右目でスキルを奪い、左目でスキルを付与する〜唯一無二のスキル管理人、仕えた国に突然追放されたので、エルフの国を最強にする。「スキルは神の奇跡、お前は詐欺師だ!」って言うなら試しても問題ないよな?
「ガリウス・リグレッドに命ずる。今すぐ荷物をまとめて王宮から出て行け」
——寝耳に水。忠誠を尽くした王の言葉に、俺は言葉を疑った。
「い、今……なんと?」
「ふむ、耳が悪くなったのか? もう一度言ってやろう。貴様のような不純物は王宮に必要ない。今すぐ出ていくが良い。出ていかぬというなら……ワシに強行させないでくれよ?」
「……っ!」
どうして、こうなっちまったんだ……?
俺が何かヘマをしたわけじゃない。
国王ジャックは急に考えを変え、俺に対する評価を百八十度変えてしまった。
「どうしてですか⁉︎ 俺はスキル管理員としてしっかりこの国のために……」
「デタラメを言うな! ペテン師め」
国王がそう声を荒らげると、周りの役人や兵士が同調する。
「そうだ! スキルは神が与えてくださったありがたき力なのだ!」
「神により与えらえたスキルを人間のお前が管理するなどおこがましい!」
「お前は罪人と組んでスキルを奪ったなどと嘘をついて金稼ぎをする大罪人だ!」
神教徒。
今、この国では神教と呼ばれる信仰カルト宗教が勢力を広げている。
神教では、様々な超常現象を起こすことで知られる『スキル』は神が持つ神聖な力であり、人間に扱えるはずがないと信じられている。
もちろん神教徒の中にもスキルを扱える者はいるのだが、『神のご加護』などと称して、あくまで借り物の力であるという認識である。
それだけなら信じるものは自由だし、俺だって気にすることはない。
しかし、神教徒たちは俺のスキル——右目でスキルを奪うことのできる『略奪』と、左目でスキルを与えることのできる『付与』が教えに反しており、「人間にスキルを自由に付け替えできるわけがない。そんなものはウソだ」と煩く主張する。
「俺はこれまで国が選んだ勇者や剣聖にスキルを付与してきました! それは陛下だって直接見てましたよね? いや、陛下だけじゃない。大臣だって、役人だって、王宮にいる者なら誰だってわかるでしょう!」
そう叫んだが——
「それこそ神の御業だ! 神の奇跡を我が物顔で騙るペテン師め!」
……という次第である。
「どうして急に考えを改めたんです⁉︎ 少し前までは神教徒なんてとんでもない連中だと言っていたじゃないですか!」
「その時はワシもよく知らんかったのじゃ。しかし新しい妾が色々と教えてくれての。貴様の嘘も暴かれたということじゃ」
……そういえば、最近新しい妾を取ったとも聞いたな。
その女に影響されたということか。
ここに言葉が通じる者はいない。
正確には、まだ全員が謎のカルト宗教——神教に染まってしまったのではなく、無事な者もいる。
俺が謁見の間に連れられた時は心配そうに見ていたが、誰一人して口に出して擁護してくれはしない。
国王がそう言っているのだ、口を出せるはずもない。
みんなにも生活がかかっているから仕方ない。……そうは分かっていても、あまりにも理不尽すぎる。
そんなことを思い項垂れていると、近づいてくる懐かしい人影があった。
「ダスト! お前王都に戻ってきてたんだな! な、ダストからもなんか言ってやってくれよ!」
「何を勘違いしてるんだ? ガリウス、残念だぜ。まさかお前がそんなやつだったとはな。崇高な神の教えに背くとは……」
ダスト。
ヨレた白衣に、目が覗けないほど伸びきった茶髪。時々チラッと覗く赤い瞳。頬が痩けており栄養状態が心配になる男。……間違いない。
王宮に使える回復術師で、俺の同期でもある。
ここ最近は辺境を巡って勉強に励んでいたと聞いていた。久しぶりに再会できたと思えばこれか。
「ダスト……お前どうしちまったんだよ⁉︎ お互いスキルを磨いて、国に貢献して、偉くなるんだって語りあってたじゃねえか。俺のスキルを褒めてくれたこともあったよな? 神教なんかには絶対ハマらないとも言ってたよな⁉︎」
「さあ? そんなこと言った覚えはねえな。何も覚えていない。何も……な。それよりも、崇高な神の教えを信じられないとは、哀れなやつだな」
「……⁉︎」
神教徒はどいつもこいつもこうだ。
話がまったく通じない。都合の悪いことはすぐに忘れる。根拠もなく想像の中の神を全面的に崇拝し、異教徒を哀れなやつだと見下す。
ぐぐ……。
右手を強く握り、怒りやら哀しみやら、諸々の感情を潰す。
「忘れたって言うなら思い出させてやるよ! お前が磨いていたスキルがなくなれば、嫌でも思い出すだろ! 全部思い出したら返してやる!」
俺の右目が赤く煌めいた。
普通、人間がスキルを使う際に目を使うことはない。
しかしなぜか俺は先天的に二つのスキルが目に宿ってしまっていた。
『略奪』を使う際には右目が赤く煌き、『付与』を使う際には左目が蒼く煌く。
これこそが、長年この国に貢献してきた俺のスキル。
いくつもの戦争で強力な戦果を出した英雄をも生み出した、自慢のスキル——
「お、おい! 取り押さえるんじゃ!」
国王の声で、周りの兵士が俺の四肢を拘束してくる。
だが、もう遅い。
「うがあああああああっっっ⁉︎」
ダストは急にその場に蹲り、のたうち回った。
特別な配慮をしなければ、スキルを剥がされる際には生きているうちではありえないほどの痛みが伴う。
気付け。気付いてくれ。
この痛みこそが、俺が何も嘘をついていない証拠なんだ。
「どうだダスト! 思い出したか⁉︎」
「スキルが使えない……こ、これが神の奇跡か!」
心の底から落胆した。
……もう、どうしようもないみたいだ。
俺は心の中で白旗を上げることとなった。
「とんでもねえやつだ!」
「そのまま摘み出しちまえ」
「ここまできてさらに神の御業を騙り罪を重ねるとは……この畜生が!」
そんな罵倒とともに、王宮を追い出された。
◇
小一時間、空高くそびえる頑丈な王宮の門の前で青空を見上げた。
物心ついた頃には才能を見出され、田舎から王都に連れてこられた。
今でもそれは名誉なことだと思っているし、俺を捨てた両親や王、役人たちを恨んでいるわけでもない。
しかし、スキル管理員としてしか働いてこなかった俺に、今更何ができるんだろう。俺は、何をすべきなんだろう。
王宮のスキル管理員の肩書を失った今の俺は、何者でもない。
ポケットに入ったままの少しばかりのお金が俺の全財産。
この金が尽きれば貧民街にでも堕ちるんだろうか、それとも野垂れ死ぬんだろうか……。
「…………」
とりあえず、明るいうちに王都を出よう。
王宮を追い出されたという俺の噂はすぐに広まるだろう。
もうこの街に俺の居場所はないんだ。
王都の出入り門へ、商業エリアを経由して向かう。
他愛もない世間話が勝手に俺の耳に入ってくるのはいつも通りなのだが、驚いたのはその内容だった。
「お前まだ入信してないんだってな? まあ、怪しいと思うのはわかる。わかるが、まずこの本読んでみろって。王立学院の権威ある先生がまとめたわかりやすい解説書だ。それから答えを聞こう。な?」
「最近よく聞くけど、神教ってそんなにいいのか?」
「もちろんよ。俺も入信してからなぜか仕事が上手くいくようになったし、日常に張りが出るようになって毎日イキイキしてるよ。ついでに可愛い彼女まで出来ちまったんだぜ? 悪うことは言わん、入っておけ」
「それ神教が関係あるのか? たまたまにしか聞こえねえけど……」
「まー、そう思うのはわかる。俺も最初はそうだったからな。騙されたと思ってこの本一冊読んでみろって。見える世界が変わるぞ」
「お前がそこまで言うんだったら……でも、読むだけだからな?」
他にも、こんな勧誘の声がいたるところで聞こえてくる。
王都の一般人たちにもいつの間にか神教が浸透していたみたいだ。
サンプルが少ないが、感覚的に半分くらいは既に信者になってしまっている。
爆発的に勢力を広げていたと言っても、せいぜい人口の一パーセントくらいだったはず。……少なくとも、三ヶ月前までは。
王宮に篭りっぱなしだったから、ここまで広がっているとは思わなかった。
いったい、何があったっていうんだ……?
もしかして俺の方がどうかしているのか……?
いやいや、そんなはずはない。
「やめてください! 急いでるんです!」
頭の中で街の異常事態について整理しながら歩いていると、路地裏の方から困った女の子の声が聞こえてきた。
「我々の祈りは神の祈り。神のありがたい祈りよりも優先することなんてありますか? 後悔することになりますよ。絶対に」
「そうだそうだ! 入信するか、祈りを最後まで受けるまでは通さねえ。それがテメエのためなんだからな!」
勘違い神教徒たちに通せんぼされているのは、まだ年端もいかない美少女。
顔立ちは俺と同じ十五歳くらいだろうか。
背中いっぱいまで伸びた金髪のロングヘアーに、透き通るような蒼い瞳。華奢な肢体にはアンバランスなくらい大きな胸。
特徴的なのは、普通の人間では見たことがない尖った長耳。
——この特徴……エルフか。
通りで美人なわけだ。
王都の近くにはエルフの里があり、時々街でも見かけることがある。
エルフは皆揃って美男美女だと言われており、実際に俺が見てきたエルフたちもそうだった。
この子も、例に漏れずということらしい。
厄介ごとに自ら首を突っ込むのは俺の主義ではないが、形式的には王宮から追い出されても日付が変わるまではスキル管理員——すなわち国に使える公僕である。
「はぁ」
助けてやりますか。
「おい、そこで何してるんだ? その子急いでるって言ってるだろ」
「なんですかキミは。我々の邪魔をする気ですか?」
「もしそうだったら?」
神教徒の顔が歪み、俺を睨んだ。
いつもは張り付いたような笑みを浮かべているだけに、ぎょっとしてしまう。
「神を信じない不届き者には鉄槌が下るでしょうねぇ……その前に、私が救済してやらねばなりませんねえ!」
そう叫ぶや否や、神教徒の男が襲いかかってきた。
右手には重そうな鉛の剣。
ひぇ……なかなかの迫力だな。
でも、図体がデカイからって戦って俺が負けるわけじゃない。
まずは、この男たちがスキルを持っているならスキルを奪ってしまおう——とその前に。
俺のスキルスロットは合計で三個。
『略奪』と『付与』の他に、ダストから奪った『回復』まで持っているから、スキルを奪おうにも奪えない。
スキルを『略奪』するまではスキルがあるのかどうか、そのスキルの正体がなんなのかがわからない。
ひとまず、あの子にスキルを預けておくとしよう。
俺の左目が蒼く煌き、少女に『回復』のスキルが移動する。
痛みを伴わないように気をつけて——んん?
付与は滞りなく行われたのだが、スキルスロットを確認して驚いた。
スキルは一つも持っていないが、空きスロットが合計で六個。
スロット数は生まれつき決まると言われているので、スキルさえなんらかの形で手に入れば、間違いなくこの子は俺が作ってきた英雄以上の素質がある。
……と、そんなことを考えている場合でもないか。
遅い来る神教徒に向けて、『略奪』のスキルを使う。
右目が赤く煌き、略奪に成功した。
しかし——
「なんだ、スキル無しか……」
王宮でずっと働いていたので感覚が麻痺していたが、どんなスキルであれ、スキルを持つ者は貴重な存在だ。
その辺に歩いている男が持つものでもないか。
それなら、話は早い。
俺は、なにもスキル管理員としての職務しかして来なかったわけじゃない。
最低限の体術とトレーニングを怠らなかった。
相手は所詮素人。腕っぷしだけの勝負なら負けるはずがない。
「なんだその遅いパンチは?」
立派な体格をしていたので多少は期待していたのだが、がっかりするくらい遅いな……。
俺は拳をひょいと躱し、男の鳩尾に俺の拳を叩き込む——
「ウガァッ…………!」
威力十分。
俺の攻撃をくらうや否や、その場にへたり込む男。
「く、クソォ……まぐれとはいえ人一倍信仰が強いアニキをやるとは……テメェ、何者だ⁉︎」
仲間の神教徒が俺を鋭い目付きで睨んでくる。
「ガリウス・リグレッド。今は何者でもないよ」
「ガ、ガリウス・リグレッドだと⁉︎」
ん? 俺の名前を知っているのか。
「どんなにしつこく勧誘しても折れねえっていうアレか……にしてもそいつがここまで強えとはな……」
そんな風に噂されてたんだな。
確かに、ここ最近勧誘が露骨だし回数も多くなってきたように感じていたが、キッパリと断っていたからな。
「手を出すな。……無理だ、格が違う」
「で、でもここで引くわけにも……」
「なーに、心配するな。こいつのことは司祭様の耳に入れておこう。神を信じぬ可哀想な者には神の鉄槌が下るはずだ!」
「戦略的撤退……苦渋の決断ですな」
そのように作戦会議をすると、この場を去る二人。
……まったく、何を言っているんだこいつらは。
まあ、消えてくれたならなんでもいいか。
俺は、きょとんとしている女の子に目を向けた。
「大丈夫か? 怪我とかないか?」
「大丈夫です! あ、あの助けてくれてありがとうございます……ガリウスさん!」
「いいよ。……っていうか、膝擦りむいてるぞ?」
「このくらい怪我でもなんでもないです。あっ、そんなことよりも急がないと——痛っ……」
歩き出そうとして、膝を手で押さえる少女。
苦悶な顔を見ると痛みが消えていないことが丸わかりだ。
この子に預けておいたスキルを俺に戻して、治療しておこうか……いや。
ダストから奪った回復スキル自体は俺には必要ない。
合理的に考えれば、スキルランクC程度のスキルでスキルスロットが圧迫されるよりは、身軽な方が実は良いのである。
もう、このままでいいか。
ダストは変わってしまった。
長い付き合いだとは言っても、所詮は赤の他人。
俺がどうにかできることじゃないし、ダストが今後考えを改めることはないんだろう。
スキルレベルが低いとはいえ、神教徒にスキルを返すのは論外。
それなら、スキルを持たないこの子にあげてしまった方がよっぽど有意義に使ってくれる。
「君、名前なんて言うんだ?」
「え? あっ、私ルキナって言います。名前も名乗らず、失礼しました……」
「いいよ、そんなこと。それより、ルキナは回復が使えるはずだ。自分で治療してみたらどうだ?」
彼女の名前を聞いたのは、さっきの神教徒たちのような下心じゃなく、名前を知らないと話づらかったからだ。
「え、でも私スキルなんて持って……」
「いいから。患部に手を添えて、魔力を流すイメージでやってみるんだ」
「わ、わかりました!」
素直だな。
俺が何も知らずに突然そんなことを言われても、何か裏があるんじゃないかと勘ぐっていただろう。
「別に何も……って、あれ⁉︎ これって奇跡の光……⁉︎」
ルキナの言う奇跡の光というのは、『回復』スキルを使った時に出現する淡い黄色の光。
Cランクとはいえ、このくらいの怪我なら一瞬で治せてしまう。
「奇跡の光? 変わった言い方をするんだな。これは光の粒になった魔力が身体に働きかけて再生を促しているんだ」
ルキナの傷跡は最初からなかったかのように綺麗に消滅した。
「すごいです……でも、どうして急に私にスキルが……?」
「実は、俺の特殊なスキルでルキナに回復スキルを付与したんだ」
「ど、どういうことですか⁉︎ と、というかそんなとんでもないスキルを私に……なんで……⁉︎」
なんで——と言われても困る。
悪いことに使わなそうなら誰でも良かったというのが正直なところなんだが……。
「あっ……奇跡の光……これがあればもしかして……!」
何かを思い出したように呟くルキナ。
「あ、あの! ガリウスさん! 時間はありますか?」
「ん、まあ……あるっちゃあるけど」
……というか、王宮を追い出されたのと同時に職を失ったので、全てが暇な時間とも言える。
「じゃあ、エルフの里についてきてもらってもいいですか⁉︎ この奇跡の光で治したい人がいるんです!」
「なるほどな。それはいいんだけど、もうルキナは十分一人でスキルを使えるぞ? 俺が行くまでもないと思うんだが」
「まだ私自身使い方が良くわかっていないんです! それに、ガリウスさんにお礼がまだですし……」
お礼は別に望んでないので良いんだが、確かにスキルを覚えたばかりで一人で使いこなす自信がないというのは理解できる。
俺はスキル管理員として数えきれないほどのスキルを扱っていたから、どんなスキルでも初見で上手く扱うことができるが、俺が付与してきた英雄であってもよほどセンスが良くなければ多少の不安は拭えない様子だった。
攻撃系のスキルなら最初から使いこなせる者も多いが、支援系のスキルはちょっと特殊で、使いこなすまで苦労する者も多い。
「わかった。なんかよくわからないけど、ついていくよ」
「ありがとうございます! ガリウスさん!」
「ガリウスで良いよ。それより、急いでるんだろ?」
「あ、そうでした! ガリウス……こっちです!」
◇
王都を出て、新緑の森の先。
ここまでずっと走ってきたので、ルキナにも疲労の色が見える。
思ったよりもエルフの里は近かった。
「そういえば、俺なんかがエルフの里に踏み入って良いのか……?」
エルフの里は、この王国の中でも特殊な地位にある。
王国の中の特別自治区としての位置付けのため、実質的には他国のようなもの。
民間人は許可なしに立ち入ることはできないし、王族であっても形式的に許可を取ってから入ることが慣例になっている。
アポなしで王族に会いに行くレベルの失礼極まりないことなんじゃないだろうか。
「大丈夫です、私が許します!」
「私が許しますって、あのなぁ……」
「私を信じてください」
こんな若いエルフに何ができるっていうんだ……?
とはいえ、このまま別れても俺には行く当てがあるわけでもない。
仲間もいなければ、家族の消息も知らない。——天涯孤独の俺に、今更失うものなんて何もないか。
エルフの里に無断侵入したところで、どんな罪になる?
殺されるようなことまではないだろうし、実質ノーダメージだろう。
考えてみれば、こうなると無敵だな。
「はぁ、わかったよ」
エルフの里の警備は、王都に比べればかなり手薄だった。
門番がたったの二人。どちらも悔しいくらい美形な男のエルフである。
とはいえ、見張りがいるんじゃここで止められるんだろうな。
「ルキナ様、お帰りなさいませ!」
「ルキナ様、その者は……?」
「私のお客さんです! 後で説明するので通しても良いですよね⁉︎」
「も、もちろんでございます!」
え……?
こんな緩いやりとりで身分すら調べずに里の中に入れちゃっていいものなんだろうか。
エルフの里がゆるくなったのか、この子が凄いのか。
……よくわからないが、これで堂々と入れたわけだ。
入り口は開けた場所になっており、エルフの里を一望できた。
エルフの里は、俺が思っていたよりも思いの外発展していた。
自然とともに生きる——というイメージ的に、王都の人間はエルフの里が何もない田舎だと思い込んでいたし、俺も例外じゃなかった。
しかし、実態は違った。
里の中央に堂々とそびえ立つ大木を中心に立派な街が形成されている。
王都よりも人工物と自然の調和が取れており、むしろこっちの方が未来的なんじゃないかと思えてしまうほどだ。
エルフの里に入ってすぐに、銀髪の少女が仁王立ちしていた。
顔はルキナより少し幼い感じ。碧の瞳に、艶やかなロングヘアー。華奢な肢体だが、胸が大きくて目のやり場に困ってしまう。——そんな感じだ。
髪の色と瞳の色以外はルキナにそっくりな気がした。
「ルキナ姉、遅い! 何してたの? ルキナ姉がいない間にお父さんが大変なことに……。って、それもそうだけど、その人間誰⁉︎」
「まあまあ落ち着いてください、アリエル。この人はガリウスですよ」
「いやいや、ガリウスって誰よ⁉︎ それより薬は買ってきたの⁉︎」
「薬は買ってきましたよ。それより、ガリウスは命の恩人です。ちゃんと挨拶してください!」
命の恩人ってほどでもないんだけどな。
スキルをあげっていうだけで何を大袈裟な。
銀髪の女の子にも訝しげな目を向けられている気がするし。
「ガリウス、失礼しました。この子は妹のアリエルです。生意気ですけど、悪い子じゃないので許してあげてほしいです」
「別に気にしてないからいいよ。それよりお父さんが大変って……治したい人と何か関係があるんじゃないのか?」
「そ、そうなんです! 後で詳しくお話ししますね。えーと、じゃあ私たちの家まで来てもらえますか?」
「分かった」
どうも変なタイミングで押しかけてしまったらしく、アリエルからは歓迎されていないような感じを受けた。
こうして、急ぎ足でルキナの実家に案内されたのだった。
◇
ルキナの実家は、エルフの里の他の民家と比較して一際大きく、立派だった。
権力者なのか、あるいは商売が上手く行っているのか。
なんにせよこの里の中での地位は高そうだ。門の前でのルキナに対する対応も合点がいった。
「最善を尽くしましたが……残念です。別れの言葉をどうぞ……」
鎮痛薬を持ったアリエルが真っ先に奥の部屋に入るや否や、白衣のエルフが小さく呟いた。
「そんな……」
アリエルがガタッと膝を落として、両手で顔を覆った。
来たばかりでまったく状況が掴めない俺でも、とんでもないタイミングに遭遇してしまったということはなんとなくわかる。
消毒薬の匂いに包まれた部屋の中には、ベッドに横たわる衰弱した男性エルフの姿があった。
包帯でグルグル巻きにされており、痛々しい。
何かの怪我の治療をしていたのだろう。
ルキナとアリエルが姉妹で、場所は実家。
つまり、この人がルキナたちのお父さんということか。
「ルキナ、アリエル……そこにいるのか」
「ここにいるわ! ルキナ姉も一緒! 聞こえる⁉︎」
こんな場所に俺が本当に居て良いのか……。
ただただ見ていることしかできなかった。
「アリエル、そこを空けて。お父様、ジッとしていてくださいね」
ルキナがベッドの上のエルフの上に手をかざした。
淡い光が煌めく。
——俺がさっき付与したばかりの回復魔法だった。
ルキナはセンスが良い。あの一回で回復スキルの使い方を覚え、完璧に使いこなせていた。
「ルキナ姉、それって……?」
「そうです、奇跡の光です」
「いつの間にそんな力を⁉︎ で、でも奇跡の光があれば……!」
回復に期待するルキナとアリエル。
でも、これじゃあ瀕死の怪我人を救うことはできない。
この場で決して伝えはしないが、このスキルじゃ無理なんだ。
ダストから奪った回復スキルは、Cランク。
ランクに応じて魔力の変換効率、回復速度、回復の質が変わってくる。Cランク程度では、せいぜい切断されてすぐの四肢を元に戻すくらいのことしかできない。
このエルフ——ルキナたちの父は、怪我をしてから数日が経過してしまっていることに加え、傷が大きすぎる。
今まで生き延びていたこと自体が奇跡である。
『焼け石に水』という言葉がある。
肉体へのダメージの方が、回復速度より高い以上はどうすることも——
と諦めかけたその時だった。
「え……?」
衰弱し、死の間際だったルキナの父の身体は、どんどんと癒えていく。
「こ、これはすごいですぞ! これは助かるかもしれない!」
白衣のエルフは目の前で起きたことが信じられなかったのか、興奮し、わたわたと震えだした。
ダストから奪ったのは、間違いなくCランクの回復スキル。それなのに、時間をかければ完治しそうな勢いで傷が治っていく。
ありえない。瀕死の状態から完治させるなんて、Aランクはないと無理だ。
でも、現実に目の前で起こっている。
「奇跡の光——か」
そう言えば……。
記憶の奥底を辿ってみる。
これはスキルについての研究書などではなく、神話の時代の逸話の一説。
——エルフは、本来的に支援に適している。
神話の中のエルフは、『回復』や『強化』といった支援系の立ち位置において尋常じゃない能力を発揮したと言われている。
あれが本当だとしたら、Cランクの回復スキルでも、ルキナが扱いさえすれば、Aランク程度の性能を引き出すことができる……?
「……っ」
俺は唾を飲み込み、ルキナをジッと見つめた。
集中を切らさないため声に出さないが、心の中で「頑張れ」とエールを送る。
こうして30分が経っただろうか——
患者であるルキナたちの父は、血色の良い元気な笑顔を浮かべていたのだった。
「し、信じられない! あの状況から完治してしまった! おお……長老、本当に良かった……!」
ルキナとアリエルは当然として、白衣のエルフまで涙を流し完治を喜んでいるのだった。
「ルキナがワシを救ってくれたのか……?」
患者本人も、まだ状況を飲み込めていないようだが、普通に話せるようにまで回復したようだし、俺も一安心である。
それにしても、この見た目で長老なのか……。
エルフはなかなか老けないと聞いたことがあるが、これだとルキナたちのお父さんというより、まるでお兄さんみたいだな。
「お父様、良かったです!」
「それにしても、ルキナ姉いつの間に奇跡の光が使えるようになったの……?」
「これは、そこのガリウスが授けてくれたんです! ガリウスは救世主様です!」
ここで改めてルキナが俺のことを紹介すると、アリエルと白衣のエルフが俺を見る目が変わったのが分かった。
「それって本当なの……!? い、いえそうじゃなくて——ありがとう、ガリウス!」
「お、おう……。どういたしまして」
ルキナに似てすごく美人だから、両手で腕を握られると照れてしまう。
でも回復魔法を付与しただけで治療したのはルキナだし、俺は何もしてないんだけどな。
まあ、喜んでくれているならその気持ちはちゃんと受け取るとしよう。
「ガリウス殿にはなんと礼をすれば良いか……。長老を救っていただき本当にありがとうございます」
ルキナとアリエルが歓喜する中、白衣のエルフが俺に頭を下げてきた。
そういえば、さっきもルキナのお父さんのことを長老って言ってたよな。
「長老って、もしかしてなんだけど……」
「はい、左様でございます。この方はエルフの里の長老ドナクス様です」
「なるほどな……」
ということは、ルキナとアリエルは長老の娘である。
エルフの里での長老の立ち位置は、君主と同等。
とんでもない大物の命を救ってしまったらしい。
俺としては回復魔法を付与しただけなのであまり実感がないのだが。
「にしても、なんでエルフの里の長老があんな大怪我を負ってたんだ?」
「それなんですが、実は神教徒に襲われまして……。ドナクス様は神教徒が布教に来た際『カルト集団』だと一喝して追い払われていたので、そこで恨みを買っていたのかと……」
「なるほど、ここでも神教徒か……」
「どうかされましたか?」
「いや、こっちの話だ。それで、奴らはそれで気が済んだのか?」
「それが……これは聖戦の序章だと息巻いていました。エルフの里での布教活動に応じないなら滅ぼす……と」
なるほど、奴らはそこまでやっていたのか。
俺が追放される直前、神教徒のキナ臭い話は何度か聞いたことがあった。
国王はなぜ対処しないのか疑問に思うほどだったのだが、俺が思っていたよりも奴らの暴走は深刻だったらしい。
「次、神教徒がいつ襲ってくるのかわかるか?」
「それが……明日です」
「早いな……。念のため聞くが、布教活動を解禁する気はないんだよな?」
「ええ、長老はそう仰っています。エルフの信念を貫くと」
もはや、他人事のようには思えなかった。
俺は、成す術もなく王宮を突然追い出された。
それに対して、怒りの感情だって当然持っている。
復讐なんてケチなものに拘るつもりはないが、放っておけば俺のように苦しむ人間が生まれてしまう。
なんたって、奴らは異教徒に対してはどんな理不尽だってやるんだからな。
それを阻止することが俺が受けた傷を癒すことにも繋がるのだ。
だとすれば——
「分かった、それなら俺も力になりたい。そうだな、奴らのスキルを全部奪うのが効率がいいか……。スキルスロットが空いている兵を集めて俺に寄越してくれ。できるか?」
「ええと、それは……」
少し対応に困る白衣のエルフの間を割るように、長老が間に入って声をかぶせた。
「まったく問題ない。ガリウス殿、エルフの里のことなのに力を貸してもらっちまって……どう恩を返せば」
「今回手を貸すのは私情も入ってるから気にしなくていい。任せてくれ」
「よろしく頼む……。この戦いが終わったら盛大に宴を執り行おう」
◇
ガリウスが王都を追い出された頃、王城は騒然としていた。
回復スキルを奪われたダストは、痛みが引いてからも涙を浮かべていた。
「ぐ、グソおおおお……俺のスキルが……!」
それを見た他の新教徒は、介抱もほどほどにガリウスに怒りの矛先を向ける。
「なんということだ! 神への冒涜に他ならん!」
「人間がスキルを使えるはずがないのだ! あんな身勝手なクズを放置できん!」
「きっとこれは神が我々に与えた試練!」
「我々は神を信じない者には暴力も辞さない!」
もはや、神教徒の間では、神しかスキルを使えず、ガリウスがスキルを使ったことへの矛盾などすっかり頭の中から消え去っていた。
あくまでも『神のご加護』は、スキルを神から借り受けるというもの。
その考えに則れば、彼らの神を信仰しないガリウスがスキルを使えたというのはおかしいのだが、そんなことには気づかない。
気づいていたとしても、見てみぬフリをする。
客観的にスキルはあるのだと証明されているのに——である。
そして異教徒には暴力により強引に思想を変えさせるというのが彼らのやり方だった。
「「「「「あの者に鉄槌を!」」」」」
怪しげな黒服たちの大合唱が終わった頃、ダストは国王の前の前に立った。
「国王、ガリウスは頭がおかしい。我々に……いや、神に反逆した罪……死して贖うしかないと思うが、どうする?」
「うむ、それでいいんじゃないか? ワシの方でも行方を調べさせよう」
国王の返事に、ダストは不敵な笑みを浮かべた。
そこに、かつての友人に対する罪悪感はない。
「まったく、あれほど説教されても頑なに神を信じないとは哀れなやつだ」
「この件に関しては司祭様もお怒りだったからな……」
「俺たちの神教徒を傷つけた仇討ちはしなければならない!」
そのように盛り上がってるところに、国王が拳を振り上げた。
ここ数日、進めていた大型案件——
「ええい! まずはエルフどもを襲って景気付けじゃ! 絶対上手くやれよ!」
新教徒たちが盛り上がる頃、わずかに残った正気を保った兵や役人たちは、警戒を高めていた。
「おいおい……この国は大丈夫か……?」
「どうにかしたいが、反逆すれば殺されるやつかよ……もう神教徒のフリするしかねえか」
「ガリウス、強く生きろよ……。幸運を祈る」
◇
翌日、神教徒たちがエルフの里を襲ってきた。
一応は、「布教活動を受け入れるか?」と尋ねてきた彼らだったが、明らかに臨戦態勢。
最初から話し合う余地などなく、エルフの里を潰しに来ているようだった。
「スキルが神に与えられたと信じぬ異教徒めが……やはり実力行使せねばわからぬようだな。……で、あれば仕方あるまい!」
神教徒の耳に響くうざい叫び声を聞かないフリして、俺のもとに集まった五人のメンバーに目を向けた。
長老曰く、エルフの里でも精鋭の若手を寄越してくれたのだという。
男性エルフが二人、女性エルフが三人だ。
女性エルフのうちの二人はルキナとアリエル。
この二人は俺が選んだ。
アリエルはルキナと姉妹だからか、スキルスロットが両者とも六つもあったし神教徒からスキルを奪えばすぐに英雄以上の戦力を身につけられるだろう。
他の者も確認したところ、スキルスロットは二つか三つ。
ルキナたち二人ほどではないが、十分多い部類に入る。これですぐに神教徒を撃退できるだろう。そう思っていたのだが——
「スキルが二つ使えるのは尊敬しますが、エルフの里のことなら俺たちの方がよく分かっているし、毎日修行してスキルに負けない腕を磨いてきた。ガリウスさんは遠くでゆっくり見ていてください」
こんなことをメンバーのうち一人に言われてしまった。
すると、さらに二人続く。
「そっすよ。俺の方が筋肉あるんで、いざという時は守るんで大丈夫っすよ」
「そうそう、アタシこう見えて弓の腕には自信あるし!」
精鋭ゆえに自信があるのか、三人はそのように盛り上がっていた。
しかし、甘い。
確かに訓練によってある程度力は高められるし、ときにしょぼいスキルを凌駕するものになるのは確かだ。
だが神教徒はおそらく大半がスキル持ち。
さっきも『神のご加護』と叫んでいたし、そうでなくともエルフの里を襲撃しようというのだから相応の準備をしてきているはずだ。
あいつらがバカだとは言っても、余計な部分には気が回る奴らだからな。
スキル持ち多勢に少数のスキル無しが挑んだところで結果は見えている。
……そんなこと言っても、聞く耳を持ちそうにないが。
「分かった、そこまで言うなら三人で神教徒を抑えてみてくれ。でも、ダメそうなら加勢する。それでいいな?」
「その時は助けてください。でも、心配は無用だと思いますよ」
そう言って、三人は行ってしまった。
不安そうに、後ろ姿を眺めるルキナとアリエル。
俺は二人の肩にポンと手を置いた。
「大丈夫、二人の仲間を死なせはしないよ」
こうして、エルフと里と神教徒の戦争が始まった——
「俺の剣を受け止められるか神教徒ォォォォ!」
大剣を軽々と片手で振り、最前線の神教徒に襲いかかるエルフ。
しかし、
「『怪力』にかかれば子供のお遊びだな!」
神教徒は襲いくる大剣を指でちょんと摘み、持ち上げた。
エルフの身体がシーソーのように宙にジャンプし、急いで手を離す。
ほんの一瞬の間にエルフは武器を失い、絶体絶命の苦境に晒されることになってしまった——
さすがは森の中という土地柄ゆえに身体能力が高いことで知られるエルフの里を攻めるだけのことはある。
神教徒たちはパッと見たところ、スキル持ちのようだな……。
その頃、筋肉自慢をしていたエルフが別の神教徒に襲いかかる。
「俺のグーパンは誰にも負けねえっす!」
——と謎の自信に溢れていたのだが。
「『敏捷』の前では無力だな。いくら強かろうと当たらなければ同じことだ!」
「な、なに!?」
弓の腕に自信があった女エルフも——
「くらいなさい! って、弓がなくなった!?」
「『強奪』じゃ! いくら腕があっても武器がないんじゃ話にならないのう?」
「そ、そんな……」
やれやれ、だから言ったのに。
戦争が始まって一分も経たぬうちにこの有様だ。
「さて、俺たちの出番だ。二人とも、頑張ってくれ」
「はい!」
「分かったわ。でも、どうやって……?」
「まあ、見てなって。ルキナはもう分かってると思うけど、神教徒のスキルを奪って二人に付与する。それだけだ」
俺はそう言って、神教徒の前に姿を現した。
その神教徒は、忘れたくても忘れられない人物だった。
「げっ……なんでこんなところにいるんだ……ガリウス!」
「ダストこそ、なんでこうなっちまったんだ……? なんで俺たちが戦わなきゃならないんだ!」
「うるせえ……俺のスキルを奪いやがって……! 許さねえ、ぶっ殺してやる!」
「へえ、お前のスキルだったのか。神のスキルじゃなくてか?」
「細けえんだよ‼︎」
ついに、本性が出たな……。
「同志には近づかせん! 死ねい!」
「俺たちが相手だ! 神のご加護をくらえ!」
俺の前を通せんぼする神教徒の二人組。
まったく、俺を相手にスキルでドヤるとはバカなのか……?
「スキルスロットがガラ空きだぞ」
右目が赤く煌めいたと同時にスキルを奪い、左目が蒼く煌めいたと同時にルキナにスキルを付与する——
同じようにスキルを奪い、そのスキルをアリエルに付与する——
たったそれだけのことで、『神のご加護』とやらは無力化する。
「なんか、力が湧いてきました!」
「足が早くなったかも……?」
「ルキナには『怪力』、アリエルには『敏捷』を付与した。好きに暴れるといい!」
「わ、わかりました! ありがとうございます!」
「頑張るわ!」
神教徒はあくまでも人がスキルを扱えるはずがないと思っているので、二人にスキルが移ったことを信じていない。
いや、また懲りずに『神の奇跡』とでも勘違いしてくれるかな?
そのおかげで、
「ぐはっ」
「うがあああああ!」
次々と倒れて行ったのだった。
その間にも、俺は略奪を繰り返し、二人にスキルを付与していった。
どうせ後で付け直せばいいので、付与するスキルは向き不向きなんて考えずに適当だ。
『魔導具適性』、『全武器適性』、『火属性強化』、『詐欺』、『強奪』、『飛び道具』……もう、なんでもいい。奪ったらすぐ付与の繰り返しだ。
途中でルキナとアリエルのスキルスロットが埋まったので——
「そこの三人にも適当にスキルを付与しておいた。暴れてくるといい」
「す、すごい……ありがとうございます! さっきは本当に失礼しましたァ!!」
「お、俺……自分の筋肉を過大評価してたっす!」
「ガリウス様すごいです!!」
こうしてエルフの里の精鋭たちが暴れる中、ついに俺はダストの前にたどり着いた。
「ガリウス、今の俺にスキルがないのに、なぜこうして前線から引かないか……理由がわかるか?」
「……?」
「その様子じゃ、わからないみたいだな。全ては、『思い出の場所』にある」
「ちょっと待て、なんの話だ⁉︎ 何を言ってるんだ⁉︎」
「もう時間がなさそう……だな。うっ」
ダストは一撃も喰らっていないにも拘らず、その場に倒れた。
まるで、戦って負けたかのように——
「ダストが倒れているぞ! もう戦う必要はない、助けるんだ!」
そう言って、ダストの身柄を回収する神教徒。
結局、答えは分からずじまいだった。
その頃、大半の神教徒がスキルを奪われ、戦闘不能になってしまった。
さて、どうする?
「て、撤退だ! 同志を連れて撤退するぞ! これは逃げではない! 次への備えのための戦略的撤退だ!!」
「「「「「う、うおおおおお‼︎」」」」」
残り少ない神教徒が、撤退の準備を始めた。
追撃しようと、ルキナたちが神教徒の方に向かっていく。
「みんなちょっと待ってくれ」
「で、でも!」
声を上げたのはアリエルだが、ルキナも同じような顔をしている。
「ここで神教徒を殺したり、捕らえたりすれば恨みを買うだけだ。こっちには被害が出てない。エルフの里を守れたんだからそれでいい。……違うか?」
今日襲ってきたのは、おそらく神教徒の中でも下っ端の部類だ。
ここで下っ端を捕らえたり、殺しただけでは所詮トカゲの尻尾切り。
それに何より、奴らも壊滅的にバカというわけではない……と思う。
本物のバカがこれほどの短期間で怪しげな神の教えを王都中に広められるわけがないからな。
優秀なのは奴らというよりかは、さらに上の上層部の信者……だが。
仲間が生還したのなら、無理にエルフの里をこれ以上攻めるような判断にはならないはずだ。
「確かに……お父様は助かりましたが……でも、このままにしておくなんて」
「『このまま』じゃなきゃいいだろ?」
俺は、残りの神教徒のスキルも全て奪い、精鋭以外の兵に適当に付与しておいた。
「あいつらのスキルは全部奪った。相手は無力だし、エルフの里には全部スキルがある。もう安心だよ」
「それなら、もう怖くないか……」
「ガリウス、ありがとうございます!」
なんとか、説得できたようだ。
「二人とも、……いや、五人ともよく頑張ったな」
言いながら、俺はルキナとアリエルの二人の頭を撫でた。
二人とも照れくさいのか、顔を真っ赤に染めている。
その様子をなぜか不満気に見てくる女エルフの視線が気になるところだが……俺、なんか変なことやったっけ?
◇
エルフの里の襲撃に失敗し、王都に逃げ帰った神教徒たち。
彼らは、司祭の前で事の顛末を包み隠さず報告したのだった。
教典を片手に携えた、インテリ風の眼鏡男。——この男が、神教の司祭である。
「ふむふむ、事情は把握した。まったく、とんでもないやつだなガリウスという男は……」
「そ、そうなんですよ……。全員スキル……じゃなくて神の御加護を奪われてしまって……どうすれば良いか……。神のご指示を仰ぎたいのです」
「ふむ、良かろう。私が神のお言葉を頂戴しよう」
そう言って、経典を片手に目を閉じる司祭。
五分程度でカッと目を見開き——
「神のお言葉を頂戴した。神はこのように仰っている……」
その場に集まった十数人の神教徒全員が、唾を飲み込んだ。
「英雄を動かせ。英雄の力でガリウスを殺せと仰っている!」
「「「「「うおおおおおおおお!!」」」」」
英雄とは、ガリウスが王国で働いていた時代に『略奪』と『付与』の力で創り出した戦争用の戦略兵器である。
人がスキルを使えないという主張をするのにもかかわらず、スキルで生み出した英雄を使おうという神の矛盾する判断。
ここに異議を投げかける者は誰一人としていなかった——
連載候補短編です!
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