがいいと思ってしまう。
「じゃあ、簡単に自己紹介してくれ。前から順にな~。
あぁ、家名は名乗らなくてもいいぞ。」




