149.幼い記憶
「眠くない?大丈夫?」
部屋に入ってきたレイニードの手には何かを持っている。
薄暗闇の中で目を凝らしてみると、どうやらいつも着ているローブのようだ。
「とりあえず、これ着て?」
「…私のローブ??」
どうしてだろうと思いがらも渡されたローブを着ると、レイニードもローブを着ている。
ローブの中は夜着で、誰かに会えるような服装ではない。
なのに、このまま外に連れ出そうというのだろうか?
「これからどこかに行くの?」
「ちょっとだけね。」
レイニードに抱き上げられ、次の瞬間で転移したのがわかった。
周りを見ると外のようだ。
暗闇に目が慣れたころ、ここがどこか分かった。
うちの家の修練場の奥にある庭園、
子どもの頃にレイニードとライニードとかくれんぼをした場所。
大きくなってからはこんなに奥まで来ることはなくなっていた。
その場所に、ふわりと浮かんでいた。
二人とも靴を履いていないからか、レイニードに浮遊をかけられているようだ。
「どうしてここに?」
「うん、どこがいいかなって思って…結局ここしかないと思ったんだ。」
「え?」
ここしかない?この庭園にいったい何が?
「覚えていないかな。
小さいころ、エミリアと遊んで…公爵家に帰りたくないって逃げた時。
ここに隠れていたのを見つけてくれたのはエミリアだった。」
そう言われてみて思い出した。
聞き分けのいいライニードと違って、レイニードはよく泣いていた。
まだ遊びたい、エミリアといたい、家に帰りたくない。
そう言ってカリーナおばさまを困らせていた。
あれ…レイニードはいつから泣かなくなった?
私、覚えているはず…そうだ。ここで話したんだ。
あの約束をしてから、レイニードは泣かなくなった。
「思い出したわ。泣いて隠れてたレイニードと約束したの。」
「思い出してくれて良かった。
…でも、もう一度ちゃんと言わせて。
何度も失敗してしまったのはわかってる。
だけど、どうしてもエミリアがいい。エミリアといたいんだ。」
あの時、帰りたくないと言って逃げ出したレイニードは、
この庭園の木の上に隠れていた。
ライニードはほっといていいよと言っていたが、
そうもいかずエミリアが探しに来たのだ。
見つけたのが私だとわかるとすぐに降りてきたが、
エミリアと一緒にいたいから今すぐ結婚したいって言ったレイニードに、
私より大きくなって強くなったらねと約束していた。
「この先の人生は、やり直しとは関係ない。
エミリアを自由にしてあげたほうがいいのかもしれないと悩んだ。
だけど、何度やり直したとしても、エミリアを愛している。
いろいろ情けない俺だけど、それだけは変わらない自信がある。
もっと強くなるから…これからもエミリアを守らせてほしい。
俺と結婚してください。」
私の頬に手を当て、じっと目を見つめてくるレイニードに、思わず口にしたのは…。
「いやよ。」
「え?」
「守られるだけは嫌。私もレイニードを守るの。
…それなら、ずっと一緒にいるわ。」
「エミリア!!良かった…断られるかと思った。」
断ろうとか焦らそうとか思ったわけじゃなかったけれど、
考えるより先に言葉が出ていた。
「あ、本当ね。誤解させてごめんなさい?」
「いや、いいよ。そういうところも好きだよ。」
額に軽くくちづけされ、抱き寄せられる。
その胸に腕をのばして抱きしめると、もう少しだけ強い力で抱きしめ返してくれた。
「レイニード、大好き…。」
「うん、うれしい。ありがとう。」
そこでどのくらい抱きしめ合っていたのか、先に気が付いたのはレイニードだった。
「ごめん…こんなとこに長居しちゃダメだったな。
部屋まで送る。転移するよ?」
「今日は一緒に寝ないの?」
なんとなく離れたくなくてそう言ったら、
レイニードが困った顔になった。
「レイニード?」
一瞬で私の部屋に転移した後、扉の前でもう一度私を抱きしめた。
「次、同じ寝台で寝るって言ったら、抱くよ?」
「え?」
そのまま出て行ってしまったレイニードに呆然としていたが、
言葉の意味を理解して…慌てて寝台の中に逃げ込んだ。
卒業してしまったからには、待たせる理由なんてないことに、
その時になってようやく気が付いた。




