104.陛下と王太子
「…。」
婚約者のリリーナから報告を受け、父上と二人で執務室に来たのはいいのだが、
それから父上はずっと黙ったままだった。
まさかビクトリアがジンガ国の王女がいるお茶会の席で、
あのような愚かな真似をするとは思わなかった。
勉強が嫌いだとは知っていたが、
ここ最近は真面目に王女教育を受けていると聞いていた。
ジンガ国とサウンザード国の規模の違い、
格の違いくらいはさすがにわかっていると思っていたのに…。
いや、言い訳だな。
忙しさにかまけて、ビクトリアとはほとんど話もしていなかった。
婚約者が決まったことで浮ついていたのもあるだろう。
だから放っておいたことへの罪悪感もあって、
久しぶりのビクトリアのお願いを聞いてしまったのかもしれない。
もう少し条件を付けたり、リリーナに一緒に主催させるなどできたはずなのに。
どうしてこうなった…。
可愛い妹だったのに、今は少しも可愛いと思えない。
思わずため息をついたところで、ようやく父上が話し始めた。
「…自分のせいだとか思っていないだろうな?」
「え?…いえ、思っていました。
母を同じくするたった一人の妹なのに、面倒を見てやれなかったなと。
だからあのような愚かな真似をするような王女に育ってしまった…。」
ふぅと父上が大きくため息をついたのが聞こえた。
まっすぐにこちらを見る目が父親ではなく、国王の目に変わるのがわかった。
「ジョージア、お前には話しておかなければいけないことがある。」
「はい。」
「ビクトリアは王妃から産まれた王女ではない。
側妃から産まれている。フレデリックと同じだ。
王妃が産んだのは、お前だけだ。」
「は?」
母上が産んだのではない?俺とは…異母妹ということか?
急に突き付けられた真実に言葉が出ない。父上は何を?
「わしが長年下半身にマヒが残っていて、つい先日まで死にかけていたのは、
側妃に殺されかけたからだ。
毒が塗られた短剣で刺されてな。
その時のケガが原因で、もう子を作れない身体になってしまった。」
…それは半分知っていた。
その殺されかけたというのが父上ではなく俺だということを。
かばってくれた父上がそのせいで長年苦しんでいたことも。
それが側妃の仕業だとは知らなかったけれど…。
「暗殺を企てたのが側妃だとわかり、処刑することになったが、
その時にはビクトリアを身ごもっていた。
…わしの子かどうか保証もない王女だが、一緒に殺すのはためらわれた。
もうこれ以上子を望めないこともあって、産ませることにした。
ビクトリアを出産した後で側妃は処刑し、表向きは病死とした。
だが、側妃を処刑したことは隠してもいずれバレるかもしれない。
できるかぎり守るために王妃の子として公表したのだ…。」
「…そういうことだったのですか。
ビクトリアが急に産まれておかしいとは感じていました。
母上にしばらく会えなかったこともあって、そういうものかとも思いましたが。
そうか…だから母上はビクトリアに関わらないのですね。
いろいろと納得することはあります。」
「…側妃は悪女だった。
周りを欺いては陰で笑っているような女だった…。
ビクトリアがああなのは母親似なのかもしれない。
あのまま変わらないようであれば、一代限りの女公爵の爵位を与えて、
王都から一番離れている離宮へやる。
半ば幽閉に近い形になるだろう…。
もちろん王位継承権ははく奪する。」
「父上…それでいいのですか?」
「本人に変わる意思が無ければ無理だ。
いくら法を学んだとしても、
都合の悪いことは法を変えればいいと思っている者には意味がない。
そういうことだ…。勉強が足りないのではない。
あれは心構えが王族に相応しくない。」
「…それは…。」
都合の悪いことは変えれば良い?法を守る気が無いということか?
…確かにそれではいくら法を学んでも、礼儀を説いても意味がないのかもしれない。
だが、幽閉するというのは…少しかわいそうに思ってしまう。
「ジョージア。ビクトリアはお前の妹ではないかもしれん。
それだけ悪女だった女の娘だ。
国王を殺そうとたくらんだ女が産んだ娘だ。
どうなろうと、お前の責任ではない。」
「ですが!」
「身内だから、血縁関係があるから、そんなことだけで考えるのはもうやめろ。
お前は次の国王なんだ。
サウンザード国のためにどうすればいいのか、それを一番にするんだ。
ビクトリアが変わらなければこの国の害になる。
それをよく考えるんだ。わかったな?」
「…はい。」
次の国王として…。
父上の体調が回復したおかげで、先送りになったけれど…。
ついこの前まではいつ俺が国王になってもおかしくなかった。
その時には国王として冷酷になることも必要だと覚悟したはずなのに、
しばらくは王太子でいられることに安心して気が緩んでいたのだろうか。
サウンザード国のために、この国の民のために。
俺は変わらなければいけないのだろう。




