117.お茶会の噂話
「また先日の夜会ではエリザベス様と話をしていたって聞いたわ。」
「わたくしもそう聞きましたわ。
でも、その前の新年を祝う夜会ではあの男爵令嬢も話していたとか。」
「ええ、それも聞きましたわ。
でも噂ではビクトリア様とも文のやり取りをしているとか?」
「まぁ…誠実そうに思っていましたが違うのかしら。
レイニード様のほうはエミリア様だけを思っていらっしゃるのにね。」
貴族科の礼儀作法の授業は身分によって三つの教室に分けられており、
ここはその中の一つ、伯爵家だけが集められていた。
授業の一環ではあるがお茶会の場は交流の場であり、噂話が行き交う場でもある。
ここ最近のお茶会の話題はジョランド公爵家のライニードを、
誰が射止めるかということで持ちきりだった。
さすがに当事者であるエリザベスのテーブルの近くでは話せないが、
少し離れた席ではいつもその話題になっていた。
今日もまたエリザベスがいる場所とは反対側のテーブルで噂話が盛り上がっていた。
ただ、それはあくまで噂話であって、
社交界にデビューしたばかりの令嬢たちにはその事実を確かめるすべがない。
話すだけ話して真実はわからないままに終わるのが常だった。
だが今日の話は少しだけ違っていた。
一人の令嬢から真実に近い話が出てきたからである。
「…実はわたくし、聞いてしまったのですけれど…。
ライニード様はマジェスタ公爵家のミリーナ様とお約束があるとか…。」
「「ええ!?」」
「マジェスタ家ですって?では、リリーナ様の妹様ですの?」
「でも…まだ10歳くらいではなかったかしら?」
「ええ、そうですわ。確か今年で11歳になるとか。
確かにその噂は以前にもあって聞いたことがありましたが、
そのあとすぐにエリザベス様と噂になりましたし、
もう無くなった話なのだと思っていましたわ。
正式なものなのですか?」
「わたくしの母の従妹がマジェスタ公爵夫人と仲良しなのです。
そちらから聞いた話なので、間違いないですわ。」
「…では、あの三人とはお遊び…ということですの?」
「お遊びといっても、ライニード様は話しかけられているだけで、
ライニード様から話しかけることも、ダンスに誘うこともしていませんわ。
何より、ライニード様は誘われても一度もダンスを踊ったことがありませんのよ。
ミリーナ様はまだ夜会に出られる年齢ではありませんし、
社交も公爵家嫡男として大事なお仕事でしょう?
…仕方なしにお相手しているのでは?
だって、あの三人ですのよ?お断りするのも大変そうですわ。」
「…それもそうですわね。
ライニード様が誘っているわけではないのですものね。
断るのも難しいですわよね…特にビクトリア様は。」
「でも、マジェスタ公爵夫人のお話だと、
ビクトリア様との婚約のお話はもうすでに断っているとか。
ライニード様は側近としてのお仕事が忙しいため、
数年間は結婚する気がないとお断りしたそうですわよ?」
「ええ?そうなのですか?」
「ビクトリア様は断られているのに文を出し続けていると?
…それはライニード様も大変ですわねぇ。」
離れていた場所のテーブルでの会話ではあったが、
令嬢たちの声はエリザベスにも聞こえていた。




