153.お願い
「実は…俺たち、しばらくジンガ国に行こうと思っているんだ。」
「「え!」」
「図書の森から入館証が来たら行こうと思ってる。
多分、そろそろ届くだろう。
そうしたら少なくても二年か三年は戻らないつもりだ…。」
「マジかよ…うらやましすぎんだろ。」
「侯爵家継ぐんじゃなかったの??」
「お父様に話したら、まだ元気だから継ぐのは十年後くらいでいいって。
そもそもお父様が早くに継いだのは、お祖父さまのわがままだったみたい。
貴族として生活するのに疲れたからあとは任せたって。
その時はお父様はまだ二十歳になったばかりで苦労したようなの。
私が産まれたばかりだったし、お母様も大変だったみたい。
だから私たちには急いで継がせるようなことはしないって。
お父様は文官としての仕事もあるから、
どちらもまだ引退する気はないから安心しなさいって言われたわ。」
「…そうなんだ。いいなぁ、図書の森に行くんだ。
うらやましい…魔術師協会の図書室に通う予定はあるけど、
図書の森は選ばれた魔術書が集まっているのでしょう。
私もいつか行ってみたいな。」
「俺たちもいつかは行きたいけれど、すぐには無理だよな。」
ルリナもファルカも図書の森に行きたかったようだ。
新しい魔術、新しい魔術書に興味があるのは誰もが同じようだ。
「そこで、二人にお願いがあるの。
うちの図書室に通ってくれない?」
「うそ!いいの!?」
「行けるなら、ぜひ!」
勢いよく立ち上がった二人に思わず笑ってしまう。
きっと二人ならいいと言ってくれるとは思っていたけれど、
喜んで引き受けてくれるのならありがたい。
「封印していると新しい魔術書が入ってこれないようなの。
そんなのもったいないでしょう?
だから、二人が好きな時でいいから図書室に通ってくれると助かる。
お父様たちには話してあるし、
信用できない人にあの図書室を任せることはできない。
二人になら安心して任せられるわ。」
「ありがとう、エミリア。私たちに任せて!」
「おう!いくらでも通うから、安心して任せてくれ!」
「ふふ。こちらこそ、ありがとう。
二人ともよろしくね。」
これでまた一つ不安が解消された。
どうしようもなくなったら封じていけば済む話なのだが、
その間の新しい魔術書が入らないのは残念だと思った。
二人が通ってくれるなら封じなくて済むし、ジンガ国から帰ってきて、
うちの図書室に新しく入った魔術書を読む楽しみも増える。
「あ、でも、そうなったら魔術師協会はどうするの?
所属したままで行くの?」
「そうなる予定。
リグレッド魔術師長に相談したら、
魔術師協会からの留学ということにしようって言ってくれて。
ついでに魔術師協会の仕事も頼まれて…。
結果的に、魔術師協会からの派遣って形で行くことになったの。」
しばらく魔術師協会に顔を出さないって言ったら、さすがに何か言われるかもしれないと思ってたけど。
リグレッド魔術師長からはあっさりと許可が下りた。
ついでに内密の仕事も頼まれたのだが…
確かにこの仕事は私たちにしかできないことだった。
やり直し前の時、陛下と第一王子に毒を盛った王宮魔術師。
その彼がまだジンガ国に留め置かれているらしい。
危険思想ありとジンガ国の魔術師協会に報告したのはリグレッド魔術師長で、
そのことを他の魔術師たちは知らない。
ビクトリア様が亡くなった今は、
彼をサウンザード国に戻してもいいと思うのだけど、
戻ってきた後に王宮魔術師にするのはまだ不安が残るらしい。
せっかく王家がうまくいきかけているところで、
また彼を利用しようとするものが現れるのが心配なのだ。
だからこそリグレッド魔術師長としては、彼を魔術師協会へ入れたいらしい。
どうせなら目の届くところに置いておきたいと。
問題さえ起こさなければ、治癒師として優秀なのは間違いないそうだ。
私たちに頼まれた仕事は、彼に会って魔術師協会へと勧誘することだった。
この仕事を引き受けたおかげで、ジンガ国へ行くときの馬車と御者は、
魔術師協会のほうで手配してくれることになっている。
他国へ行ける馬車と御者を探すのは難しいらしいので、素直にお任せすることにした。
「じゃあ、一応は魔術師協会にいることになるんだ。
戻ってきたら仕事するのよね?」
「もちろん、その予定。」
「良かった。
じゃあ、帰ってくるのを楽しみに待っているわ。」




