00-003:紅き星紋の輝き
俺の答えを聞くと同時に、白露は当然と言わんばかりに笑う
「君ならそう言うと思ってたよ。二ノ宮君」
「そうかよ」
「俺の個人的な判断で君を二ノ宮家に帰さないことにしよう。俺が大社の権限を使って保護するね。これで君の家も手出しができない」
「へえ・・・」
白露が行使した権限は、かなり上位のものではないかと想定できる
こんな風にふらふらしているが、なんだかんだでこの赤城白露という男は本土に出向けるほどの実力を持つ存在だ
思ってた以上に、重役なのかもしれない
「ついでに君の後ろに・・・ありゃ?いない」
白露の間抜けな声に反応して、俺もすぐに後ろを見る
そこには仲間の姿はなかった
その代わり、小さな紙切れが置いてあった
それには「ありがとう。ごめんなさい」と書かれた文字
「・・・逃げちゃったのかな。俺が君との会話に夢中になっている隙を狙って逃がすって作戦だったのかな」
「ああ。あいつらが俺の意図を読み取ってくれて本当に良かった」
紙切れをポケットに入れる
「じゃあ君だけを連れて行こう。俺たちの巣に」
「俺たちの巣?あんたは何らかの組織に所属しているのか?」
「うん。鈴海大社という名前は聞いた事があるかな?」
「聞いたことがない」
「そっかー。面倒だけど説明してあげるね」
白露は俺に見えるようにそれを見せてくれる
ローマ数字で3を作った、白銀の記章
「まずは自己紹介からしないとだったね」
「今更かよ」
「大社職員には色々事情があるの。大変なんだからね」
姿勢を正し、目線はしっかり俺へと向け
真白のマフラーを秋風にはためかせて彼は名乗る
「鈴海大社特殊戦闘課第三部隊所属。赤城白露と申します。これでも、第三部隊の司令官を務めています」
「ああ、そう・・・」
「興味なさそうなのも傷つくなあ・・・」
「そんな堅苦しい挨拶、らしくないぞ」
「らしくないとしても、そう挨拶しないといけないの。命令なの」
「ふーん。で、大社って何?」
「話を、戻すね・・・」
渾身の挨拶を軽く受け止められて、若干ショックを受けている白露
彼はそんな心境でも、俺の問いに答えてくれた
「鈴海大社はこの鈴海という島を守るために設立された防衛組織みたいなものだよ。入隊条件は特殊能力を使いこなすことができ、入隊試験を突破すること。それだけなんだ。入隊は簡単だけど、仕事はハードだからね。毎日死の危険を感じているよ」
「そんな危険な組織に子供を勧誘するのか」
「うん。鈴海大社に入ればね、五鈴家でも手出しできない領域に入ることができるんだ。なんたって大社は椎名家の管轄だからね。手出ししたら椎名家からのお仕置きさ。仕事は危険だけど、二ノ宮家でも干渉できない場所に行ける。それは俺が保証するよ」
「なるほど。俺には絶好の場所だってことか」
「そういうこと。で、どうするの?答えは決まっているよね」
白露の笑みに、俺も笑みで返す
笑ったのは、何年ぶりだろう
そう思いながら俺は答えを言う
「もちろん、お前の言う通り鈴海大社に行くよ」
「決まりだね。君には鈴海大社に来てもらう。そうして入隊試験を受けて合格してもらう。一応あるからさ、入隊試験。簡単だから安心してよ。毎年死者が出るけどね」
「死者が出る試験のどこが簡単なんだよ」
「君なら簡単でしょ?」
「簡単じゃない。星紋使った事、ないし・・・試験の前に星を使えるようにならないと」
「そんな風に硬く身構えなくていいと思うよ。まだ願いがないのなら、抱けばいい。そうすれば星なんて自然に使える」
白露はそう言って、マフラーに手を触れる
すると、マフラーが一瞬のうちに輝き始め白露の体が宙に浮く
「これは俺の星「天翔」。空を飛べるマフラーの星だ。空を飛びたいという俺の願いを具現化したものだ」
初めて見た星は、月より輝いていた
少し青みのかかった星は、ずっと見つめていたいと思うほど、美しかった
「これが・・・」
「いいか二ノ宮君。星紋は、俺たちの思いに応えて星を形成してくれる。だから願うんだよ「力を使いたい」と。君にだってできるはずだ」
白露はそういうが、どうしたらいいか分からない
とりあえず、願えばいいんだよな
何を願えば星は出てきてくれるだろうか
「まだ出せないの?暇だし俺はちょっと空中散歩に行ってくるかなー」
白露はそう言って、天翔と共に夜空へ駆けていく
鳥のように舞い、とても楽しそうだった
しかし時折こちらを見ては「まだ出せない?」と煽るようにクスクス笑っていた
・・・とてもむかつく
「・・・あの野郎を、撃ち落としたい」
心の底から思ったその感情は、俺の中の星を解放するのには十分すぎる願いだった
俺の周囲が赤く輝き始め、俺の目の前には真っ赤に輝く星があった
無意識だが、それが自分の願いだと理解することができた
それに俺が手を触れた瞬間、星は三日月のように細く伸びていった
その光景は凄く眩しくて、目をつぶってしまうが、その光景をどうしても目に焼き付けたいと思い、眩しさから目をそらさずにそれを直視した
光が収まるころ、俺の目も慣れて「それ」を認識することができた
手に握られていたのは「弓」
背には矢筒もあり、かなりの量の矢も入っていた
「つまり、これであいつを撃ち落とせばいいということか?」
少し考えて、俺は矢を取り、構える
弓道の心得はない
触れたことも、見たこともないが、なんとなくやり方がわかる
そして、力の使い方も今まで使っていたと思うぐらいはっきりをわかる
「・・・撃て「五月雨」!」
星の名前を叫ぶと同時に、矢は夜空へ昇っていく
「うわああ!?」
白露の叫び声も聞こえた・・・ちっ、逸れたか
「二ノ宮君!?使えるようになったら教えてよ!真横を通り過ぎてったよ!怖いよ!」
空の上から白露が抗議してくる
あーうるさいな。やっぱり一発はあいつに矢を叩きこんでおきたい
「・・・「散れ」五月雨」
その言葉を言うと、白露の真横を通り過ぎて行った矢が方向を変える
そうして、矢が雨のように分かれ、白露の方へ向かっていく
矢は雨のように、白露に降り注ぐ
それと同時に白露の絶叫も聞こえた
そしてすべてが落ち終わった頃、白露が俺の所に降りてくる
・・・背中に一本矢が刺さった状態で
「・・・刺さった」
「・・・すまない。調子乗った」
「いい願いだね。解せないけど」
「・・・ありがとう」
「君の能力、鍛えればかなり強いと思う」
「そっか・・・」
「ところで、この矢どうやって抜くの?痛いんだけど、掴もうとしたら掴めなくて」
「あーそれは「消えろ」」
言葉を言うと、白露の背に刺さっていた矢は瞬時に消える
「凄いね・・・かなり便利な攻撃系だ。大社でもこの手の星導師は見たことないよ。ますます試験が楽しみになってきた」
白露は攻撃されたにも関わらず、再び笑い出した
本当にこいつは笑ってばっかりだな・・・
「試験があるのは今から三ヶ月後。これから君は俺と特訓してさらに力をつけよう。それじゃあ行こうか。鈴海大社に。特訓とか色々と含めて一番いい環境は大社だからね」
白露は笑いながら、俺の手を取り歩き出す
「これからよろしく」
「ああ、よろしく。二ノ宮君・・・いいや、紅葉」
夜の街を二人で歩き出し、路地裏を出る
白露に連れられて向かった先は、大社
そこで俺は保護され、大社内で試験のための特訓を行うかと思ったのだが・・・
予想は大きく外れて、俺は白露の家に三ヶ月の間、居候することになってしまった
「今日から三ヶ月、ここで面倒見るね!」
「・・・本当にいつも唐突ね、貴方」
妻の天音さんに呆れられた白露を横目に、俺は歳が近い二人の子供に目をやる
白露によく似た、黒髪に青目の双子の兄妹
「・・・和夜君、あの人だあれ?知ってる?」
「・・・わかんない。行こう、時雨」
そう言いながら、双子は手を繋いで家の奥に行ってしまう
その目は、当然と言えば当然だが、不審物を見るかのような目だった
「・・・俺、三ヶ月の間だけでもうまくやれるかな」
初日はそんな不安も抱えてはいたが、杞憂だった
何にせよ、星紋初心者を大社に合格するぐらいの強さに鍛え上げなければならないのだから
赤城家の面々と関わる時間なんて碌になく・・・
気が付けば、修行だけで三ヶ月が経過していた