143.警告の裏側
「…あの、学園長。
どうして学園長はエリザベスの薬のことやライニードのこと、
そんなに詳しく知っているのですか?」
「あぁ、気になる?
君たちはビクトリアのことをリグレッド魔術師長から聞いたんじゃないの?
それで、ジュリアとエリザベスのことを助けようと動いていたでしょ?」
ビクトリア様の名前が出た時、
ぶわっと殺気のような魔力を学園長から感じて、思わず身体が強張る。
レイニードがそっと私の前に立って、かばおうとしてくれた。
「あ、ごめん。悪気はないんだ。今のは気にしないでくれ。
リグレッド魔術師長に魔石を送ったのは俺だ。
ビクトリアが学園のサロンであんな物騒な話をしていたものだから、
魔術師協会へと警告したんだ。
俺は社交界に出ていないからね、夜会に出ることもない。
王宮内に手のものを送り込んでいる魔術師長なら何とかしてくれると思って。
まさか学生の君たちに頼むとは思っていなかったんだけどな。
さすがに学生を危険な目にあわせるつもりは無かった…。
結果的に令嬢二人とも助かったから、
魔術師長の判断は間違っていなかったってことだけど。」
あの魔石に記録されていたビクトリア様の会話は、学園のサロンでのことだったんだ。
それを学園長が聞いていたというのは、考えようによっては怖いことだけど…。
でもそういえば、ビクトリア様の警護は学園長がしていると言っていた。
そのついでに聞こえたということなのかもしれない。
「あの魔石は学園長だったのですね。」
「だからジュリアとエリザベスの行動も気にしていたってことですか?」
「そう。俺にはどうにもならないことだけど、気にはなるだろう?
うちの学園の学生だしね。
まぁ、あの学年は令嬢三人が退学扱いで、令息七人が騎士科に再入学。
一気に人が減ったが…騒がしかった学年だったし、これで静かになるかな。」
一度に十人も減る…それは前代未聞のことだろう。
それでもそのことを話す学園長の顔は涼しげだ。
さっき、一度だけ顔がゆがむほどの感情を見せたのがより際立って思える…。
「あぁ、そういえば。
エリザベスが修道院に行った後、リンデ伯爵家に魔術師が通っているようだ。
大体何をしているか想像はできるが…
その辺は協会から直接聞いたほうがいいだろう。
2人とも卒業後は魔術師協会に所属するんだろう?」
「はい。」「その予定です。」
「うん、それがいいよ。
…もし、何か魔術師協会でも手に負えないことが起きたとしたら、
一度だけ俺が手を貸そう。相談においで。」
「ありがとうございます。」
「…どうして手を貸してくださるのですか?
学園長は学園の外のことは基本的に手を出さないとお聞きしていました。」
やり直し前の学園長の印象からズレるのか、レイニードが質問する。
王弟殿下は王宮にも貴族にもかかわらないと言っていた。
それなのに、私たちに手を貸そうとしてくれる理由を知りたいのだろう。
「そうだね…君たちは助けた。
自分に関係ないと言って見捨てることもできたのに、そうしなかった。
誰のせいにもしないで自分で責任を負おうとした。だからかな。」
「?」
「わからなくていいよ。俺の自己満足のようなものだ。
俺の大事な人は助けてもらえなかった。
誰か一人でも助けようとしてくれたなら、結果は違ったはずなんだ。
だから、助けようと動いた君たちがいて、うれしかった。
そんな君たちだから、何かあったら俺は手助けしてもいいと思った。
ただそれだけだよ。」
「そうですか…わかりました。
何か俺たちでどうにもならないことがあったら、頼らせてください。」
「あぁ、いつでもおいで。
君たちが学園に入ったら魔力で気がつく。
その時はジャニスが迎えに行くだろう。」
「「はい。」」
学園長室を出るころはもういい時間になっていた。
ジャニス先生に連れられて休憩場まで戻ったが、ルリナもファルカもいなかった。
私たちを待っていたかもしれないが、帰ってしまったのだろう。
「送ってくださってありがとうございます。」
「いいえ。こちらこそ、君たちには世話になったわ。
いろんな意味でね。ありがとう。
気を付けて帰ってね。」
そう言い残すとジャニス先生は消えていた。
最後の言葉の意味を聞き返す時間は無かった。
「帰ろうか?」
「ええ。」




