154.結婚式
和やかに談笑している招待客に挨拶をして回っていると、
中庭の薔薇をながめている一組の男女が目に入った。
レイニードを見ると、レイニードも笑顔で頷く。
近くまで行くと私たちに気が付いたようで、軽く手を挙げて笑顔で迎えてくれた。
「ライニード。来てくれてありがとう。」
「エミリア、レイニード、結婚おめでとう。
やっとの結婚だね。…五年?いや、レイニードはその前からだな。
やっと結婚って感じか?」
「…もう十年待ったな。」
どうやら二人が言っているのはレイニードとした結婚の約束のことらしい。
ライニードもそのことを知っているようだ。
その時から十年…実際には十五年も待たせてしまっているのだけど。
「あの時は笑ったよ。
泣いて拗ねてたレイニードが戻ってきたと思ったら、
帰ってすぐに父上に稽古してくれ!って。
エミリアよりも強くならないと結婚してもらえない!って叫んでさ。」
「え?そんなことが?」
「…ライニード、よけいなこと言うなよ。
それよりも、ちゃんと紹介してくれ。」
「あぁ、そうだった。ミリーナだよ。」
ライニードに半分隠れるようにしていたのは、ミリーナ様だった。
私とあまり身長は変わらないが、
少し幼い顔立ちなのはまだ十一歳になったばかりだから。
さらさらの金髪に透き通った緑の目。
目鼻立ちがはっきりとしていて、
このまま大きくなれば華やかな美人になるに違いない。
「ミリーナ・マジェスタです。」
少し声が震えていたが、可愛らしい声をしている。
緊張しているのかと思ったら、真っ赤になってプルプルと震え出した。
「え?」
「…氷姫様にお会いできるなんて…うれしいです!!」
「えええぇぇ??」
氷姫様??どうして学園に入学前のミリーナ様がその呼び名を??
疑問に思っていたら、ライニードが笑いながら説明してくれる。
「リリーナ様だよ。
どうやらリリーナ様がエミリアの話をミリーナに教えたらしい。
俺も会うたびにエミリアの話をしてって言われるんだ。
ファンなんだってよ。」
「…リリーナ様が?実際に会ってみてがっかりしなきゃいいのだけど…。
ミリーナ様、エミリア・エンドソンです。初めまして。
私もお会いできてうれしいです。」
「エミリアに会ってがっかりはしないだろう。
ミリーナ嬢、レイニード・エンドソンだ。
ライニードの弟だよ。よろしくな。」
「は、はいぃ!!よろしくお願いします!!」
すっかり興奮してしまったらしいミリーナ様に、
落ち着くようにとライニードが背中を軽くたたいている。
その様子が仲睦まじく見えて、うまくいっているようで良かったと思う。
「もう他の招待客に挨拶に行かなくても大丈夫なの?」
「うん、ほとんどは挨拶できたと思う。
無事に終われそうでほっとしたわ。」
「そっか。結婚したらしばらくはジンガ国に行くんだろう?
帰ってくるまでにジョージア様が即位しているかもしれないな。」
「二人の婚約式には出られないと思う。先に謝っておくよ。ごめん。
…ライニードが宰相になるまでには戻ってくるから。」
「言ったな?じゃあ、急いで宰相になることにするよ。
二人がいないとつまらないからね。」
「ふふふ。頑張ってね、ライニード。
ミリーナ様、私たちがいない間、ライニードをよろしくね。
レイニードだけじゃなく、私にとっても兄みたいなものなのよ。
あぁ、今日からは本当に義兄になるんだわね。」
「エミリア様!おまかせください!
ライニード様は誰かが見てないと仕事しすぎて食事もしないってお姉さまも言ってました。
あまりにひどいようなら王宮まで押しかけて休憩させますわ!」
「頼もしいわね、ライニード。」
「そうだろう?」
ミリーナ様が何を言っても可愛いとでも言いたげなライニードを見て、
レイニードと目を合わせて笑ってしまう。
これではどっちが結婚式だったのかわからない。
でも、とても幸せな気持ちでいっぱいだった。
私たちだけじゃなく、周りのみんなも幸せでいてほしい。
そのことが確認できた結婚式だった。




