探索~廃墟の砦01
廃墟の砦。そのままな場景に黒剣さんはその現状確認も無しに入っていった。確かに、見たまま何処からでも入れるけど。
僕もまだ慣れていない、「お構い無し」の雰囲気の彼とフィリアの姿が消えて、母上に僕を託されたダニエルがはっきりと分かる怪訝を見せていた。
「あの御仁は、いつもあの様な……」
「そう。えっー後ね、名前覚えないからその辺は気にしないでおいて」
僕の苦笑いに、察した感じで追加の注意事項を彼は聞いていた。見た感じが「おっきい」彼はまた無表情な雰囲気になっている。
一応、黒剣さん達に続いて、彼は調べたらしい廃墟の砦の中を二人で確認する。――まあ、只の廃墟だった。クエスト中なら野宿するよりましな感じ。
黒剣さん達も似たような見解だった。
「燃やしちゃう?」
「何でそんなに楽しそうなんですか」
「だって面倒くさいでしょ」
僕らの会話に、無関心と無表情が向けられて「他家の所領なので」とダニエルの言葉でフィリアの言葉は却下されてた。
結局夜まで待つと言う、当たり前で無難な選択に「餌」作戦が明かされて、ダニエルの抵抗がみえた。――常識的に考えて、母上の言葉があればそうなるよな……って感じだ。
――自動防護術式――
一応、今の僕が使える術式では一番高度な部類で、待機状態中なら、勝手に攻撃を防いでくれる。まあ、僕の魔力魔量の問題で、どの辺まで効果が出せるか分からないけども。
単純に、黒剣さんとフィリアが相手なら……今の僕だったら多分、普通に死ねる。――そんな感じ。
そんな事は、ダニエルに言わなかったけれど、こう言うのがあるから「大丈夫」的な話をした。……まあ、納得はしなかったけど何とか折れてくれた。
大体、呼び寄せる才能のある僕の横に、あんな大きいダニエルが難しい顔してたら、来るものも来なくなるし。――『餌』役に使命感は無いけども。
一応、全会一致で方針と計画は決まった。言い出したのは全部フィリアだったけど。黒剣さんは餌作戦以外は「そうか」しか言ってない。――作戦も『何時もの』だったから単語二つだけ、まである。
作戦の話し合いが終わり「待てばいい」の時間で、出会いからフライパンの下りに……僕がいじられて会話が進んでいた。ダニエルも僕が話す彼らと時折出る彼等の「さらっと」凄い話で、見る感じが変わっていた。
そして、当たり前に、黒剣さんの胃袋が悲鳴を上げてくる。
「腹減ったな」
「如何にも」
何故か即答位の勢いで、ダニエルの同意が続いていた。当然の様に僕の手も掛かったんだけど。
「夕飯とってくる」
「ですな」
まあ、ダニエルも「出来る」って認めたんだろうな。 僕を置いて黒剣さんについて行ってた。――『何かあれば呼んでください』と言い残されても、だな。
待たされついでに、「餌」なりに少し思い付いた。皆は「夕食」の方向で、少し緩んだ感じだったけれど。
まあ、大した事じゃない。ただ、待機状態なら、フライパンの竜水晶使えるじゃないかと。――今のところ僕は、一つしか貯めれないけども。
いや、この際、格好の問題でも無くて全般的に使ってみるのも良いのかも。いや、フライパンだけども。――魔装の杖の代わりに……。
まあ、一応、少しだけ、……フライパンを構えて呪文に繋げる迄を想像してみた。――駄目だ。余りにも滑稽過ぎる。……魔導師を目指す身としては、ああっ、あれだっ。
「おい少年。何の妄想で苦悩てる? ひょつとして……駄目だぞ、私にはオースがいるからな」
「止めてください、からかうのは。フライパンでいいです。出だしからもう、同じパターンですよ」
「あーもう、つまんないでしょ。こんな所で待ってるの、私も行けば良かった」
「フィリアさんが居ないと、何か出たら僕が危ないですからお願いしますよ」
何で私がの顔……と言うかそのまま彼女は「何で私が?」とそう言っていた。まあ、仕方ないと言えばそうだと思う。……けども。
一応、定期的に「おい少年」のくだりがあって、黒剣さんがダニエルと一緒に帰ってきた。
ただ、ダニエルが中々の大物「赤角鹿」をそのまま担いで来ている。……ほんとですか、捌いてもないし。「内蔵はないぞう」って?
――ああ、フィリアがヤバい。と言うかダニエルそれは駄目だぞ。
その光景は置き去りにして、流石に、僕も腰に掛かった手は引っ込めた。……しかし、見るからに黒剣さんがフライパンを気にしている。それは、確かに分かるけども。……でも、何故か僕の手をフライパンが呼んでる気がした。
「捌いてやる」
僕の顔に何か書いてあったのか、黒剣さんの唐突な一言。そこで僕は「いや、吊るして下さい。そのまま行きます」の勢いを向けてみた。
掛かるフライパンに掛ける僕の手は、僅かに踊っている。――このフライパンが、どれ程の物か試してやる。……さっきの妄想の自分が、何故かそれを急かしている気がした。
――只のフライパンだと思うなよ。魔装の杖何するものぞ――
そんな雰囲気が、魔方陣が刻まれフライパンに出た気がした。その存在を決める、魔動術式の刻みがちよっと格好いい気もする。
取り付けられた竜水晶は……相当なのだけど、昨日辺りにはパンケーキ焼いてたそれだった。
僕の感じとフライパンの雰囲気は関係無く、鹿は要望通りに、背中を下に吊るされていく。
そして、黒剣さんの「いいぞ」の声がした。その声に僕は、フライパンを赤角鹿のお尻の辺りに押し当てて「私が焼いちゃう?」のフィリア声を聞いていた。
意を決して、焼くに繋がる魔体流動を合わせ竜水晶から魔力通してその焼くに入った。
若干、魔動器の万能鍋の動揺が伺える。――そう思った『だけ』だけど。
それに加えて更に追撃。続け様に包み込む炎の呪文に繋がる魔体流動も併せて竜水晶に魔力を流し、そのまま発動の詠唱――包み込む炎と唱えた。――をした。
中々の光景、包み込む炎。まあ詠唱する起動呪文のままだ。僕は蜂の巣を一網打尽にした時に使った覚えがある。普通は……自虐になるから止めておく。
一応、普通の方のイメージをフライパンに伝えた感じで、流石に魔法の魔動器の万能鍋。このサイズの丸焼き、仕上げて魅せやがりましたよ。
もう、あれです、絶妙な炎の操作……魔術師ですか貴方は? 。まあ、魔動器ですけど……
ちょっと「レア」な感じに、黒剣さんとダニエルの一口目の至福な表情が見える。
それに続く「焼けて無いでしょ」とフィリアの声。燃える火焔 の「詠唱入りました――」位の勢いで、半分を黒焦げにしていた。その向こう側はえらい事になってるのは、見なかった事に。――どんだけの威力ですか? ……がでそうになった。
情景に映る残念な感じが、吊るされた部位の半分に流れて、「挑み、敗れ、乙女の恥じらい」で……物影でのキラキラ。
「ふっ、焼き過ぎたわね。フライパン焼き直して」
「無理ですから」
「これはこれで、あれだ」
「……で、ですな」
消し炭か? にダニエルまで、フィリアの影響かなのか困惑気味でも否定はしてない。まあ、勢いがあれだからな彼女も……でも、結局フライパンの方を彼女も食べてた。――僕は予定調和だったけど。
一応、早めの夕食の感じから、計画通りの「囮は僕で『餌には餌を』作戦」を実行する。単に僕が目立つ所で「ぽつん」だったのだけど。
……少し開けた所に立つ僕を、砦の中の高い所から黒剣さんとフィリアが見張り、ダニエルはクロスボウを構えて離れた森から、僕を中心に砦全体を見る。――そんな感じになる。
「いつも通りだな」
「ちゃんと避けてよ。面倒くさいから」
「何か来たら呼んで下さい」
声は掛けて貰った。あの二人は、間違いなく僕の方にくる確信みたいな物がある。まあ、事実だけど。――二回のついでのクエストで、フィリアにも『才能だよそれ』と言われたし。ただ、ダニエル。その距離でどう呼べと。と言うかそっちが『何か』を見つける方だけども。
徐々に暗くなる周りに、焚き火の小さな炎でそれなりの時間を待つ間、待機状態で自動防護術式を僕は流動を合わせておく。
一応、フライパンの竜水晶を魔装の杖代わりにして。……感覚的にいい感じでフライパンも食材を待つかの雰囲気を――まあ、僕の妄想だったりする。でも、体感は確かだった。
全体の視界に困る位に、辺りが暗くなってきた。炎の向こうの遠く先に、場所を動かないダニエルらしいが見えるだけで、駄々漏れの黒剣さんは気配すら無く、フィリアすら何処にいるか分からない。
「そろそろ何か出るかな?」
周りの雰囲気に、僕は少し呟いていた。母上が防護術式を刺繍した「若干効果の怪しい」羽織の襟に、軽く指を掛けた辺りで少し違う感じがした。
「行け。賊やも知れぬ、焚き火の灯りを抑えよ!」
「お、お、お嬢様っ、お待ちを――」
唐突な馬蹄の響きの前に、静寂を抜けてそんな感じの声が聞こえていた。それに、ダニエルの場所を置き去りに僕は振り返った。 何ヵ所か城壁が大きく壊れている所の一角から、騎兵が二騎、僕に向かって駆けてくる。
――『良し掛かった』じゃない、きっと誤解だな。
意外と冷静な自分に少し驚く。その位の間で三騎目が動き出したのと同時に、ボルトの空気裂く感じがして自身の術式が自動発揮するのを見る。
――展開した魔方陣にボルトが当たり、炎に包まれて焼け落ちるクロスボウの矢の絵図ら。何故か円形の魔方陣に、持ち手らしいおまけが付いていた。
続けて、僕を抜けるつもりに駆ける騎兵の前に「おらぁぁぁ――」の咆哮と共に、黒剣さんが降ってきた。
そのまま、嘶いて崩れる騎兵の剣擊を黒い大剣が弾いていく。――感覚的には、『息してない』に繋がる感じだけど、彼も分かってたみたいだった。
黒剣さんとの距離感が安心感に繋がって、頭上に爆炎の橋が架かる。一瞬、辺りが明るくなって、隣でその先を見つめる黒剣さんの「あの感じの顔」を見た。
「掛かったぞ。今ので駄々漏れだ」
駄々漏れに促されて見た先。城壁の僅かに上の空中に、翼か羽かを広げて炎に包まれる人型が、浮かび上がっていた。――やばい奴か? なんだあれ。
二発目の……爆炎が「何よまだ足らない? じゃあこれで――」のフィリアの大声の後に続いていた。
先ほどよりも強力な炎で、周りの「誤解」の動揺を映しだし、僕は、更に炎を上げる羽付きに、黒剣さんが何かを足掛かりにして、飛び斬り掛かる背中を見た。
――相手は城壁の更に上ですが……と僅かに考えて、黒い大剣の軌道がその羽付きを捉えるまで見て、「まあ、あの人なら有りか」と出した自分の声を聞いていた。