127.危機
「あ、来たわ。」
ビクトリア様が令嬢を何人か引き連れて広間に入ってくる。
すっきりとした形の緑色のドレス。両肩が出ている大胆なもので、
長身で細身のビクトリア様の魅力を良く引き出している。
金色の髪は片側にまとめ、緩い縦巻きにして流してあった。
そのビクトリア様がライニードを見つけ近づいていく。
優雅に微笑んでいるが、どこか敵対しているような雰囲気もある。
…ビクトリア様はライニードに惚れているわけではなさそうだ。
「ねぇ、ビクトリア様のライニードを見る目がちょっとおかしくない?」
「少なくとも友好的には見えないよな…?」
「だよねぇ。」
婚約を申し込んで断られたことで腹が立っているのかもしれない。
もしかして、その八つ当たりでエリザベスたちに何かしようとしている?
今もライニードに話しかけてはいるが、腕を組んでいて挑発的に見える。
それに対してライニードはいつも通りのんびりと応えているようで、
それがよけいにイラつかせているように見えた。
後ろの令嬢たちも口をはさめず、ただじっと二人の会話を聞いているだけだった。
…あれ。令嬢たち、だけ?
「…ビクトリア様の取り巻きって、令息のほうが多かったわよね?」
「そのはずだが、一人もいないな。
…もしかしてもう動いているのか?」
「ライニードも心配ではあるけど、どうしよう。」
ライニードとビクトリア様の周りにはたくさんの人がいる。
この場で何かするとは思えない。
むしろ、この場にいない二人のほうが心配になった。
動くべきか悩んでいるとすぐ後ろから女性の声が聞こえた。
「休憩室付近で何か起きたようです。」
人の気配はなかったはずなのにと驚いて振り向くと、そこには誰もいなかった。
「レイニード、今の?」
「リグレッド魔術師長の監視からの連絡かもしれない。
行ってみよう!」
そっとその場を離れ、広間から外に出る。
まだ夜会の中盤に差し掛かったところで、休憩室に行く人は少ない。
この先の廊下を曲がったら休憩室というところで、一人の令息がいるのに気が付いた。
きょろきょろと辺りを見渡して、何か焦っているように見える。
茶色の髪と目…知らない令息なはずだけど、見たことのある令息?
あれはもしかして!レイニードも気が付いたようで、令息に声をかけた。
「もしかしてジルレッド王子ですか?
ジングラッド先輩の魔術師科の後輩でレイニードと申します。」
「ああ!兄さんから聞いている!
どうしよう!俺、見てしまって!」
ジングラッド先輩と同じ顔だが、幼い感じの声だった。
まだ貴族科二年、16歳になったばかりなはず。
卒業したジングラッド先輩と比べて幼く感じるのも無理はない。
「何かあったのですか?」
「令嬢が二人、令息たちに連れていかれたんだ!別々のほうに!
一人はこの奥の休憩室に。ジュリアって令嬢だ。
もう一人は途中で手を振りほどいて逃げたけど、追いかけられてた。
エリザベスって伯爵家の令嬢!
俺が直接助けに行くわけにもいかなくて、でもこの辺に護衛騎士がいないんだ。
誰に助けを求めたらいいのかわからなくて!」
「…っ!わかりました!
とりあえず、ジュリアのほうはどこの部屋かわかりますか!?」
「入って左、奥から二番目の部屋!
令息三人に引きずられていったんだ!」
「わかりました!
私たちで救出に行きます。
王子は護衛騎士か女官を探してもらえますか!?」
「わかった!」
急がなければ!
もう部屋に連れて行かれたのなら、止めてもいいはず。
そう思ってレイニードを見ると、確認するから少し待ってと言われる。
部屋の前でレイニードが中の気配を探ると、眉をひそめる。
「…中に入ったら俺が令息を拘束する。
その間、エミリアはジュリアのほうに助けに行って。」
「わかった!」




