出発~探索で討伐
まあ、そんなあざとい事を思ったら、ろくな事にならないと自覚して、後悔。
自分は関係なく、彼女の事を「誰か何とかしてあげたら良いのに」位に思ってたのに。
――御祖母様の目がキラキラしてる。
エリルの境遇に御祖母様が凄くやる気になって、「私にお任せなさい」と僕とエリルの「フリ」が決定した。
――僕がですか? 位の勢いがあったけども。
もう大事で、御祖母様は祖父を連れて、王宮のある「ベルーディーク」に行き、アルター家とリュラー家とネーブル家の当主と話をすると言い出した。
当然、僕も言った。
「結末は、僕が振られるんですよ」と思い切り。……家門としての体裁とかの事も。
思い切り譲って「僕では釣り合わないですよ」とも言ったんだけど。
――見た目も釣り合わないし……でも、まあ、御祖母様には無駄だった。
「家門を継ぐ男子が生まれたからと言って、御令嬢を突然と政略に向ける様な無体な事を。婦女子をなんと心得てあるのか? 一応に、御当主方には示教を願いませんと――」
流石に、父上も声を出そうしてた。でも、御祖母様の「何ですか?」な、表情と勢いで沈黙する。
――巻き込まれるアルター家の当主も、あれだ。
まあ、御祖母様と祖父も、そんな経緯があったとか何とか。御祖母様は公爵家の出だし。
結果がどうであれ「ああ」で「流石はエルライン伯爵の孫」と名目が立つらしい。
――そんな事、僕は知らないけど。
それなら、父上も聞いてしまったら「良い」とは言えない筈だ。……僕はそこまで目立ちたく無い。
でも、可愛いがられている自覚があるので、御祖母様には逆らえない。
母上の満面の笑みが意味不……。
……そんな事を思い出してしまっていた。
「意味不……」は、取り敢えず、今現在はどうでも良い。もっと言えば、前方で剣を抜いて高揚感を魅せているエリルとの「フリ」の話も気にならない。
――それが僕の現実だった。
兎に角、現実逃避な回想で快走中。「餌仕様」な僕の現状を『網を張る』彼らに投げつける。
「あっ、い、来ましたっ、あの洞窟当たりです!」
後ろに迫るのは、オークと上位種のハイ・オーク。数は振り返れないから、沢山としか分からない。
認識もそこそこに、木々の間を抜けて、僕は思い切り足を動かしてエリルの横を通り抜ける。
「私が引き受ける!」
すれ違い様に彼女の声を聞いて、足に力を込め勢いを殺して振り返った。
エリルが高速の三連でオークを切り捨てるのを見て、執事の魔術師に教えて貰った通りに、流動待機中の術式を再起発動する。
展開する取っ手付き魔方陣と雷光の弾丸の魔力発動が見える。
そいつが、エリルに迫るオークとハイ・オークの動きを若干止めて、彼女の剣擊が続いていた。
瞬きの後に、爆炎を引きずる光が僕の背中の方から抜けて、火柱を複数作り出していた。
自分の腰に下がるフライパンの竜水晶に「流動を――」と思った時、黒剣さんが尋常じゃない速さで隣を抜けて行った……。
まあ、二発目を僕が放った後には、結構な数の「息して無い」が出来上がり、その場に静寂か来る様に見えていた。
…エリルの強さもだけど、フィリアの魔力発動の回数もあり得ない。――見たけど。
大体、普通は探索だ。
討伐は領主とかの仕事。父上も、「あの件」はアルター家に話を通すって言ってたし。
もし、冒険者がやるなら「同行」で、するのが当たり前だった。……それか、複数パーティーに丸投げになる。
「丸投げ」は、弱小領主の維持費削減とか、代官の体裁の自腹とか、商人の荘園案件に教会がらみとか色々。
――良く考えたら結構多い。
貴族の依頼って考えると黒剣さんは駄目だけど、、商会を通すと|黒剣さん的には「貴族の依頼」の認識も捜索と討伐の区別はない。
――まあ、フィリアが教えて無いのもある。
今回のも、個体上位種の疑惑に探索で森に来た。
結界のある『穴』と言われる下に通じる場所。
昔、魔王が出た時に空いた穴を「結界の魔動機」で塞いだら、魔王が居なくなっても、塞がらなくなったらしい。
それで、中途半端に「魔解」――魔界――と繋がったままになった。
今の所、壊れるのを直しながら、魔物に魔獣と「いたちごっこ」時々、魔族という感じ。
冒険者の仕事はそれが多い。――まあ、あれだ。
そんな事を考えながら、おこぼれ……いや、成果を転写していると、パーティーに加わったエリルが、高揚感丸出しで僕に近付いて来る。
「ウィル、気分が良い。こんな世界もあるんだな」
「取り敢えず、フィリアに綺麗にして貰ったら」
冒険者になって新調した鎧が、返り血で染まっていた。少し青いし、美形な顔もあれだし。
そんな彼女の姿を見て、御祖母様に言われた事を思い出した。
話が済むまでの間の事で、「暫くお待ちなさい。例え『フリ』でも、それらしくなるように互いの人となりを理解なさい」と親好を深める様に言われた。
――何故か『頑張りなさい』とも言われた。……何を頑張るのかは微妙だ。
「親好を深める」ならで、黒剣さんの雰囲気とフィリアの勧めで、エリルは冒険者になった。
黒剣さんの一言で、行きなり銀階級なのは、どうなんだ?
そんな彼女は、何回目かのクエストで何かを振り切った。
――破壊衝動出てるよ? 位の勢いがある。……多分、抑圧の開放みたいな感じなのか。
まあ、婦女子の嗜みでは無くて、当主前提の教育で小さい頃から育った彼女は、清く正しく美しい。
でも、異母弟が五歳になった今年、家門の継承権を何れは弟に移すと言われそうだ。
彼女の為が一番にあるのは分かるけど、今さら「女性的な幸せ」と言われても、エリルも困ったんだろうな。
譲るとしても、それまでは当主然とする気持ちと現実の自分としての気持ち。
それで、ネーブル家の当主の息子、アリルデッドが相手と言うもの何だかな。まあ美男子だ、何かが曲がってるけど……
「おい少年」と言われそうな雰囲気で、エリルを魔動水で洗うで綺麗にしていたフィリアが僕に声を掛けてくる。
「あれ、燃やして消したら次いくからね。存在の抑制やっときなさいよ」
「もう、次ですか」
「当たり前じゃない、一人増えたんだから。それにライラは聖導騎士でしよ。だから、アンデットも行けるし、選択肢が広がったんだよね」
フィリアの言葉に僕は、エリルと顔を見合わせた。――ああ、それか……。
「えっ、いや、無理だと」
「なんでよ。『聖導』の騎士でしょ」
エリルが困惑の雰囲気で、僕に何かを訴えていた。
――僕ですか?
「あの、アンデットなら聖導術士か、聖導術師だと思うんですけど。聖職者の司祭とか司教的な」
「えっ、なに、違うの?」
「私は、聖導『騎士』で、回復と解毒に治癒が主なのだ。鍛練を積めば『蘇生術式』まで至れる。ただ、遥か高位ゆえ、今はとても」
エリルも龍翼神を信仰する信徒だけど、聖職者ではない。教会が騎士として認めた称号が「聖導騎士」で癒しの力がある者に与えられる。
エリルは爵位の騎士に称号として、「聖導騎士」も持っている。聖職者だったら、女性のエリルは竜戦の乙女になる。
――それでも、アンデットは無理だ。
「うそ、本当に。それなら私も出来るし。どうしょう……そっち系のクエストと受けちゃったわよ」
「まあ、仕方ないですよ。対アンデット用の物、持って行くしか……」
フィリアは、違う様子に不安な顔を見せている感じだった。……何と無く、勘違いだったのかと思う。
少し、気まずい雰囲気になった。それを唐突に黒剣さんが「微妙」に変えていく。
「そこに居たから捕まえた」
耳兎が二羽。耳を掴まれ、存在を僕らに示していた。後ろから突き出された二羽に、フィリアは「いっ!」となっていた。
僕は当たり前で、フライパンに手が掛かっていた。――い、いつの間に? 絶対そこにはいなかった。時々放置されたけど、普通だったんだな。だけど、それ好きなんだ。
「今、焼きます?」
「はぁ?、今はそれどころじゃないでしょ。大体、あんた、何か使えないの魔導師適正あるんだよね」
少し、話し方に気持ちが見えるフィリアに、黒剣さんは「そうか」と言ってそれを引っ込めた。
フィリアも一瞬「しまった」の感じになって、僕の事を意識から落としたみたいだった。
そこで、エリルが唐突で、「そうか」と下がった黒剣さんに、直接迫る。
「黒剣殿。アンデットと戦った経験は御在りか?」
「喰った事は無いな」
「えっ、いや……そう言う意味では」
たじろぐ、エリルがちょっと可愛い。――うん、何時も感じだ。フィリア抜きはまだ無理だね。
どちらにしても、いい加減森の中でそろそろ戻らないと思う所で、黒剣さんが当たり前に声を出す。
「帰るか?」
「オース、違うでしょ。今は次のクエストの話」
「フィリア、怖いなら断るぞ」
一瞬「うっ」となるフィリア。彼女の余りにも直線的な反応に少し驚く。
「ち、違うわよ。こ、効率の話で、エリルが聖導騎士だったから……」
それは勘違いだけどの表情が、僕だけでなくエリルにも見えていた。フィリアも何と無く自覚しているみたい。続く言葉が少しずれてた。
「それに、受けといて断ったら……オースの名前に傷がつくでしょ」
ちょっと、「しおらしい」雰囲気で黒剣さんに向かうフィリアに、彼は考える仕草を見せていた。
「あれだ、焼かないなら帰るぞ」
まあ、見えただけだったけど。
みんなも一瞬、何の話だったか見えなくなった感じになっていた。
取り敢えず、そんな事を気にする人じゃなかった。
……とここで、僕の記憶に「喰った事はない」が出てきた。それで、軽く一言。
「 黒剣さん。食べようとは思いました?」
「斬っても消えなかったのは腐ってたな。後、人食う奴は……駄目だ」……真顔で彼はそう答えて、「骨は流石に犬用だな」と続けていた。
……腐ってるそっち系の。消えたのは零体――霊体――なのか? と言うかどこでそんなに。
「黒剣さんて、凄い数の魔物とか倒してる様な気がするんですけど」
僕の言葉に、考えるフリな彼の横からフィリアの衝撃的な一言。
「オース、深淵の迷宮の生還者だから」
エリルの驚いた顔も中々……『えっ!』。
「本気ですか……」
「そうか?」
――「そうか?」とかではない、いや、聞かれても。あり得ないですが。
――深淵の迷宮――
それなら、クエストごときで悩むフィリアも、あり得ないんですが。……真顔でそう思ってしまった。