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08. 運命を曲げ、従わせる者<12>

 目覚めて、アルキスは最初に墜ちた星の探索に着手した。

「私はもはや何も申しあげられませぬ。〈星々の庭〉は星見が踏み入ることのできる領域ではございませぬゆえ。しかし」

 と、ストリキオは言った。

「ひとつの星の気配が消えました。巨星とは言いがたい。だが星くずとはいえない。私の盲いた目が感じるのは、それのみです」

 アルキスは自分のもとで働く星博士たちに、墜ちた星の特定を命じた。アルキスの命令で星の運行を観察し、記録を積み重ねていた博士たちは、記録と現状を照らしあわせて、ある星が空から姿を消したことを突き止めた。しかし問題は、その星が何者の運命を司っていたのかということだった。

 アルキスは各地に使者を派遣し、なんらかの巨大な存在が滅びたと仮定して、その探索にあたらせた。各地に出立した使者が樹上城に帰還したとき、すでに半年が経過していた。

 ——〈草の海〉の果て、〈毒の海〉の水のほとりで、ルドヴラという街が水にのみこまれた。

 円形の空の下、使者から報告を受けたアルキスとエンジュは戦慄した。使者たちを下がらせ、エンジュはストリキオにすがりつく。

「いったい何を、あなたは知っているの。星見の一族というのはなんなの? ティンダルはいったい……、わたしは……」

 ストリキオは笑っていた。アルキスも。エンジュは信じがたいものを見るようにふたりを、とりわけ恋しい男をみた。

「星見の一族とは、古い罪を背負い、受け継ぐもの。罪とは、かつて迷妄のためにひとつの命を奪い、星の子の怒りを買ったこと。星神はわれらに課した。星神と星の子の賭けを見届けるまで、子々孫々に至るまで星の子の物語を伝えることを」

 ストリキオはいつになく饒舌だった。〈星々の庭〉の力が明らかになった今、もはや何も秘めるべきことはないというように。

「それは、〈星々の庭の歌〉でうたわれている物語のこと? 星神の子どもであるシリウスが少年に恋をするけれど、少年は星神に捧げられる犠牲として死ぬ……」

「そうだ、少年を失ったシリウスは怒り、嘆き悲しみ、母なる星神と賭けをした。——いつの日か、少年が新しい命を与えられたとき、シリウスのことを思いだしたなら、そのときこそ少年とともに生き、死なせてほしいと——星の子たるみずからの宿命を捨て、ただ人として星の運命のもとに生きる存在になりたいと願ったのだ。われら星見の一族は、少年の命を奪った罰として、それを伝える宿命を与えられ、どこにも行けぬよう眼を奪われ、そのとるに足らない願いに縛りつけられてきた」

「ストリキオ……?」

「今こそ、われらに強いられた伝承を逆手にとり! 星の運命に翻弄されつづけたものが運命を曲げるときが来たのだ。われらの罪……われらの王……私の……それでも……」

 抱えてきたものをすべて吐きだすように、ストリキオは叫び、哄笑し——そしてそれは唐突に途絶えた。

 星見の男の怒りを理解しきれぬままに、少女は目の前でいきなり奪い去られたものを、呆然と見やった。

 足もとで、男は意思を失っていた。

「……死んだか」

 アルキスはストリキオに触れた。みひらいた両眼、あえかな星の光を感じる力だけを与えられた眼に、円形の天空が映りこんでいた。

「星神は見ていたか。あるいは、果たすべきことは果たしたということか。いずれにせよ、まだこれからだというのに」

 青年は手をさしのべた。

「エンジュ、行くぞ」

 はい、と少女は答えた。

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