10.オーガの洞窟
オーガの洞窟。大聖堂の山の麓の洞窟。オーガの許可を得てグライフ・スタインという預言書を一目見るために洞窟の前に3人組が入り口で控えていた。
「オーガの洞窟にはゴブリンがたくさんいると聞く。ゴブリンは集団戦術を得意として、どんな生き物でも襲い掛かる傾向がある。だから基本的には我々ははぐれないことを基本戦術とする。」
「わかりました。ソフィアさん、では行きましょう。」
オーガの洞窟に入り、階段を下りる。少し肌寒いこの洞窟にある最深部にオーガが待ち構えているのだろうか。
俺が一歩歩くと「カチっ」という音がした。1秒と経たない間に床が開いた。
やべっ、これ落とし穴だ。
「コ、コウスケェェェ」
オーガの洞窟に入って数秒、ソフィアの作戦は瓦解した。
「…トラップが仕掛けられているとは思いませんでした。彼を追わないと。」
「追うと言ってもどうやって追う?スイッチを押しても反応しないぞ。」
「…破壊魔法無効の術式もありますね、これでは床を破壊することは出来なさそうで…」
気が付くと二人の周りにはゴブリンの大群が囲んでいた。
「スザンナ、まずはこのゴブリンを退治した後に、コウスケの行方を追う。」
「承知いたしました。」
***
痛え、落とし穴にこれだけ盛大に落ちたの初めてだ。他の人は落ちてはいないだろうか、うん、落ちたの俺一人だ。
やべえどうしようここでゴブリンに襲われたらひとたまりもないぞ
「ふう。」
一息ついて自分を落ち着かせる。周りを見渡しても、ゴブリンの影は見当たらないとりあえずは一安心だ。が、心臓はバクバク鳴っている。大丈夫だ。落ち着け戸田浩介。見慣れない所に一人追い出されるのは慣れている。必勝法もある。
こういう時は、待っていれば人が来る。
…たぶん、そうだと思う。……きっとそうだろう。……そうだといいな。
「おう、兄ちゃんそんなところでぼ~っとしてどうしたんや。」
あまり聞き覚えのない声に後ろを振り向くと、全身緑の何かがいた。
「えーっと。仲間とはぐれてしまって。」
「そうなんか。災難やったな。帰り大丈夫か?」
「えーっと。」
大丈夫ではない。確実に大丈夫ではない。
「大丈夫じゃないって顔してるで兄ちゃん。」
「…顔に出てました?」
「おう!」
全身緑の何かは屈託のない絵顔で元気よく返事をした。
「…あの。もし良かったらなんですけど。」
「なんや?兄ちゃん。」
「帰り道教えてくれませんかね?」
***
ゴブリンは単体として見た時にさして強いわけではない。
ただ群れともなると厄介だ。大群で波のように押し寄せてくるため一人で対応するには限度がある。
そのため基本的に近接攻撃を加えるよりも魔法による範囲攻撃で一網打尽にするのが定石となる。ただ…。
「スザンナ。ここは洞窟だ。ここで魔法を使えば洞窟が崩れる恐れがある。」
「…はい。」
「だからゴブリンに風の魔法で妨害をして欲しい。ヤツ等は私が片付ける。」
「…わかりました。」
一歩前にソフィアが進むとスザンナは強風を発生させた。
その強風はゴブリン達を吹き飛ばして岩に衝突させた。そしてゴブリンは体を強打し意識を失った。そして僅かに残ったゴブリンもソフィアによって退治させられた。
ゴブリンを退治し終えるとスザンナは耳を床につけ風の魔法を唱えていた。
「何をしているんだスザンナ。」
「…空気の反響を確認してどの程度彼が落ちたのか確認しています。」
「そうか、結果はどうだ。」
「…最深部まで落ちた可能性が高いです。…直ぐに向かいましょう。」
***
「うーん。帰り道って言ってもなあ。」
全身緑の何かは顎に手を当てて考えていた。
「ダメですかね?」
「いや、別にええんやけど兄ちゃんツレがいてるんやろ?」
「そうですね。」
「そいつら待たんでええんか?」
「待ってたいんですけど、この洞窟ゴブリンが出るらしいじゃないですか。だから待ってるだけだとゴブリンの餌食になるんじゃないかなって。」
「そうやなあ。」
また考えるそぶりを見せたがすぐ後に手を叩いた。
「せや!ワシの部屋で待てばええんや!」
「どういうことです?」
「ワシの部屋は目立つからきっとお連れさんも来るやろって事や。そこで待てばええ。そうしよ。そうしよ。」
いや、ちょっと待て。
「それはちょっと…。」
「何遠慮しとんねん。兄ちゃん。はよいくで!」
俺は背中を強くた叩かれた。そしてその痛みは俺を断ることをあきらめさすには十分だった。
「せや。自己紹介がまだやったな。ワシはオーガ。この洞窟のヌシや。」
オーガさんに案内され、今俺はオーガの洞窟最深部のオーガの部屋に入ってお茶を飲んでいる。
「なるほどなあ、兄ちゃん足元の確認はちゃんとせなダメやで。」
「確かにそうですね。」
話してみるとオーガさんはとても良い人(?)でかなり世話焼きだ。
「まあワシとあったのが幸運やったのう。でもな兄ちゃん。ほいほい魔物についていったらいかへんで。」
「…ありがとうございます。」
「ところでやけど兄ちゃんなんでこんな洞窟に入ろうとしたんや。」
そうだった。忘れていた。
「グライフ・スタインのある部屋の鍵を借りに来ました。」
オーガは俺の話を受けて『ちょっと待っとき』と言い残して奥の部屋に入っていった。
「ほれ、これが鍵じゃ。」
そういってオーガさんは金に装飾された鍵を手にしていた。
「貸してくれるんですか!?」
「そんなワケないやろ。ワシに認められたものしかこの鍵は渡せれん。」
「どうしたら認めてもらえるんですか。」
「そうやな、ワシとの勝負に勝てればええんやけど。勝負の内容は兄ちゃんが決めてもええで。」
うーん身体能力系だと勝てそうにないしな。…そうだ!
***
ソフィアとスザンナは最深部に到着していた。
「ゴブリンの数がとんでもなく多かったな。」
「…はい…教皇が命の危険があるといっていたのもわかります。」
「ここが最深部だな。おい!スザンナこれをみてくれ。」
正方形の穴がそこにはあった。その穴から微かに日光らしきものがちらついている。
「…これは…入口の落とし穴につながってますね。」
「コウスケの靴の足跡がある。恐らくここに落ちたんだな。」
「……追いましょう。」
足跡に注意しながら歩いていくと大きな扉があった。恐らくオーガの部屋だ。
「…コウスケさんの声が聞こえませんか?」
「言われてみればそうだな。よし、中に入るぞ!」
中では異様な光景が繰り広げられていた。
「いっせーのーで1!」
「ワーーあげてもうた。兄ちゃんもう一回やもう一回。」
俺たちは指スマをやっていた。
運の勝負ではあるが、俺は勝つ自信があった。なぜならオーガさんはすごく顔に出る。顔がこわばれば絶対に両方の指を上げる。少しゆるんだら一つ上げる。二やついている時は指をあげない。
これさえ分かれば結構勝てる。
「そう言って10回以上やってるじゃないですか。もう勘弁してくださいよ。」
「ええやん!!ええやん!もう鍵渡すさかいもう一回や。な、ええやろ。」
「くれるんですか!?」
「鬼に二言はない!」
そしてオーガさんは鍵をくれた。
「わかりました。じゃあやりましょう。」
「待て貴様ら、いったい何をしている。」
ソフィアさんは呆れたようなそんな顔をしていた。
「何かって指スマやさかいな。」
「ゆびすま?」
「手をグーにして親指を立てる本数を予測するゲームです。」
「…聞いたことない遊びですね。」
「単純やけどごっつおもろいねん。姉ちゃんたもいっそにやらへんか?」
かくして、グライフ・スタインの部屋の鍵を手に入れた。