09.グライフ教皇領グリフィス
グライフ教、金儲けを悪としない教義から商人に多くの信者を抱え、メルクリウス王国では最も人気のある宗教である。そのグライフ教の聖地であるグライフ教皇領グリフィス、この土地には聖グリフィス大聖堂があり、そこでグライフ教皇と会うことができる。
「…にしてもなんでグリフィスに向かうんですか?」
道中、馬車の中でスザンナさんがソフィアさんに尋ねる。
「心臓の時計が止まると触れ回っているものにグライフ教を信奉している者が多いのだ。その者たちに話を聞けばこの噂は教皇が流しているそうだ。この手の噂は基本的に出所から調査するのが慣例だからな。すると興味深い事がわかった。」
「…それは?」
「最近大聖堂の建て替えが終わったらしい。そして大聖堂は今までより随分豪華になったそうだ。」
「…なるほど。それは怪しいですね。」
「教皇に謁見する許可は取ってある。グリフィスに着いたらまず大聖堂に向かうぞ。」
***
グリフィスはグライフ教の聖地である理由としてグリフィス大聖堂が存在している事が挙げらることができる。その大聖堂はグリフィスにある聖堂山の奥地にあるという。
山道では走行困難のために山の中腹で馬車を下ろされ徒歩でグリフィス大聖堂へと向かう。
15分ほど歩いたら全く山の自然と全く調和していない絢爛豪華な建物が現れた。
金の大屋根に金の装飾がこれでもかと付いた天井部。美しく細かな表現で見る者を魅了するステンドグラス。様々な金銀財宝が張り巡らされた外壁。
初めて目の当たりにする戸田浩介はしばらくこの建物から目を離せずにいた。
大聖堂に着くと、広間に行くように門番から通達があった。
広間に行くまでも大聖堂はこれでもかというほどに豪華さを視覚的に伝える。
金の天井や壁。特に壁は美しく磨かれ鏡のようにコウスケ達を映し出す。壁に貼られている美術品も貴重な金属で彫刻されている者が多い。照明は宝石で作られたシャンデリアだ。
(妙だな…。)
その豪華さにソフィアは違和を感じた。
ここに来るまで建て替え費用の穴埋めの手段として心臓の時計が止まるとうわさを流したのだと考えていた・
だが、建物が豪華すぎる。これほどに華美な装飾は少なからずグライフ教の懐事情を変化させるだろう。だが、長くて三か月しか続かない「心臓の時計台バブル」で何とかなるとは思えない。プラスに転じるにしても焼け石に水だろう。それよりも信者獲得を教団は目指すべきだ。だが、不安を煽るだけ煽って結果杞憂に終わるとなれば信者獲得は一時的に伸び悩むはずだ。それなのになぜ教皇は宗教の信頼を天秤にかけてもあのような噂を流したのだろうか。
釈然としないソフィアをしり目にスザンナとコウスケはあまりの豪華さに委縮していた。
***
「長旅お疲れ様でした。初めまして、私は、グライフ教皇ユリウスと申します。」
広間につけば、白髪に白いひげを床に接しそうなほどにひげを伸ばした老人が笑顔を浮かべながら挨拶し、豪華に装飾された椅子に座っていた。
「お初にお目にかかります。教皇様、私は、ソフィア・ベイリーと申します。」
「戸田浩介です。」
「…スザンナ=クルスです。」
老人は俺たちの方に歩み寄り一人ずつ『よろしくお願いいたします。』と握手を交わしながら椅子へと戻っていく。
ウルカヌス公国で会ったファウロスさんとは違い柔らかな人だなという印象を持った。
ユリウスさんはソフィアさんに目を合わせ、話を始めた。
「話は聞いていますよベイリー殿、時計台の事についてですね。」
「ええ、どのような経路であの予言を知ったのか興味を持ちまして。」
「予言とはどちらでしょうか?」
「…?どちら、とは。」
返答に窮したソフィアさんにユリウスは人差し指をさした。
「ベイリー殿、貴女の認識を一つ改めたいと思います。」
老人は息を深く吸った。
「”よげん”一口に申しても二つあります、”未来を予測する”言葉と、”神から預かった”言葉そして、時計台については後者。つまり預言なのです。」
「…で、その預言は信用に足るのですか。」
スザンナさんが言うと柔らかな雰囲気が一変する。先ほどの柔和な表情はどこへ行ったのか。目つきはかなり険しくなり、眉間にはしわを寄せた。
「私たちグライフ教はグライフ様からの言葉がグライフ・スタインという石板に記されます。このグライフ・スタインに記されていることは絶対なのです。」
静かに言っているように見せてその言葉には大きな怒りが内包されている。あまりの語気にこちらが圧倒されそうになった。
「そして、預言を広めるのは私です。グライフ・スタインに記された内容は、逐一信者に報告します。」
「そうでございますか。…ではそのグライフ・スタインなるものをお見せいただく事は可能でしょうか。」
老人は首を横に振った。
「これは教皇の特権であって、あなた達に見せることは出来ません。しかしながらあなたたちが条件付きで見ることは出来ます。それは、スタインの部屋の鍵を手に入れることです。この教皇領の北にあるオーガの洞窟の最深部にあります。これを手に入れることができれば私の監視付きですが見せることは可能です。しかし命の危険があるためあまりお勧めはしませんが。」
教皇の脅しに対して女騎士は凛としてそう答えた。
「ご教授いただきありがとうございます教皇様、オーガの洞窟にこれから向かいます。」