05.ウルカヌス公国にて
ウルカヌス公国。スルト火山の麓にある国で、メルクリウス王国の南に隣接する国である。
その昔、スルト火山の大噴火によって、国の大半を火山灰地に変えられてしまった。そして、百姓たちはやせた土地でも育つ桑を育て、やがて、養蚕業が盛んになった。それから、この土地の主となったウルカヌス公は養蚕業に目を付けた。上質なシルクからは上質なローブを生成することができる。ウルカヌス公国産のローブはたちまち魔導士の間で話題となり、一流の魔導士達が集まり、世界一の魔法大国となった。首都バルカンには壮大な宮殿がそびえ立つ、その大広間に、ひとりの騎士とひとりの高校生がある人物を待っていた。
「面を上げよ、我は、ウルカヌス公ファウロスである。」
筋肉質で肌は色黒、一本残らず剃毛された頭部を持ち、身長は190cm以上くらいだろうか、鋭い目つきを持ち顎に立派なひげを蓄えた中年男性が低い声で名乗った。
「お初にお目にかかります。ファウロス様、私、メルクリウス王国騎士団のソフィア・ベイリーと申します。そしてこちらにいるのが」
「と、戸田浩介です。宜しくお願いします!」
ファウロスさんの威厳ある声音に少しぎこちない自己紹介となってしまった。ファウロスさんは俺の方を鋭い目つきでちらりと見た後、すぐにソフィアさんの方へ目線を移した。
「聞いた話によるとソフィア一人でここに来ると聞いていたのだがな。」
嫌味もなく、虚を突かれたようでもなくただの事実確認のようにファウロスさんは述べた。これに周りの側近の人たちは顔を青ざめている。
「少し事情が変わりまして、コウスケもファウロス様が紹介してくださる魔導士に用があるのですわ。突然予定を変更してしまい申し訳ありません。」
ソフィアさんは少し申し訳なさそうに言った。ファウロスさんは『よい、構わぬ。』と言って周りの側近たちが胸をなでおろした。
「話は変わるが、魔導士を紹介する前に貴殿らにやってもらいたいことがある。」
「と、仰いますと?」
ソフィアさんが驚いたような顔でファウロスさんに尋ねる。
「近頃、スルト火山の山腹にフレイムウォルフが棲みついたというのだ。普段なら問題ないのだが今回は数が多すぎて我が国の魔導士達でも手も足も出ぬ。だからといって放置すればやがて街におり危害をもたらす。そこで貴殿らにフレイムウォルフ討伐をお願いしたい」
ちょっと待て、フレイムウォルフってなんだ。火のオオカミってどんな生物だよ。
「もし、断ればどうなるんですか?」
関わりたくないため、ちょっと遠回しに聞く。
「そうだな、断れば魔導士紹介はなかったことになるな。」
ファウロスさんはそう言い放ち、言い終えると同時に間髪入れずソフィアさんは答えた。
「承知いたしましたわ。ファウロス様、フレイムウォルフ討伐の話、お受けさせてもらいます。」
***
ソフィアさんと俺は謁見を終え、宮殿の外の街にいた。
「ソフィアさん、フレイムウォルフって何です?初めて聞いたんですけど」
「フレイムウォルフというのは火を噴くオオカミの事だ。火山によく棲みつき集団生活を営んでいる。オオカミと言っても雑食動物でどちらかと言えば犬に近いかもしれない。その為、時折、桑畑を荒らしにくる。魔導士の天敵とも呼ばれていて魔導士だけで対処するのはかなりの時間はかかる。だから、我々に討伐が依頼されたというわけだ。」
火を噴くオオカミかぁ関わりたくないな
「そうですか。頑張って下さいねソフィアさん。」
他人事のようにそう言うとソフィアさんは心底不思議そうな顔をした。
「何を言っている。コウスケにも手伝ってもらうぞ。」
は?
「フレイムウォルフは、団体で狩りをする。その習性を利用して、投石などの遠距離攻撃をして集団をおびき寄せるそしてその集団を叩く。」
「俺も行くんですか?」
「もちろんだ。前の国では投石をしていたのだろう?」
違うんだけどなあ
「ではこれから準備を始める。まずは石集めからだ。」
ソフィアさんの号令の下で俺は石拾いに出かけることになった。