119.ジュリアは愛されたい
「あ、ビクトリア様だ。」
廊下の先にビクトリア様がいるのを見かけ、足を止める。
お父様に王族にだけは近づかないようにときつく言われている。
仕方ないので通り道を変えてカフェテリアへと向かった。
令息たちを何人か連れていたから、ビクトリア様はサロンへ行くんだろう。
王族か高位貴族に連れて行ってもらえないと使えないサロンには行ったことがない。
フレデリック様はそういうのあまり好きじゃなかったから。
むしろ私に合わせてカフェテリアにいることが多かった。
カフェテリアは身分があまり高くないものたちであふれている。
私がそこにいても誰も気にしないし、少しくらいうるさくしても怒られない。
誰か令息を捕まえて話し相手になってもらおうつもりでいた。
二度目の貴族科一学年は退屈で仕方なかった。
いつも一緒にいたフレデリック様は隣国に留学してしまったし、
側近候補だった令息たちは留年せずに上の学年へと上がった。
王族と高位貴族に囲まれることになれてしまったジュリアには、
伯爵家以下の令息たちは野暮ったく見えていた。
留年したせいで一年年下だったこともあり、頼りなく見えてしまうのも当然。
寄ってくる令息たちにはそれなりに対応して周りを固めていたけれど、
やっぱり相手にするのは高位貴族のほうがいいと思ってしまう。
フレデリック様の件で一度謹慎させられていた時に、礼儀作法の先生が来たけれど、
平凡な顔の元子爵令嬢の先生に何を言われてもピンとこなかった。
だって、それって先生が可愛くないから許されなかったんじゃないの?
私が何をしても何を言ってもあの人たち怒らなかったもの。
そう言ったら図星だったのか真っ赤になって、私の手を扇子で叩いた。
本当のこと言われたからって、そこまで怒らなくてもいいのに。
下手に言い返すと先生と両親に叱られることだけはわかったので、
はいはいと聞いていたら謹慎はすぐに終わった。
去年の成績が悪かったから一学年をやり直しになったのは誤算だったけれど、
同じ学年に公爵家嫡男がいると聞いてすぐに考え直した。
公爵家の嫡男って、フレデリック様の側近だった令息たちよりも上ってことよね。
じゃあ、とってもいい男に違いない。
そう思って公爵家嫡男がいる教室に話しかけに行ったのだけど、
同じタイミングで伯爵家のエリザベスが会いにきていた。
…この女、きらーい。
平凡な顔に髪色も目も普通。良いのは胸くらいじゃないの?
なんでこんな女に令息たちが群がっているのか理解できない。
私みたいに可愛くて、愛されるために生まれてきた、
女神の加護が付いてるんじゃないかって言われてる、私に群がるならわかるのに。
エリザベスとにらみ合っていたら、公爵家の嫡男にはあっさりと断られた。
なによ…婚約者がいるなら早く言いなさいよ。
私がせっかく話しかけたの無駄になっちゃったじゃない。
周りの令息たちに慰められて少しは落ち着いたけど。
令息たちが言うには高位貴族の嫡男で婚約していないのは、
ジョランド公爵家のライニード様だけなんだって。
令息にあの方だよって教えてもらって、
遠目で見たら銀色の髪がキラキラ光って、いかにも貴族って感じだった。
隣にいる金髪が王太子様だって聞いて、ますます興味を持った。
金の王子と銀の貴公子、いつも一緒にいる二人はそう呼ばれているそう。
王太子様は王族だから近寄れないけど、ライニード様は大丈夫だよね。
でも、学園内で会うことはほとんどなく、声をかけることも難しかった。
それでも待ち伏せしたり努力はしたんだけどね。
一年たっても数回話すのがやっとだった。
会うのですらこんなに難しいなんて、
落とすのは無理なのかな…そう思っていた時、
私が出ることができない夜会で、
エリザベスが仲良さそうに話していたと聞いてイラついた。
また邪魔するの?あの女。ほんと嫌い。
新年を祝う夜会でやっと会えたら笑顔で話してくれた。
ダンスに誘ったら誰とも踊らないと断られたけれど、
誰とも踊らないならまぁいいか。
エリザベスも断られていたようだし。
男爵家の私が出れる夜会は年に一度だけ。
卒業してしまったライニード様とゆっくり話せるのもこの時だけ。
公爵家の嫡男がいつまでも婚約せずにいてくれるわけがない。
…次の夜会こそはライニードを私のものにしてみせる。
エリザベスになんか渡さない。




