109.ジョランド公爵からの報告
騎士団の仕事が忙しかったのか、
ここ最近なかなか会えなかったお義父様が久しぶりに侯爵家を訪ねてきた。
ライニードのこともあったので、こちらとしても話がしたいところだった。
「久しぶりだな。
リリーナ様が婚約者に決まったことで、王宮内の警護の見直しがあったんだ。
数年後にはジョージア様が国王となる予定になっていることもあって、
急ぎで王妃教育が行われている。
まぁ、そうは言っても公爵家の令嬢だし、
公爵もそのつもりで教育していたようで、リリーナ様のほうは問題ない。」
「何かほかに問題が?」
「ビクトリア様と言いたいところだが、問題というよりも少し様子がおかしい。
あのお茶会の件から謹慎していることもあって静かにしているようだが、
ビクトリア様が側妃の子だという噂が王宮内で流れ始めている。」
「え?噂ですか?」
「ああ…それで調べてみたんだが、どうやら故意に流しているようだ。
おそらく陛下が流しているのだと思う。
それに、あのお茶会の後から陛下の指示で、
ジョージア様とビクトリア様が会うのを禁じているらしい。」
「どういうことですか?」
「陛下がビクトリア様を切り捨てる決意をしたのかと。
その場合、王妃の子にしておくとジョージア様に影響が出る。
だからあえて側妃の子だとバラしたのだろう。
何かあったら側妃の子だったと公式に発表して切り捨てるつもりで。
ジョージア様を遠ざけたのも影響を少なくするためだろう。」
「…陛下はビクトリア様を王族から抜くつもりだと?」
「最終的にどうしようもなくなったらそうするつもりで動いたのだろう。
多分ビクトリア様の性格が直ることはないだろうし…
卒業したら適当な爵位をさずけて臣下にするのだろう。
あのような問題をおこすようでは降嫁先もないしな。」
ビクトリア様を臣下に…フレデリック様の時と違い、反省するようには見えない。
フレデリック様の時のように誰かと戦わせて…なんてこともできないし。
でも王族から抜けたとして、あのビクトリア様がおとなしくなるのだろうか?
「そうだ。ライニードはどうしてますか?
いろいろと狙われていると思いますが…。」
「ああ。あいつは大丈夫だ。
今日ここに来るときも声掛けたんだが、
届いたばかりのミリーナ嬢からの手紙を見てにやにやしてた。」
「そうですか。安心しました。」
レイニードが大丈夫だと言っていたが、少しだけ心配していた。
ライニードはレイニードのように完全に断るようなことはできないのではないかと。
エリザベスはそういうすきをうまく利用する気がしていた。
「あぁ、今のところ声をかけてくる令嬢を拒絶する気はないと言っていたがな。」
「「は?」」
「どうせ断っても他の令嬢が周りに寄って来るし、
今声をかけてくる令嬢たちは問題ありの令嬢ばかりだから、
絶対に婚約相手にならない。
まともな令嬢に話しかけられるほうが困るからそのままにしておく、だと。」
「あぁ…なるほど。確かにまともな侯爵令嬢とかが来たほうが困りますね…。」
えええ。それってあの三人は問題がありすぎて結婚相手にはならないから、
寄ってこられても断るから困らないってこと?
…腹黒って言ってた意味が分かった気がする。
でも、相手があの三人だとかわいそうにも思えないし…いいかな。
「落ち着いたらまた遊びに来るって言ってたよ。
もうすぐ卒業だからな。そうしたらもう毎日王宮での仕事が待っている。
最初は大変だとは思うが、まぁライニードなら大丈夫だろう。」
ライニードとジョージア様は貴族科の最終学年。
卒業まであとひと月になっていた。
ビクトリア様に会わないように魔術師科の校舎にこもっていることもあって、
お二人と学園で会うこともできなくなっている。
卒業してしまえば王太子とその側近としての仕事が始まるし、
今以上に会うのは難しくなるかもしれない。
学園を卒業する以上それは仕方ないことだとあきらめ、
ライニードには時間に余裕ができたらお茶をしに来てくれるように伝言を頼んだ。
ライニードたちが卒業すると、次は私とレイニードが五学年。最終学年になる。
留学するか学園に残るかの選択をする時がもうすぐ来る。
魔術師協会の魔術師長からの呼び出しを受けたのは、そんな時だった。




