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1-12『彼と彼女はこうして出会った』

 一日お休みを頂きました。


 というわけでキャンプ編です。

 すぐ終わります。

 ――時系列は少し遡る。


 その日は、春休みも終わりに近づこうかという頃。

 とあるキャンプ場に、ひとりの青年が満を持して到着していた。


 名を、――安藤あんどう翔太しょうたという。


「ふぅ……やーっと着いたあ」


 昼前にして、わずかに溜まった体の疲れを、春先の爽やかな景色を前に伸びをして解きほぐす。

 とはいえまだ到着したばかり。ここまではただの前提、移動に過ぎず、大事な本番はこれからだった。

 早起きし、前々から準備していた荷物を浮かれつつも再度チェックして、忘れ物がないことを確認してから家を出発。電車を二度乗り継ぎ、到着した駅からさらに歩いて――家を出発からすでに数時間。

 それでも目の前に広がる無限の楽しみに、翔太は零れる笑みを堪えきれずにいた。


 そう。ゲーセンにも行かず、読みたい本や観たい映画も我慢して、ソーシャルゲームの課金なんかもちろん論外で――こつこつバイトして貯めた大切な軍資金。

 その全ては、こうして憧れていた《ソロキャンプ》に挑むためだけのものだったのである。


 高校一年生(もうすぐ二年生)安藤翔太。

 学校では目立たない地味な彼は、アウトドアを趣味としていた。

 意外……と言っては偏見が過ぎるだろうけれど。

 それでも、翔太がキャンプに憧れている事実を知る者は、家族以外にはいなかった。


 というか話す友達がいなかった。


 使用の手続きを済ませ、翔太はさっそくキャンプ場へと繰り出した。

 その背には、大きな荷物が揃っている。

 バイト代で買ったものもあれば、一部お下がりだったり親に援助してもらった品もあれど、その全てが《冒険者》安藤翔太、個人の装備品もちものであることには疑いの余地がない。


 まずは設営といこう。

 翔太はさっそくテントを取り出す。

 数あるキャンプ用品ギアの中でも、やはり代表的なものは《テント》だろう。こんな表現は大袈裟かもしれないけれど、それでも男の子にとって、自分の、自分だけの城を一から築き上げるかのような喜びはほかに代えがたい。

 翔太としても、特にこだわ――りたかったところである(が主に金銭的な都合から妥協はした)。


 設営の訓練は実家の庭で何度も繰り返した。

 というか、半分以上はもう単にテントを建てたいがためだけにやった。

 が、その甲斐もあって、割と手際には自信がある。


 まずはテントの傷つきや保温、湿気や地面固くて寝れない病防止のためにシートを敷き、その上にテントを立てる。

 多くのテントは、湿気や温度の対策として二重構造ダブルウォールになっていた。内側テントを覆うように、外壁としての外側テントを被せる……といったイメージだろうか。

 骨組み(フレーム)内側部分(インナーテント)を組み立て、外側部分(フライシート)をかける。そちらにもフレームで骨組みし、さらに専用の紐(ガイライン)を通す。これを固定用の金具ペグで地面に打ち込むことで、風などに飛ばされるのを防止するのだ。


「あ、あれ……なんか地面が固いか?」


 ちょっとペグ打ちに手間取ったものの、それでも三十分かからず組み立てを終了させた。

 何ごとも、あまりイメージ通りにはいかないらしい。

 慣れれば本当に一瞬で組み立てを済ませられるらしいが、翔太はまだ初心者。ソロキャンプ初挑戦の素人だ。その域には達していない。

 ちょっとした苦労なんて、楽しみに転換されてしまう。

 いや、あるいはキャンプ自体、わざわざ不便を楽しみにいく道楽なのかもしれない。

 失敗さえ、醍醐味だ。


「ふっふ……ふ、ふふ……」


 思わず、ちょっと気持ち悪めの笑みすら零れてしまう。

 学校で女子に聞かれようものなら、露骨に引かれるレベルの声だろう。

 今のは仕方ない。確かに自分でも正直キモかったと思う。

 いやだからってキモいと言われたくはないが。


 ……いやいや。


 せっかくキャンプに来たのだ。学校のことなんて思い出さなくてもいいだろう。

 できれば楽しいことだけ考えていたいのが道理だった。


 だって、こんなに楽しいのだから。


 まだ何をしたわけでもない。

 それでも妙な達成感と、えも言わぬ解放感に満ちている。

 この楽しさは、ちょっと言葉にはできなかった。

 なんなら叫び出したいくらいで――


「いやっほぅ! この解放感、最高だぜ――いっ!! まっつり上がれ――ぃ!」


 そう、まさにそんな感じで……、


「…………ん?」


 思わず目を見開く翔太。


 ――え、あれ? 今、俺、叫んだかな?

 いやさすがに声は出していない。自覚もなく叫ぶとか病気。

 しかも今の声、どう聞いても男の声ではない。

 女性の……それもおそらく若い、たぶん自分と同年代くらいの女子の声だ。


 思わず翔太は、自分の周りをきょろきょろと見回した。

 すると。

 翔太の割とすぐ近く。数メートルほど離れたところにひとりの女の子が転がっていた。

 転がっていた。


 もうちょっと具体的に言うと、側転していた。


「えっ」


 パンツルックの、同い年くらいの女子であった。

 その子が側転しながら、ハロウィンの渋谷もかくやというハイテンションで叫んでいたのだ。


「ふぁー、たーのしー! ざまみろザわーるどぉーっ!!」


 何それ?


 ……まあなんというか楽しそうだった。

 いや、うん。うんまあ気持ちはわかるのだ。翔太も。

 あそこまでハジけるのはこわいけど。


「やっぱり誰も見てないとこでくらいはしゃぎ倒さないと――」

「――あっ」

「ん? ――んぅっ!?」


 あっやべ声出しちゃった。いやさっきから出してたけど。

 どうやら誰も見ていないつもりで、向こうのほうから走ってきたらしい。あるいは転がってきたらしい。

 それが翔太の存在に今ようやく気がついたようで、それはもうばっちり目が合った。


「……、……」


 無言のまま固まる翔太と。


「……………………っ!?」


 こちらも硬直して、一瞬で顔を真っ赤に染める少女。

 なんだかシュールな空気がそこに広がっていた。


「え、あ、あの……えと。いやその、違くて……これは違くって……っ!!」


 少女が徐々に涙目になっていく。

 さきほどと同一人物とは思えないほどに声もか細くなっていた。


 ――いや、どうしよう、この感じ……。


 目が合ってしまった以上、気づかなかった振りは無理だし。

 かといって、じゃあ何を話せばいいのかと訊かれても困ってしまう。

 こういうとき、どうするのが正解なのか。

 もしこれが自分の幼馴染みの、あの完璧な少女なら。

 きっと無理なく処理するのだろうに。

 自分は、そういったことに向いては――……ん?


 ん?


「あれ、お前……」


 思わず声を上げる翔太。

 それに、少女は肩をビクッと跳ねさせ。


「は、はひゃいっ!?」

「お前さ……」

「ななななんでしょうか違うんです今のはちょっとはしゃいじゃっただけでホント特に意味はないっていうかわたしそんなキャラじゃなくてあのその――」

「いや、お前……えっと。小野おの七海ななみ……さん、だよな……?」

「どぅわはぁいっ!?」


 探るように問う翔太に対し、少女のほうは否定か肯定かわからない愉快めのリアクション。

 ただ、いくら友達の少ない翔太だって、さすがに一年間を同じクラスで過ごした女子の顔まで見間違わない。

 まあほとんど話したことはないが。

 なんなら、下手するとマジで一度も話したことはないが。

 それでもわかる。


 普段とは別人みたいな様子ではしゃぎ倒していた少女は――クラスメイトの小野七海だったのだ。


 彼女は言う。

 真っ赤に染めた顔と、恥ずかしそうな涙目で、小動物みたいにぷるぷる体を震わせて。


「な、なんでわたしの名前を……誰っ!?」

「……いやそのクラスメイトなんすけど一応……」

「え?」

「…………」

「……、……、……あっ」

「……安藤、翔太……なん、ですけど……」

「…………」

「…………」

「……ごめん……」

「いや……別に、いいけど……、まあ……」


 そもそも顔を覚えられていなかった可能性がある。

 いや、まあ思い出してもらえたならいいか。ちょっと傷ついたけど……。

 心を立て直す翔太。

 そんな青年の目の前で、少女――小野七海はほっと肩を撫で下ろし。


「そ、そっか。クラスメイトの、安藤くんかあ……よかったあ」


 と言ってから。

 次第にまたぷるぷると震え始め。

 そして。


「いやクラスメイトに見られたあ――っ!!」


 そうだね。

 そのほうがつらいかもね。

 うん。


 ……ごめんて。


 と、翔太は思った。




 ともあれこれが彼と彼女の――すなわち安藤翔太と小野七海との。

 ある意味での、ファーストコンタクトであった。

 急に違う話が始まったかと思われるかもしれませんが、

 この作品は『幼馴染みに絶縁されたら学校一のカップルになっていた』であってます。

 大丈夫です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] まさかこの2人が付き合うとか無いですよね?
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