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再会



 馬を走らせながらルカはメリッサの姿に想いを馳せていた。

 披露宴の招待状を見た途端、とうとうルチア王太子とメリッサが結ばれてしまうのか、と、長い初恋に終止符を打たれた絶望でいっぱいだった。


 招待状をしっかり確認せずに、来てしまった自分もいけない。

 だが蓋を開けたらどうだろう。



 結ばれたのは、互いに思い合っていた二人なのである。



 ではメリッサは?

 何処にいて何をしているのだろう。

 二人の婚姻に祝福の手紙を贈ったと聞いたが、哀しんではいないだろうか。



 どんな事を想像しても、辿り着く答えは早く会いたくて仕方がない。という事だけ。



 ルカは自分の乗り慣れぬ馬を上手く扱い、アルム領へと急いだ。




 ***




「おかえり」



 扉を開けた途端、想像だにしていなかったそんな言葉が返ってきたルカは驚き立ち止まってしまった。


 アッシャムスとの国境近いアルム領は、辺境にあるとはいえ、とても明るく活気があった。

 ラフトゥの首都部よりも2、3度気温が高く、確かに街自体は大きくはないが、何より皆元気であった。


 隣国から一番初めに攻め込まれる砦。


 気持ちで負けてはならぬという気概が感じられてルカはこの様な街の雰囲気が嫌いではなかった。

 現に街中には国を守る騎士たちが至る所におり、この街はその家族や元々暮らしていた住人たちで賑わいを見せている。


 彼はそこを通過し、少し離れたアルム公爵家へ足を向ける。

 

 屋敷の姿は遠くからでも認識する事ができ、その姿が大きく露になるにつれ、胸を打つ早鐘までも音を増す。


 ここへ来るまでに、たくさんのシュミレーションをした。



『久しぶりに会えてとても嬉しいよ。メリッサ。実は騙していたみたいで心苦しかったのだけれど、僕は男だったんだ』


 いやいや。


『はじめまして。お嬢さん。貴女の様な美しい方に……』


 ない。


『昨日ルチア王太子とエトーレ様の婚姻式に参加してきたんだ。彼と結ばれるのはずっと君だとおもって』


 絶対にない。



 どんなに出会いを妄想してみても、それに続くメリッサの言動も想像つかなければ、自分が女の立場で接すればいいのか、男で対応すればいいのか、全く答えが導き出せない。

 勿論、格好は男であるが、長年女性の姿で生活してきたからか、時折「女性の気持ちが良く分かるのね」と、褒められているのか、それとも男っぽくないと暗に言われているのか分からないまま、過ごしてきた。




「あら。間違えてしまいました?」




 ずっと相手からの反応を待っていたが、何も返ってこないので、発した言葉を自分で回収する。


 顔を合わせた瞬間に「おかえり」なんて言われると思ってもいなければ、自分がなんと返事をしたらいいのか分からず、ただ身体の反応としては「久しぶりのメリッサだ」と抱き締めたくなってしまっただけ。



「ええっと。何の御用で」



 全く反応のない訪問者を彼女は訝しがり始め、様子を見ようと決めた様だ。


「私はルチア王太子様からの便りを」


「あら。ルチア様から?」


 彼の名を出した途端、彼女の顔は見る間に綻び、その表情の変化が、昔みたいにルカの胸をキュッと締め付ける。


「昨日エトーレ様との婚姻式でしたわよね。お祝いの手紙は出したのだけれど、ここを空けるわけにもいかないし」



 会わない間にメリッサの雰囲気は変わった。



 表情はクルクル変わるし、友人たち以外にはあまり自分から話し掛けたりしなかった。

 腰まで長かった髪もバッサリと切られ、動きやすそうである。


「あなたも参列されたのかしら?」

「え……ええ。招待状が届きましたので」

「あらそうですの。それで、ええっと」


 呼ぶ名を名乗られていなかったメリッサは、相手を何と呼べばいいか分からず、口を閉ざす。


「申し遅れました。私、ダーファン国から参りました。第三王子ル…………イゼットと申します」


「……ルイゼット様」


 心の準備はしてきたものの、名乗り出る勇気は出なかった。


 嘘と本当を織り交ぜ、ルカは既での所で本当の事を飲み込んでしまう。


「私はメリッサ・ブリーズと申します」

 以前の様にドレスは身に付けていないが、動きやすそうなワンピース姿で挨拶をする姿は、ルカが慕い続けた彼女の姿。


「ル……イゼット様はルチア様と仲がよろしいんですの?」

「え?はい。まあ」

 そう答えてもいいだろうか。

 仲が良くなった、というよりも、打ち解けたと表現した方が正しい気もするが、そんな細かな事など今はきっとどうでもいい。


「ルカ……様はお元気ですか?」

「え?ええ。元気でやってますよ」

 自分の名を呼ばれ、隠れた心がドキンと高鳴る。

 出身地を明かしたのだから、聞かれるのは当然で。


 質問してくる言葉にどう答えればいいのか、咄嗟についてしまった嘘が正しかったのか間違っているのか、まだ判断がつかないまま。


「よかった」


「え?」


「ずっと気がかりでしたの。何の言葉も交わさずに帰られてしまったので。体調を崩してしまい、家族の元で療養すると聞いてから、私も手紙を出そうとしていたのですが、勇気が出せずにいたので」

「勇気?」


 言葉を拾われ聞き返されたメリッサは少し顔を歪めて笑う。


「か……のじょから。……とても大切な気持ちをずっともらっていたのに。私はどんな言葉を返せばいいのか、分からないまま、時間だけが過ぎて。ルカを想うと心が柔らかくなるの。そしていなくなってしまった息のしずらさに気付いてしまってから、自分の心の所在を」


 そこまで話して、メリッサはハッと口を結んだ。


 これは、ルイゼットに告白する事ではない。

 本人に言わねば意味がない、と、思い至ったからである。




「もしお時間があるようでしたら、休まれていかれてはいかがですか?首都からここまで距離がありますから。それにそろそろ焼き上がるので」


 少ししんみりしてしまった空気を、メリッサが明るく変えると、返事を聞く前に「こっちです」とルカを先導し、移動を始める。

 ルカはルカで何か言いたげに口をパクパクさせたが、ひとまず断る理由もないので、大人しく彼女の背中についていく事にした。






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