複合型異形
異形の化け物の声ですが、玲二には日本語に聞こえていますが、クゥリャ達異世界人には意味不明な言語に聞こえています。
「おい。君、大丈夫か?」
取り敢えず化け物を一時的に遠ざける事が出来たので、安否確認すべく、足元で大樹に身体を支えて立っている少女に話しかける。
「あ、はっはい・・・大丈夫です・・・」
少女は少し戸惑っている様子では有ったが頷きながら、返事をしてくれた。
近くで見ると予想以上に小さく、玲二の脛ぐらいの身長だった。
ショートヘアの黒髪にシミ一つない健康的な褐色色の肌に整った顔立ち、何故か瞳を閉じているがまごうことなき美少女だった。しかもよく見ると十五歳ぐらいの見た目のわりに白い無地の薄い体操服のような半袖シャツの浮き出る大きな胸に、ハーフパンツ上からでも分かる引き締まったヒップラインは大人ぽい色気が————
って・・・変態か俺は!思わず目線を逸らす。仮にも思春期の男子高校生には、少々刺激強い。まぁ、もう人間じゃないですけどね。
「あの、貴方は・・・」
玲二が煩悩を抱いているのをよそに、不安を拭い切れない声でこちらを見上げている。
うっ・・・ごめんなさい。こんな時に不純なことを考えていた自分が申し訳なくなった。
視界の端に倒れた木々を退かし、起き上がる化け物の姿が見えた。流石にあの程度のパンチでは倒せないようだ。
「あぁ・・・悪いが後にしてくれ。あいつ起き上がって来たみたいだし。くそ、やっぱ殴っただけじゃくたばらないよなぁ。」
あわよくば気絶ぐらいはしてくれると思いたかったが、そう甘くはないようだ。
「ころす・・・ころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころす―――」
しかも、カンカンに怒っているようで先程よりも殺意剥き出しでこっちに突っ込んできそうな雰囲気だ。
「何処かその辺に隠れてくれ。巻き込まれると危ねぇからな。」
そう言うと、少女は大きく頷く。
「分かりました。その・・・頑張ってください!!」
少女は自分にエールを送ってくれた。そんなこと言われたら男として頑張るしかないないよな。
「おう!さっさと倒して来るから待っててくれよ。」
そう啖呵を切って、こちらに向かって土煙を巻き上げて奇声をあげながらこちらに迫る化け物に向かって走り出した。
「ころすぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁ————」
「はん。そんなに拳がお好きならもう一発お見舞いしてやるよ!」
先程と同様に拳を固め、走る勢いをそのまま利用して、向かってくる相手の顔に合わせて化け物の顔面に拳を放つ、玲二の拳は化け物を捉え鼻差にまでなった瞬間、化け物の像がブレて拳は弧を描き盛大に空振った。
「は?」
確実に当たったと思っていた攻撃を瞬間移動のような速さで回避されたうえに気がつくと真横にいた。
「しねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――――」
空中で空振った為に回避や防御など出来るはずもなく、化け物は肥大化した左腕捻り、玲二の右に脇腹に自身の一・五倍の拳が勢いよくめり込んだ。
「ごふぅ・・・」
脇腹にもろに受け、勢いよく弾き飛ばされ地面に背中から叩きつけられた。
「かはぁ―――」
衝撃で一瞬視界が真白になった。
あぁぁぁ、くっそいてぇぇ。
骨に響くような激痛を感じながらも顔をあげると、黒い触手が目の前にまで迫っていた。
「うおッ!?」
咄嗟に左に転がって回避しつつ起き上がると、次々と触手が迫る。
「くそッ、伸びんのかよそれ!?」
一本をサイドステップ、もう一本をしバックステップ、更にはもう一本をしゃがみで回避すると、また瞬間移動のような速さで目の前に現れた。
「なっ―――」
こいつ、あんな図体してるくせに速すぎる。
化け物は玲二の頭部に向けて、拳を勢いよくおり降ろす。
しかし、今度は化け物攻撃を両腕を組んで受け止める。
「ぐっ―――」
衝撃が全身の関節に伝わり思わず膝を着いてしまい、地面を陥没させた。
くそ、なんだよこのスピードとパワー。あの子を追いかけていた時と余りに違いすぎる。つまりはこれがこいつの本来の強さで、さっきのは遊んでいただけだってのかよ。
「ッ・・・この!」
両腕に力を込めて、押し返し化け物の上半身を蹴り飛ばす。
「ちっ・・・浅いか。」
当たりはしたが上手く後ろに飛んで衝撃を逃がされたようだ。
動きを見ていて分かったが、どうやらあの芋虫みたいな身体から生えている蜘蛛を思わせる長い無数の脚で正しく蜘蛛と同じ素早さで動いているらしい。
全く、どう見てもあの身体を支えることすら怪しいあの細い足のどこにこんな動きができる要素があるんだよ。
「おまえ・・・どうほう、なぜ、じゃまする!」
触手を地面に叩きつけるながらたどたどしく日本語で叫ぶ。今更だけど、こいつ日本語喋ってるじゃん。ここ異世界だよな?
「大した理由なんてねぇよ・・・生憎と俺は人間が好きなんでね。黙ってお前に食われるのを見てられねぇんだよ。それに————」
腰を落としファイティングポーズをとる。
「困ってる女の子助けるのに理由は要らないだろ?」
我ながらかなり恥ずかしいを言っていると思うが、今のはキマった気がする。
「ふざけぇぇぇぁぁぁぁぁぁ―――」
凄まじい怒りの咆哮をあげて目にも止まらぬ速さで迫ってくる。
「いいぜ。とことん相手してやるよ!」
化け物の上半身部分をガッチリと掴み離れないように身体全体で受け止める。
「がぁ?!」
「捕まえたぜ!」
目で追い切れないぐらい早く動くなら、動けなくすればいい。
「がぁ!がぁ!がぁ!」
触手や腕で仕切りに背中を殴られるが、大した問題じゃない。
触手を鷲掴みし、逃がさないように前足を踏み潰してガッチリと固定し、思い切り、左腕を振りかぶる。
「うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」
力一杯振り抜いた拳は鳩尾に直撃し、メリメリと音を立てて身体にめり込みそのまま貫通した。
「ごぶッ・・・」
化け物の口から緑色のぬめりけのある液体が吐き出され、玲二の髪や背中にかかった。恐らく血だろう。
「どうだ?!」
「ぐがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――」
しかし、化け物の動きは止まらず、左腕で玲二の顔面を掴みそのまま、無理やり腕から身体を引きに抜き、踏み潰された脚を自ら引きちぎって、距離を取った。
しかし、先程よりも動きが鈍いようだ。
「効いてはいるみたい―――」
そう思っていたのだが、化け物は傷口からグチュグチュと淫猥な音を立てながら傷がみるみる消えていき、千切れた前足が再生していた。
「おいおいマジかよ!?」
胴体を貫いた筈なのに再生しやがった。普通なら致命傷なはずなんだけど。
「よくもよくもよくもよくもよくもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
激昂した化け物の身体突然肥大化し始めた。一・五倍だった腕は三倍近くに膨れ上がり、上半身部分も二倍近く巨大化し、触手も八本から十六本に増え、芋虫の部分は赤色に変色した。
「冗談だろ・・・まだ強くなんのかよ・・・」
ここに来てまだ相手が本気じゃなかったと戦慄した。
「これは・・・ちょっとやばいかも・・・」
「ずっ随分と恥ずかしいことを言いますね。あの異形さんは・・・」
困っている女の子を助けるのに理由は要らないとか、そんな御伽噺の英雄のようなことを言ってしまう少年の異形?に恥ずかしいと反面、クゥリャはとても嬉しかった。
自分は目が見えないし、聴力が嗅覚が人より異常に良すぎたせいで女としてどころか、人間扱いすらされたことなどなかった。今回だって、半ば無理やり連れこられた節がある。
だから、ちゃんと女の子として扱ってくれたことが嬉しくて、頬が熱くなり、自分が少しニヤニヤしていることに気づいた。
「って、今は照れてる場合ではありません!」
自分の顔をパンパンと二回叩いて気持ちを切り替える。
視力はないので周囲の戦闘音や会話からおおよその状況は把握している。
「やっぱり・・・かなり苦戦しているみたいですね。」
あの異形はどうやらこの辺に出没する野生の異形とは完全に別物みたいですね。移動の際の音はしませんでした。恐らく歩くと言うよりは跳ねるような移動法でしょうか。それに、人間の上半身らしき身体、音の質量的に筋肉が肥大しているであろう腕に、風を切りうねる複数の触手、更には胸部を貫かれても平気な高い再生能力に自強化、分かるだけでも昆虫と人間の強化複合型のようですね。
「複数の生物の特徴を持つ異形なんて本来こんな辺境の森の中いない筈ですが・・・まさか、爵位待ちの配下?!」
爵位持ちとは、七体の異形の王にそれぞれ仕える王から直接権能や知性をさずけられた七体の特別な個体を指す言葉である。
かつて、この世界の六割を支配した大帝国が異形の王の一人である甲殻王ラカ=バイキトゥ=クァサの爵位持の単騎に五日で滅ぼされたと言えば何となくでもその強さが分かるだろう。
通常野生の異形なんて武装した人間なら三~五人ぐらいで倒せるような相手だ。
配下、若しくは奴隷でもない限りこれ程の強さはありえない。
もしそうなら、普通の方法じゃ倒すことができない。
「だとしたら不味いですね。早くこのと伝えないと、異形さんがジリ貧になるかも知れません!」
そう、弱点を伝えなければ―――
18時に後半投稿します。
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