106.エリザベスの野望
…こんな家、継ぐわけ無いじゃない。最悪だわ。
学園に行ったら侯爵家以上の令息を捕まえて家を出て行ってやる。
そう思ってたのに、貴族科の同学年には高位貴族が少なかった。
唯一の公爵令息に声をかけに行ったら、男爵令嬢のジュリアまでがついてきた。
年は一つ上だけど、爵位は下なのだから遠慮しなさいと言ったのに、
声をかけるのは自由じゃない、選ぶのは公爵令息よと言い返された。
信じられない…あとから聞いたらその態度が原因で留年していると聞いた。
呆れた。留年までしたのに、まだ同じような態度を続けているのだなんて。
公爵家の嫡男が男爵家の者を選ぶわけ無いじゃない。
そんな当たり前のことがどうしてわからないの?
だけどジュリアに何を言っても、意味が理解できないようでまったく聞かない。
なかなか隙を見せない公爵令息に何とか近づこうとして、
やっと話しかけられたと思ったら、
婚約者がいるからとあっけなく断られた。
入学直前に婚約していたって…そういうことは早く公表しなさいよ。
本当に無駄な時間と労力を使ってしまったわ。
伯爵家の一人娘ということで私の価値は高く、
伯爵家の二男以降や子爵家以下の令息にはちやほやされる。
学園にいる間はそれも楽しいからいいけれど、結婚相手にはならない。
それとなく令息たちに聞いて調べてみたら、
学園内にいる婚約者がいない高位貴族令息は一人だけだった。
ジョランド公爵家の嫡男。あのレイニードの兄のライニード。
レイニードに似ているのかと期待したが、全く似ていなかった。
ガッカリはしたけれど、それでも公爵家に嫁ぐと思えば我慢は出来る。
あのエミリアの義姉になるのか…。
親戚関係になるのは嫌な気もしたが、エンドソン侯爵家よりも上の爵位になれる。
ようやくエミリアよりも上の立場に行ける。
そう思ったらもう気にならなかった。
だけど最終学年でジョージア様の側近でもあるライニードは、
一学年の私とは接点がなく会う機会が無かった。
学園内ですれ違ったとしても、話しかけるきっかけがない。
無理に話しかけに行って、礼儀知らずだと思われてもいけない。
ジョルジュ様の時のような失敗はもうしたくない。
だからこそ、この夜会で出会えるように計画をしてきた。
収穫を祝う夜会は伯爵家以上の家が出席でき、当主以外の出席は自由だ。
この夜会なら男爵令嬢のジュリアは出席できない。
同じ学年では他にビクトリア様がいるけれど、
ビクトリア様は病弱だということで今年は夜会に出席しないと聞いている。
もっとも、ビクトリア様は先月のお茶会で大失態をしてしまい、
学園に通う以外は謹慎させられているそうだけど。
エミリアに氷を出させようとして怒られたって…意味が分からないわ。
学園に入学して驚いたのが、エミリアに憧れている令嬢がたくさんいたこと。
レイニードとエミリアを応援する会なんてあるって聞いて、二度驚いたわ。
氷姫なんて呼ばれているって…どういうことなんだと思っていたけれど、
ビクトリア様も同じようにそのことが気に入らなかったらしい。
結局、エミリアは氷を出せなかったそうだけど…
やっぱり氷姫って嘘だったのね。
そう思って笑ったら、学年が上の令嬢たちの話が聞こえてきた。
「氷姫様がビクトリア王女のわがままに困らされたそうよ。」
「ええ、聞いたわ。ひどい話ね。
他国の王女もいる席で急に魔術を使えと言われたそうね。
断ったら王女が怒りだしたとか…。
でも魔術を使ったら処罰を受けるのは氷姫様なのに…。」
「本当に…ビクトリア様がわがままという話は本当だったのね。
しかも使用許可がないからと断ったのに、出来ないからでしょうと言ったとか。
去年の剣術大会を見ていた者ならそんなことは言わないのに…。」
「あの時の氷姫様は素敵でしたわ。
今年の剣術大会にも参加されないかしら…。」
「あら、無理よ。魔術師科の学生は参加できないことになっているのだから。
あの時も第二王子様が溺愛の魔術師様に決闘を申し込んだりするから。
第二王子様はそれで処罰を受けて他国に留学しているそうですし。
あんなことはもう二度とないでしょうね。」
「それなら仕方ないわね。
あーでも、氷姫様の魔術が見たいって気持ちはわかるわ。」
「そうね。ふふふ。」
氷姫様って…エミリアはそんな風に呼ばれているの?
…悔しい。なんでなのよ。
学園でちやほやされてはいても、ビクトリア王女とジュリアがいる。
同じ学年の令息を取り合っているせいでちっとも目立たない。
だからこそ、二人がいない今日こそは失敗するわけにはいかない。




