07.魔女の忌み子
メルクリウス王国の使者が旅立った後、ウルカヌス公国の宮殿の大広間でファウロスは糾弾されていた。
「ファウロス様、どうしてスザンナ殿を推薦なさったのですか!他にも魔導士がいたではありませぬか!」
しかし、糾弾されていてもなおファウロスは気にも留めない。
「ほう、我の決定に不満があると申すか。」
あまりにも不遜な態度をとるファウロスに無意識ながら側近の声が大きくなる。
「もちろんです!かの者に力がある事は我々も認めるところです!しかしながらスザンナ殿は”魔女の忌み子”でございますぞ!そのような者を送り込みメルクリウス王国との国交が悪化したらどうなさるおつもりですか!」
「わかっておる。この人選はアイデン殿にも伝えてある。国交は問題なかろう。うぬのいう問題点はそこではあるまい。」
側近は視線を下に落とした。
「しかし…」
「しかし何だ。」
意を決したかのように側近はもう一度ファウロスに諭すような声色を発した。
「万が一、心臓の時計台が見つかれば我々は”世界の時”を支配する手段を得ます。見つからずとも旅で彼女は力を得て帰ってくることでしょう。」
”魔女の忌み子”が力を得る。言葉にこそしなかったが側近はそれを伝えたかった。
ただでさえ強力すぎて魔導士団内部でも扱いに困っている存在がより強力になる。かつ、”魔女の忌み子”という不吉な名前の由来もファウロスは知っている。そのような者が力を得て帰ってくるだけでも大きな問題になりえるのに”世界の時”を支配する手段を得るのなら彼女の力は天井知らずに跳ね上がる。
「よいではないか。力を得ることは何のデメリットもない。」
即答するファウロスに冷静に務めたばかりの側近の声は広間を揺らすほどの怒りへと変わる。
「大ありです!彼女はいつ魔女になってもおかしくない存在であることはファウロス様もご存じでしょう。それも人間に害をなさない類の魔女ではない。」
ファウロスは黙って頷き、ひげを撫でた。
「その通りだ、貴様の申すことに何の偽りもない。ヤツは魔女になってこの国をいや、世界を渡り歩き害をなす魔女になるやも知れぬ。もし魔女にならずともヤツを押さえつけられる存在などこの国には存在しなくなるだろう。だが、ヤツしかこの任務は務まらぬ。」
ファウロスは力強く宣言した。
「それはなぜでございますか?」
側近の質問にファウロスは眼光をより一層鋭くさせる。
「我が国の一流の魔導士は高齢ばかりであり長旅に向かぬ。しかし、長旅に向く若きものは伸び悩んでいるものが多い。そこで、中途半端な若き魔導士を送り込み世界を回るのであれば、我が国は侮られ様々な国と争うことになるだろう。だが、スザンナを派遣すればどうだ。『やはり、ウルカヌス公国は強力な国だ。』と印象をつけることができるだろう。だからヤツしかこの任務は務まらぬのだ。仮に、スザンナが旅を終え魔女となり支配されるのであれば我が国もそこまでだという事だ。そのようなことがなくとも、力のあるものが力のないものを支配するのは自然の理だ。」
ウルカヌス公ファウロス、「豪傑公」の二つ名を持つその人は、力を手に入れる為の手段を選ばない。