145.夜会の裏側
最後に魔術師協会に来たのは、あの夜会の少し前だった。
それから二か月近くが過ぎていた。
なんだか久しぶりすぎて、門から中に入るときから緊張していた。
魔術師長室へと歩いていると、リシャエルさんがあらわれた。
いつも通りのリシャエルさんの笑顔に、少しだけ気持ちが落ち着く。
「久しぶりだね。二人とも。
今日は魔術師長に会いに来たのかな?」
「リシャエルさん。ええ、魔術師長に会いに来ました。」
「そっか。
案内は必要ないと思うけど、俺も同席させてよ。」
「はい。」
めずらしくリシャエルさんが同席するという。
そのことが問題ならばリグレッド魔術師長が何か言うだろう。
そう思って三人で魔術師長室へと向かう。
ノックをするとすぐに返事があった。
中に入ると奥のソファへとくるように声がかかった。
「お久しぶりです。」
「あぁ、2人とも久しぶりだね。
卒業して魔術師協会に所属するまで来ないかと思っていたよ。」
久しぶりにあったリグレッド魔術師長がのんびりした口調でお茶をすすめてくる。
あんなことがあったのに、私たちは来ないと思われていたようだ。
普通なら真っ先にここに聞きに来ると思うだろうに。
「リグレッド魔術師長。
はっきりと聞いてもいいですか?
ビクトリア王女を殺したのは王弟殿下ですか?」
これほどはっきり聞くと思っていなかったのか、
リグレッド魔術師長もリシャエルさんもお茶を吹き出しかけた。
リシャエルさんは気管に入ったのか苦しそうに咳き込んでいる。
…これは聞くタイミングを間違えたのでは?
レイニードを見たら、さすがに焦った顔をしている。
「す、すみません。単刀直入に聞きすぎました…。」
「いや、うん。
これほどはっきり聞かれると思っていなかったから驚いただけだよ。
君たちは優しいだろう。
関わったことがある者の死をあまり聞きたくないんじゃないかと思っていた。
殺されたというならなおさらね。
一応は病死ということになっているが、
あの状態のビクトリア王女が病死だなんて思っていないだろう?」
「ええ、そうですね。
側妃の処刑も表向きには病死と公表されたと聞いていますし。
何かあっても病死にするのだろうと思っていました。
あの日、ビクトリア王女に何があったのですか?」
リグレッド魔術師長とリシャエルさんが目を合わせて頷いた。
そうして、話を始めたのはリシャエルさんだった。
「もしかして今日はこの話になるんじゃないかと思って同席したんだ。
あの夜会の後、王宮に残って調べたのは俺だからね。
俺から話したほうが早いんじゃないかと思って。」
あぁ、だからめずらしくリシャエルさんが同席すると言ったんだ。
魔術師長が何も言わなかったのも、それならば納得する。
「あの夜会で君たちが二人を助けた後、
魔術師長は二人を襲った令息の取り調べのほうに意識がいっていた。
せっかく捕まえたのに、無かったことにされるわけにはいかないからね。
あとは被害に遭った二人の令嬢の保護にも。
魔術師協会の手のものはこの二か所に集中していた。
だから、ビクトリア王女の行方には誰も意識を向けていなかった。」
まるで私たちが魔術師協会を疑っていたことを知っているような口ぶりに、
ここに来なかった本当の理由もわかっていたのだと気が付いた。
「そんな顔しなくていいよ?
俺が二人の立場だったとしても、あの状況なら魔術師協会を疑う。
というよりも、どうにもならなくなったら…
俺がビクトリア王女を殺す役割を担う予定だった。
それはあの夜会ではなくて、
今後も陛下がビクトリア王女を野放しにするのならば、の話だったけど。
だから疑っていたことは気にしなくていい。」
「え?…リシャエルさんが?」
「まぁ、さすがにあそこまで証拠をそろえれば、
陛下だってビクトリア王女を何とかするとは思ってた。
それでも野放しにするようなことがあれば、
こちらも最終手段を選ばなければいけないと考えていただけだ。
…だが、その前にビクトリア王女は亡くなっていた。」




