102.王女VS王女
「そうねぇ、ただ氷を出すだけじゃ面白くないわね。
氷で屋根を作ってくれてもいいのよ?
中庭は暑いでしょう?皆さん暑そうだし、涼しくしてほしいのよ。
氷姫ならそのくらいできて当然なんじゃないの?」
…それは、やろうと思えばできるけれど…。
やれるからと言って、やっていいことにはならない。
「申し訳ありませんが、その要望にはお応えできません。」
「あら。やっぱりできないのね?
ジョランド公爵家から婿を取るなんて言うから、
どれだけすごい魔術師なのかと思ったのに。
ねぇ、婚約解消した方が良いんじゃないかしら。
何の役にも立たない魔術師に公爵家次男なんてもったいないわ。」
あぁ、そういうことか。
ここで私に恥をかかせてレイニードとの婚約解消させたかったんだ。
最初から私には無理だと思っていて、その上で氷を出せと言っているのね…。
ようやくビクトリア様が何をしたいのかがわかった。
だけど、そういう問題ではない。
出せるか出せないかではなく、ここでは出してはいけないのだから。
「…王宮内での魔術の使用は許可が必要となります。
その許可がない限り、魔術で氷を出すことはできません。」
「だから何?言い訳にしても下手過ぎじゃない?
私がしろと言っているのよ?許可しているじゃない。」
「いいえ。許可を出せるのはビクトリア様ではございません。
陛下の許可と、本日の場合はジンガ国のアヤヒメ様がいらっしゃいますので、
ジンガ国の許可も必要となります。」
「何それ…そんなの良いからやりなさいよ。
できないからってグダグダ言ってるんじゃないわよ。
どうせできないからそんなこと言ってるのでしょう?」
あぁ、もうダメだ。この王女様…。
私が謝って済むならそれで終わりにしてしまいたいくらいだが、もう無理だ。
この場には他国の王族がいる。国内の貴族だけではない。
まさかビクトリア様がここまで説明してもわからないなんて。
他国の王女がいる場での発言を誤魔化すことなんて出来ないのに…。
どうして理解してくれないのだろう。
周りの令嬢たちは魔術に関して詳しくないにしても、
王宮内で陛下の許可なしに勝手なことをしてはいけないくらいは理解している。
ましてや、私の隣にはジンガ国のアヤヒメ先輩がいる。
サウンザードとは比べ物にならないほど大国の王妃から生まれた王女。
同じ王女とは言え、アヤヒメ先輩の方が格が上になる。
そのアヤヒメ先輩を招待した席でこのようなことをするとは…。
リリーナ様もビビアン様もそのことに気がついて青い顔しているが、
話の途中で止めることもできずに困っているようだ。
ビクトリア様は勝ち誇った顔をしているが、私が折れるわけにはいかない。
背筋を伸ばし、視線をそらさずにもう一度はっきりと断った。
「もう一度言います。陛下とジンガ国の許可がありません。
何度言われても同じです。使用許可がない場合はできません。」
「…みっともないわね。
できませんって謝ったらいいのに。
できないのでしょう?
たいしたことないくせに氷姫だなんて呼ばれて良い気になって。
ここに集まっている皆さんに謝りなさいよ。」
これ以上何を言えば…様子をうかがいに来た女官がどこかへ行くのが見えた。
陛下かジョージア様に伝えに言った?
もう少し待てば何とかなるかな…。
まだ言い足りないのかビクトリア様はまだ何かを言い続けている。
ビクトリア様が一方的に私を責めているのを止めたのはアヤヒメ先輩だった。
「謝る必要は無いわ、エミリア。
ここでの魔術の使用は許可しないわ。」
「誰よ…あなた。失礼ね。」
え?ビクトリア様、アヤヒメ先輩のことを知らないの?嘘でしょう?
他国の王族を招待しておきながら何も情報を持っていないの?
ビクトリア様の黒髪黒目、しかも虹色をお持ちなのに…
会ってすぐに気がつかないなんて。
さすがに自分のことを知らないと言われてアヤヒメ先輩も驚いたようだが、
扇子を閉じると艶やかに笑った。
「あら、わたくしのことを知らないとは。
今日が初めての主催だとは聞いていたけれど…
お茶会の主催をするのはまだ早かったのではなくて?」
「なんですって!?」
「わたくしはジンガ国第三王女のアヤヒメです。
そちらがわたくしを招待しておきながら知りもしないとは。
幼いとは聞いていましたが、王女は何歳になったのかしら?
十歳にはなっていないのよね?五歳くらいかしら?」
「は?何を言っているの?」




