129.争う声
王宮から外に出て中庭へ向かおうとすると、目の前に小さな光球が浮かんでいた。
あまり強い光ではないが、周りが暗い中そこだけ光り輝いている。
これは何の光だろう?誰かの魔力を感じる?
「レイニード、エミリア。
もうすでに中庭の奥から神の審判近くまで移動してしまっている。
この光球が案内するから、ついていけ。」
「え?」
急に男性の声が聞こえたと思ったら、光球から聞こえてくる。
聞き覚えのある声にレイニードが反応し返答した。
「この声はリグレッド魔術師長ですか?」
「そうだ。少しわかりにくい場所へ逃げ込んだようだ。
この光球を動かして案内するから急いでくれ。」
「わかりました!」
中庭は道の端にランプが置かれていて、まったくの暗闇というわけではない。
それでもエリザベスたちを探しながら走るのには暗すぎる。
光球が案内してくれるというなら、その光を追っていけばいい。
私たちが走るのに合わせて光球も急いで奥へと進んでいった。
ジュリアの件で時間がかかり、エリザベスを追うのに遅れてしまっている。
早く助けに行かなければ…。
レイニードと手をつないだまま光の後を追い、奥へと走り続けた。
神の審判にもう少しで着くという場所で光が消えた。
この近くにエリザベスが?
暗闇の中を探すよりも先に争う声が聞こえた。
道から少しずれた場所からのようだ。
庭木の影になっていて見えにくいが、ここから距離は近い。
「もう、やめて!放してよ!」
「まだあきらめてないのかよ。強情だな。
ドレスもこんなボロボロになってるのに、まだ会場に戻ろうとするのか?」
「そのドレスで戻ったら、男に襲われました!って言ってるようなものだよ?
いいの?みんなに見られちゃうぞ?
婿を探しているのに、そんな姿を見られたらすぐに噂になるだろうな。」
「いいから放して!」
「あーもう、うるさいな。
もうめんどくさいから、そこの東屋でやっちゃおうぜ。
そのあとで休憩室に運べばいいだろう?」
「それもそうか…。裸にひん剥いてしまえば抵抗できないだろう。
よし、そこの東屋に連れて行くぞ。」
「やだっ!やめて!」
庭木の影から様子をうかがうと、エリザベスが四人の令息に囲まれている。
その向こうにいくつかのランプが見えるのが東屋だろう。
そこに力づくで連れて行こうとする令息たちに、
エリザベスが嫌がって必死に抵抗しているのがわかった。
「…エミリア、どうする?あれを使うか?」
「四人だと、うまくいかないかもしれないわ。どうしたら…。」
「大丈夫だ、うまくいかなくても残りは俺が何とかする。」
「…わかったわ。」
集中して術を使うと指先から小さなシャボン玉が浮かび上がり、
ふわふわと令息たちへ向けて飛んでいく。
日中でも光が反射しないほど透明なその球は暗闇の中では視覚できない。
エリザベスに意識が集中している令息たちは、
それが身体に当たって術が発動するまで気が付かないはずだ。
あぁ、でもやはり同時に出せるのは三つまでだった。
一人の令息に球が当たると、その小さな球は形を変え、
水色に変わると同時に大きく広がり令息の身体全体を包み込んだ。
まるで分厚い樹脂の風船に入れられたように飲み込まれる。
「うわっ?なんだこれ!!」




