146.ビクトリア様の最後
最終的には魔術師協会がビクトリア様を殺す予定だった。
そのことに驚きはしたが、それだけビクトリア様がどうなるかが鍵だったのだろう。
このままやり直し前と同じ道をたどるくらいなら、ということなのか。
魔術師協会が王族を殺すなんて…それが公になったとしたら。
王家と魔術師の争いはさけられなかっただろう。
戦争とはまた違った争いが起きる可能性があった。
どうにもならなかった時の最終手段として…
それを選ぶには問題がありすぎるが、そうせざるを得ない可能性はあった。
だけど、それを選ぶ前にビクトリア様は亡くなっていた。
おそらく王弟殿下の手によって。
もしかしたら、魔術師協会は王弟殿下に助けられた形になるのだろうか?
「ビクトリア様が亡くなったのは夜会の次の日の昼過ぎだった。
死因は全身のやけど。
…あの夜会の時、火事が起きていたのは知っている?」
「はい。俺たちは帰る時でしたが、遠くから煙が見えました。
騎士たちが消火に向かったのは知っていましたし、
部外者が立ち入れないのはわかっていたので、そのまま帰りましたが…。
あの火事でビクトリア王女が?」
馬車に乗るときに見えた煙。
どこかで火事が起きたのだとは気が付いたが、消化活動の邪魔になるし、
私たちが行ったところで何もできないと思って、そのまま帰ったのだった。
「そうだ。奥庭にある木小屋だ。
…昔は庭師が使っていたが、20年ほど前に閉鎖されそのままになっている。
鍵はかけられて、中には入れないようになっていた小屋だ。」
「20年も前に閉鎖された小屋?
どうしてそんなものが残されていたんですか?」
20年も前に使われなくなった小屋が残っていることがおかしい。
王宮内は庭園の隅まで手入れされている。
使われない小屋など、すぐに片づけられるはずだ。
「そこは…王弟殿下の婚約者だった令嬢が亡くなった場所だ。
側妃のせいで、亡くなった侯爵家の令嬢だ。
とても聡明で優しく美しい方で、王弟殿下とはお似合いだったそうだ。
誰から見ても相思相愛だったそうだが、側妃はそれを認めなかった。
側妃は王弟殿下との結婚を望んでいたらしい。
令嬢が亡くなったのは、
もうすぐ王弟殿下がジンガ国から帰ってくるという時期だった。」
「王弟殿下の…。」
「わかるだろう?
その木小屋の鍵は王弟殿下しか持っていない。
そして、ビクトリア王女は全身やけどの状態で、
髪もドレスも燃え落ちてしまって少しも残っていないほどだったのに、
木小屋の内部はまったく燃えていなかった。
あの木小屋は状態保存の魔術がかけられていたんだ。」
鍵は王弟殿下しか持っていない。そして、わざわざ状態保存がかけられている。
これはどう考えても王弟殿下がかかわっているとしか思えない。
「王弟殿下は…わざと自分の仕業だとわからせようとしたのですか?」
「多分ね…ビクトリア王女が側妃の娘だということがわかって、
令嬢たちにあんなことを仕掛けようとした。
王弟殿下には許せることではなかったんだ。だから殺した。
…そして、陛下はすべてを知ったうえで、見なかったことにした。
王弟殿下の仕業なのはすぐにわかっただろう。
ビクトリア王女への治療は一切行わなかったそうだ。
何もしなければ死ぬんだとわかっていて、ね。
その判断が陛下としてなのか、父としてなのかはわからないけれど。
ビクトリア王女を見捨てたのには違いない。」
陛下もビクトリア様を殺したのが弟だとわかっていて、何もなかったことにした。
まさか全身やけど状態の娘に治療をしなかったとは…。
ビクトリア様のしたことは公になり、令息たちは処罰を受けることになったが、
ビクトリア様は病死という発表だけで葬儀もなかった。
…陛下のした判断は、ビクトリア様への処罰だったのかもしれない。
「以前、王弟殿下に協力を申し出たことがあった。
この国を救う手伝いをしてほしいと。」
今まで話を聞いているだけだったリグレッド魔術師長がつぶやくように言った。




