101.ひどいお茶会
「エミリアも火蜘蛛の布で作ったのね。」
「はい。この時期に中庭でのお茶会ですから…かなり暑いと思います。
魔術具の使用許可は出ないと思うので、このドレスにしました。
このドレスなら多少の暑さは耐えられますから。」
アヤヒメ先輩の側付きという形でのお茶会の参加になったので、
最初からアヤヒメ先輩と一緒に行くことにしていた。
待合室にあらわれたアヤヒメ先輩は私のドレスを見て、
すぐに火蜘蛛糸のドレスだとわかったようだ。
アヤヒメ先輩のドレスも同じ素材で、考えることは同じだった。
火蜘蛛から採れる糸は防火、耐火に優れていて、断熱効果もある。
この暑い時期だというのに、なぜか中庭でのお茶会だという。
そんな状況では、薄手のドレスにしたとしても汗だくになってしまう。
下手したら暑さで倒れてしまうかもしれなかった。
周囲を涼しくする魔術具もあるのだが、毒消しの魔術具と違って、
周りに魔力を放出させるような魔術具は王宮内での使用が禁じられている。
人によっては魔力に酔って体調を崩してしまうことがあるからだ。
それに護衛する側の計画にない魔力や魔術は、
その場にいる人を危険にさらしてしまうこともありえる。
そのため断熱素材の火蜘蛛布でドレスを作って来た。
水色に染めているが、光にあたると紫色に光るのが特徴だ。
アヤヒメ先輩は赤に染めていて、一部が紫色に光っているように見える。
そんなことを話しているうちに会場である中庭に着いたが…
私とアヤヒメ先輩は驚きのあまり立ち尽くしていた。
「嘘でしょう…信じられない。」
「ええ、私もです。どういうことなんでしょうか…?」
案内された中庭にはテーブルセットが三つあるだけだった。
通常、中庭でお茶会が行われるときには大きなテントを張るか、
大きな布を何枚も張って影を作る。
涼しい時期であっても令嬢たちに直接日が当たらないようにしている。
…なのに、この会場には何もない。
日差しを遮るものが何もなく、席についている令嬢たちは皆困った顔をしている。
アヤヒメ先輩に合わせて最後に入場したのだが、ビクトリア様はまだいなかった。
奥のテーブルにリリーナ様とユールリア公爵家の長女ビビアン様が座っていた。
アヤヒメ先輩と私もこのテーブルに席が用意してあった。
挨拶をするとリリーナ様もビビアン様も困っているようだった。
公爵令嬢のお二人が黙って座っている以上、
他のテーブルにいる侯爵家の令嬢たちも座っているしかない。
見渡すと顔見知りばかりだ。
最終学年のビビアン様の学年の侯爵令嬢が二人。
リリーナ様と同じ学年の侯爵令嬢が六人。それにアヤヒメ先輩と私で十一人。
ビクトリア様を入れると十二人で三テーブルになっている。
地面からむわっとするような熱を感じるし、
耐熱性のドレスを着ていても顔などは日が当たっている。
そんな暑さの中で話が弾むわけもなく、
おそらく直射日光の下に長時間置いておけないという理由で菓子も出されていない。
お茶は主催が来てから出されるにしても…。
ただじっと待っていると、ビクトリア様がようやく表れた。
青のドレスには白いレースがふんだんに使われていて、
さわやかには見えるがやはり暑いことには変わらないはずだ。
ビクトリア様はこの暑さをどう感じているのだろうか。
「サウンザード国第一王女のビクトリアよ。
わたくしのお茶会にようこそ。
本日はゆっくり楽しんでくださいね。」
その言葉に周りにいた使用人達が菓子を運び、お茶を用意し始める。
…この状況を見て、ゆっくり楽しんでと言うビクトリア様の考えがわからない。
どうする気なのだろうかと思っていると、ビクトリア様が私を見ているのがわかった。
「ねぇ、そこのあなた。銀色の髪の。
エンドソン家のエミリアってあなたのことかしら?」
「…?はい。エミリア・エンドソンと申します。」
「そう、あなたが。
学園では氷姫って呼ばれているのでしょう?
今日のお茶会を中庭にしたのはあなたの魔術を見たかったからなの。
氷姫といわれるくらいなのだから、氷を出せるのでしょう?
なら、この中庭を氷で埋め尽くせるかしら?」
「…え?」
この中庭を氷で埋め尽くせ?ここで魔術を使えと言っているの?
驚いて反応を返せずにいると、ビクトリア様は楽しそうに笑った。




