123.怖いのは
いつものようにカミラに髪を乾かしてもらって眠る準備を終えると、
寝台へともぐりこんだ。
「おやすみなさいませ」とカミラがランプを消して部屋から出ていくと、
暗闇の中に一人取り残される。
最近は疲れていて、寝台に入るとすぐに眠ってしまっていた。
なのに今日はやけに目がさえて…とても眠れるような状態ではなかった。
静かな部屋の中、カタっと音がした。
レイニードがこっそりと部屋に入ってきて、ドアを閉めた音だった。
「…レイニード?」
「また眠れなくなってるんじゃないかと思って。」
「うん…眠れそうになかったわ。」
寝台の近くまで来たレイニードに手を伸ばすと、ぎゅっと握りしめてくれる。
あぁ、こんなことあったなと思い出す。
やり直したその日の夜、泣いている私のところにレイニードが来てくれた。
こうして手を握り締めてくれて、私が眠るまでそばにいてくれた。
「もうあれから五年たつのね。」
「そうだね…ずっと明日が来るのを待っていた気もするし、
来なければいいと思っていたような気もする。
正直言って、俺は怖い。
エミリアを二度と失いたくない。
他の奴のことはどうでもいいといったら怒られるかもしれないけど、
エミリアを失うのだけはもう嫌なんだ。」
「レイニード…。」
ふとレイニードの手が震えているのに気が付いた。
…怖いのはレイニードも同じなのね。
その震えを止めるために私には何ができるだろう。
こうして手を握っていても、優しい言葉でも、
怖がるレイニードを安心させられる気がしなかった。
「…ね、レイニード。
その恰好では寒いでしょう?
眠るまで一緒にいて?」
「え?」
「ほら。風邪ひいたら困るもの。
中に入ってきて。」
「いや、さすがにそれはまずいだろう…。」
寝台のかけ布をめくって中に入るように言っているのに、
レイニードは動こうとしない。
じれったくなってぐっと手を引くと、
あきらめたのかおとなしく中に入ってきた。
「…もう、知らないよ?」
「だって…レイニード震えている。
寒いなら一緒にいたほうが暖かいでしょう?」
震えているのは寒いからじゃないとわかっているけれど、
今は寒さのせいにしたかった。
寒いから一緒に寝てもいい。抱きしめてくれたらもっと暖かい。
少しでも近くにいたくて、寒さを言い訳にしてしまいたかった。
「エミリア…そうだね。暖かい。」
レイニードの腕の中におさまってしまうと、
もうそこが定位置のように思えた。
何もかも忘れて、このままずっと一緒にいられる気がした。
「こうしてたら怖くないわ。
朝まで一緒にいたら怒られるかしら…。」
「…カミラが起こしに来る前に部屋に戻るよ。
もし怒られたとしても、いいかな。
エミリアと一緒にいたい。」
「ん。怒られたら一緒に謝るね。」
離れないように抱き着くと、もうレイニードは震えていなかった。
お互いに抱き合ったまま眠ると、心の中にあった迷いは消えていた。
もう大丈夫。
守られてばかりの私じゃない。
一緒に戦うって決めたのだから。




