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とあるお城の昔話

作者: 月猫ネムリ

 人の世に語り継がれる数多の伝説や伝承。

その中に、長い───とても長い戦いの話があった。

天地を覆い尽くすほどの悪魔の軍勢を率いた、地の底より這い上がりし獄界の王と。

その脅威に立ち向かうべく神に選って選らばれた、光輝の英雄とその仲間達。

彼らが、理不尽なまでの軍勢に命と愛と絆を武器に立ち向かい、いずれ勝利をつかむ物語が。



 「ねぇねぇおじいちゃん、またあのおはなし、して~?」


「……むぅ?どのお話じゃあ?じじい最近忘れっぽくなってなぁ。

“あのお話”だけじゃ分からないの」


「おじいちゃん、まえもおんなじいいわけしてたよ?いいから、光のゆうしゃさまたちのおはなししてよ~」


「ほいほい、可愛い可愛い孫の頼みならば、嫌とは言えんのぉ」


しわくちゃの顔を笑みでさらにしわくちゃにしながら、老人は孫を膝の上に乗せてゆったりと話し始めた。



*****


昔々のお話です。


世界は悪魔の群れに侵略され、絶望に包まれていました。


理性も知性も、ついでにお行儀もない悪魔たちは、毎日毎日人間狩りや新作の人間芸術品の製作や、人間のどこを引き裂いたりひっこ抜いたり抉ったり潰したりしたら死んでしまうかを研究したり、とにかく人間をおもちゃのようにして暇つぶししていました。


そのあまりにもモラルの欠如した見苦しい姿にいい加減飽き飽きしていた天の神様は、虐げられるばかりの人間に責めて足掻く手段を与えようと、適当な人間を選んで自分の考えたチート能力を埋め込んでみました。

森の中で死んだ女の子を抱いてハァハァしていたデブには、あらゆる物理法則を理解できるようになる『超鑑定』と、自然の中にある力を自由に利用できるようになる『フリーユーザー』を。

年端もいかない男の子たちを集めて地下にひきこもり、快楽と堕落に満ちた生活を送っていた中年女性には、触れた物質の年齢を操作できる『万生流転』と、自分の体液をエリクサーに変える『エリクシル・バー』を。

幼馴染の男の子を監禁して一方的な愛の巣を築いていた女の子には、これと決めた相手の遺伝子を摂取する事で両方の特性を受け継ぎ、さらに任意の能力を持たせた子供を産める『ソドム』と、超振動波で相手を分子ごと振動破砕する「ゴモラ」を。

幼馴染の女の子に監禁されていた男の子には、あらゆるステータスを好きな生物のモノと交換できる『エクステータス』と、視界に捉えた相手の尿意や便意を自在に操作できる「だっぷんだ!」、そしてとくべつに、幼馴染の女の子以外の女性では相手できなくなるよう『超極精体(ハイパースペリオル・ハイボディー)』をあたえ、神様パワーでひとまず一か所に集めました。

いきなり見知らぬ場所に連れてこられ、そのうえ怖い悪魔を倒して来い、と命令された人間達は、死に物狂いで拒否します。

シカシ、最終的には神様の物理的な説得を受けて首を縦に振らされた人間達は、新しく『賢者』『女王』『聖女』『勇者』の称号と新しい名前を与えられ、動くお城に乗って悪魔たちを倒すたびに出発したのでした───



*****


 「ねぇじいちゃん、このかみさまってひどいね~」


「そりゃ神様じゃからな。じじいも、昔じじいのばあさんからこの話を聞かされては同じ事を思ったわい」


「知ってるよ!わたし知ってるよ!こういうひとを、『ド畜生』っていうんだよね?」


「『鬼畜生』や『外道』でもいいの。なんなら『厨二病』もつけちゃろう」


「あはは、おじいちゃんふけ~い」


「ふはは、じじいもそう思うわい。それじゃあそろそろ続きを読んでいくかの」


「うん!」



*****


 動くお城に乗った『勇者』は、次々に悪魔たちを倒していきます。

「超極精体」によってほとんど無限と言っていい体力を持っている「勇者」は、悪魔から逃げ続ける生活の中で鍛え上げられた逃げ脚と、神様からもらった「だっぷんだ!」でヒットアンドアウェイを繰り返し、次々と悪魔たちの尊厳をボッキボキにへし折り動きを封じて行きます。

 勇者が大好きで大好きで仕方ない「聖女」も、間違っても勇者が悪魔に食べられないように、「勇者」と自分の遺伝子を掛け合わせて作りだしたたくさんの子供達を出撃させて、動かなくなった悪魔たちにとどめを刺していきます。

「勇者」と「聖女」のコンビネーションは抜群で、どんな悪魔も二人の前には歯が立ちませんでした。

 そんな向かうところ敵なしの勢いで快進撃を続けていた『勇者』達に、ある日最大のピンチが訪れました。

なんということでしょう。

性欲を持て余した「賢者」と「女王」が、それぞれ「聖女」と「勇者」にルパンダイブしてきたのです。

これには常日頃から貞操の危機をひしひしと感じ続けていた二人もビックリ仰天。

思わずカウンターを食らわせて、『賢者』と『女王』に瀕死の重傷を与えてしまいました。

いくら二人がゴミの様な人間だとは言え、流石に殺すつもりはない「勇者」は慌てて二人を「女王』の『エリクシル・バー』で回復させようとします。

しかし『聖女』はそんな『勇者』の優しさに思わず惚れ直しながら、若干慌てて制止しました。

 「考え直して『勇者』。

こいつらはまだ子供のわたしたちにばかり悪魔を倒させて、

自分たちは安全なお城の中に引き篭もっていた卑怯者よ。

しかも、後方支援とか言いながら私の着替えを覗こうとしたり、

回復するわと言いながらあなたにエリクサーになった自分のおしっこを飲ませようとしていた度し難い変態さんたちなのよ。

ここで情けをかけたら、こいつらは絶対につけ上がるに決まっているわ」

『聖女』の言葉に『勇者』の治療の手が止まります。

「こいつらは私に任せて、貴方は疲れを癒やして頂戴。

大丈夫、私に考えがあるの」

微笑む「聖女」に、「勇者」は迷いを振り切ってどうでもいい仲間よりも体力を回復させる事を選びました。

 そして次の日から、『勇者』と『聖女』と『賢者』と『女王』の旅は、『勇者』と『聖女』と『お城』の旅になりました。

『賢者』と『女王』の代わりに仲間になった『お城』は、二人とは大違いの活躍を見せました。

『だっぷんだ!』が追いつかないほどの数の相手に『フリーユーザー』で属性を付与した砲弾をぶっ放し、「超鑑定」で発見した弱点を強行突破し、その間にも「エリクシル・バー」でエリクサーを大量生産して回復を支え、大怪我を負っても『万生流転』で即座に戦える肉体に巻き戻して、『お城』は『勇者』と『聖女』とその子供たちの冒険を支え続けました。

その後も、山のように大きな悪魔を倒し、大挙する悪魔たちの群れを突破し、勇者達の快進撃は続きます。

しかし、『聖女』が妊娠すると同時に、その連勝記録が止まるときが来ました。

スキルではない、『勇者』との間の本当の子供を孕んだ『聖女』は、もう『聖女』ではありませんでした。

そして『勇者』も、『万生流転』の使い過ぎでもう戦える体ではありませんでした。

『お城』を離れる事にした二人は、今まで一緒に戦ってくれた「お城」の為に自分たちが与えられたチート能力を、『エクステータス』で『お城』にあげました。

こうして、『お城』は一人ぼっちで悪魔の王と戦う事になりました。

 『勇者』たちの力を受け継いだ『お城』は全力で魔王に立ち向かいます。

『エリクシル・バー』で大量に生産されるエリクサーが、『お城』の中に張り巡らされたパイプを通り、装備の生産に費やされます。

『フリーユーザー』で様々な属性を付加した砲弾やビームが、天を覆い押し寄せる悪魔たちを吹き飛ばしていきます。

悪魔の王がいる限り、悪魔の軍勢は増え続けます。

『お城』も、『エリクシル・バー』と『超極精体』がある限り、無尽蔵に装備を生み出し続ける事が出来ます。

そんな終わりの見えない戦いが、何十年も何百年も何千年も続きました。

 そして戦いが始まってから長すぎる年月が経ったある朝。

悪魔の産み過ぎで栄養失調に陥った悪魔の王は、遂に『お城』の生み出す無限の重火器の前に敗れ去りました。

そして全ての悪魔を殺し尽くし役目を終えた『お城』もまた、チートスキルの使い過ぎで限界を迎え、覚める事のない眠りにつきました。

こうして、世界は平和になり、今の時代が築き上げられたのでした。

                                 ───めでたしめでたし


*****


 「あ~つまんなかった!」


「一時間以上そのつまらないお話を音読し続けたじじいの立場がないのぅ、その感想。

そもそも、前もつまらないと言っておらんかったか?」


「うん、いってた!

だって、おじいちゃんがわたしをひざのうえにのせてへんたいさんみたいにはぁはぁしていると、おかあさんやおとうさんがおもしろいかおをするんだもの!

しかたないよね!?」


「鬼か?」


                                       ──────おしまい♪

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