148.報告
話が終わって外に出ると、もうとっくに日は暮れていた。
思ったよりも長い時間話し込んでしまっていたようだ。
門のところまで見送りに来てくれたリシャエルさんにお礼を言って帰ろうとすると、
リシャエルさんに逆にお礼を言われた。
「俺は…詳しくは知らないけれど、
レイニードとエミリアはリグレッド魔術師長を助けてくれたんだろう?」
「え?」
「ずっと何か重いものを背負っているのは知ってた。
それこそ、子どもの頃からずっと。
魔力測定であれほどの魔力量を持っているとわかったときも、
リグレッドはニコリともしなかった。」
「…。」
魔力測定の日、たしかそれはリグレッド魔術師長がやり直しで戻った日だったはず。
事実を受け止められずに戸惑っていたとしても仕方ない。
「夜会が終わった後、リグレッドは黙りこんで…しばらくは話しかけても反応がなかった。
レイニードとエミリアに連絡しなかったのは、それもあるんだ。
リグレッドがそんな状態じゃ、説明するのも難しいだろう?
二人も聞きに来なかったから、まぁ後でいいかと思ってたんだ。
ようやく元に戻って話せるようになったら、何か吹っ切れたように軽くなってた。
…すぐに魔術師長をやめようとするのだけは困るけど…。
あれが本当のリグレッドなんだろうな。」
確かにリグレッドさんはやり直し前とは全く違う人生を歩んでいる。
性格が違ったとしても無理はない。
国の未来を背負わなければいけないほど追い詰められていたのだから。
それが変わったのだとしたら…。
きっと重荷から解放されたということなんだろう。
「…今、リグレッド魔術師長にやめられたら困りますよね。
リシャエルさんが魔術師長にならなきゃいけなくなりますよ?」
「えー俺には無理だよ。勘弁してよ。
俺としてはレイニードかエミリアが次の魔術師長だと思ってるからさ。」
「「え?」」
「というわけで、落ち着いたら仕事しに来てね。
焦らなくてもいいけど、みんな待っているよ。」
さわやかな笑顔で手を振ると、リシャエルさんは消えていた。
帰ったのか、魔術師長室に戻ったのかはわからない。
「…最後、何か言われたな。」
「うん、でも、聞かなかったことにしよう?」
「そのほうがよさそうだ。」
馬車で屋敷に戻ったら、もう夕食の時間を過ぎていた。
すでにお父様とお母様は席について食事を始めていた。
慌てて席に着いた後、私とレイニードの卒業が決まったことを報告すると、
お母様が立ち上がって私のところまで来て抱きしめてくれる。
どこにそんな力が?と思うほど強く抱きしめられ、さすがに苦しい。
「良かったわ!これで二人の結婚式の日取りを決められるわね!
早くドレスを仕立てなきゃ。」
「お母様。ちょっと苦しいです…少しゆるめて…。」
「まずは卒業のお祝いだな!おめでとう二人とも!」
「ふふ。ありがとう、お父様。」
「ありがとうございます。」
喜んでくれるお父様とお母様に、無事に卒業できる嬉しさでいっぱいになる。
新しく作った魔術のこと、魔術書が飛んでいった先のこと、
学園長に四人そろって褒めてもらえたこと。話は尽きなかった。
いつもの夕食の時間を大きく過ぎたころ、
さすがに話し疲れて部屋に戻ろうとした時、レイニードが耳元でささやいてきた。
「今日、あとで部屋に行くから…寝ないで待っていて。」
「え?」
驚いて聞き返した時には、もうすでにレイニードは私室へと向かっていた。
夜に私の部屋に来るなんて、何かあったのだろうか。
今まで夜に来たのは二回だけ。どちらも私を心配してくれて来た時だ。
こんな風に前もって言われることなんて無かった。
考えても理由がわからなかったけれど、寝台の中に入っても眠らずにレイニードを待った。
それほど長い時間待つこともなく、レイニードが部屋に入ってくるのがわかった。
「眠くない?大丈夫?」




