冒険の始まり02
その場で、通信用の魔動機を借りて……色々な経路で母上と言葉を交わす事が出来た。一応、まだ連絡は届いて無かったけど。
なし崩しに冒険者生活を始めて、まともに帰っていなかったのもあって「一度、戻ってきなさい」との言葉を貰って……今は三人で馬車の中いる。
当然、同行の黒剣さんとフィリアのあれな感じが痛い状況だった。まあ、フィリアの一方通行な様子が丸分かりだとも言えなくもない。
結局、正式に彼らのパーティーに入って、二つ程クエストを「餌」の感じでこなしての現状だった。
それで僕らが目指すのは、僕の父上が領主をしているアルターライン地方の端の「イーストファーシル」と言う場所になる。――まあ僕の家なんだけど。
後は、何でクエストついでになったのかと言うと、シェリーさんが「にこやか」にその道中のクエスト提示してきたから。
でも、逆方向なら黒剣さんは来なかったと言っていた。――まあ、フィリアから聞いたんだけど。
「基本的にオースは貴族が嫌いなの」「何度も言うけど、あんたの事はあり得ないから……」と続いた言葉に「そうですか」くらいの感じで、話を聞いていた。
いや、単純に彼女に質問攻めをされたので、聞くと言うのでもなかった。――何処の貴族って言われてもなって感じで……。
アルター家。その分家の三男の三男……辺りで、フィリアが食い付いてきた。クエスト中も「爆炎の魔女」さながらな彼女が別の怖さを見せてきた。
カイン=ライト・アルター・エルライン。この名前で、ある意味、彼女は何かを吹っ切ったみたいだった。正式には、ファーシルも付くけど。
「あんたアルターラインの魔神の孫なの!」
言ってしまえば、祖父なのだ。まあ、子沢山の祖父の孫は後十二人居るけども。――『魔神』って、それはヨーバルト帝国の呼び名で、イシュール王国では『武神』だったけどね。
「まあ、一応は……」の言葉に、彼女の目が僕を金貨か何かに見えてる様に感じた。――ファーシルって名乗ったのにな……まあ、いいけど。
良くある戦場の英雄譚になる。
祖父は若い頃、戦で「物凄く強かった」らしい。アルター家では僕と同じく末っ子だった祖父が、伯爵まで上りつめ家門閥の分家筋のエルラインをついで……僕に至る。
流れ的な話として、ファーシル男爵を継いだ僕の父上、ヴェイン=フォルト・エルライン・ファーシルの名前を出した時には「誰それ」を柔らかく、彼女も一応の配慮らしきはあった。――父も末っ子だったりする。
今でも現役な感じの祖父にも可愛がられたけど、祖母の方が格段にそうだった。末の末っ子だからなのかは分からない。
当然に、母方の祖父母にも可愛がられている。祖父同士は主従の関係だけど、片腕とか腹心的な様だった。――まあ、みんなに甘やかされている自覚はあったりする……
……フィリアの納得に続いた僕の話には、黒剣さんは無関心だった。ただ、ネーブル家の名前が流れで出た時は駄々漏れだった。――二度としない。僕もあいつは嫌いだったし。
黒剣さんを宥めてくれたフィリアが、その時、女神に見えたのは……心の中だけの話だ。
こっそりフィリアが教えてくれたけど、ネーブル家の誰かと何かがあって……食べてるらしい。
要約も無しでこのままだったから、何の事かは分からない。――まあ、良いけど。
一応話がついて、「クエスト」がてらなのか「帰省」のついでか分からない。そんな流れの合間では、当然フライパンが活躍していた。
因みに、フィリアの「まあ、美味しいんじゃない」をフライパンは引き出していた。
――現状、僕の価値はその辺りになる。
揺られる馬車の感じもなく。道すがらの風景の思い返しに、行くなりの距離と時間を使い……僕らはイーストファーシルに到着した。
城塞都市とは違い、開拓途上の所領の雰囲気を持つ感じの場所になる。
そして、屋敷に着いて連絡していたのもあったけど、当たり前に出向かえられて黒剣さん達をもてなす感じになった。――まあ、僕もそのつもりだったし、母上にも言われてたし……で。
応接のテーブルに着いた目の前では、黒剣さんが、あのフライパンで作った母上の特製パンケーキの皿で「山積み」の勢いを見せていた。
その光景は簡単な儀礼の後で、フィリアお待ちかねの金貨の袋を「息子に価値をはかるのは些かですが……」と父上が渡した後になる。――まあ、黒剣さんは食べるのに夢中で、受け取ってたのは彼女だったけど。
一応、母上のパンケーキは生地が凄いのだ。それを上手く焼けないので、フライパンに繋がったらしい。……それ以上は、事なかれ主義な僕には「反応が怖くて」……聞けないけども。
ただ、その黒剣さんの様子に、何かしらの喜びを感じたらしい母上が、パンケーキを焼き運んで勧める横で……父上とフィリアが難しい顔をしていた。
難しいの原因は、クエストの依頼の話になる。かなり気になるのは、その話の内容ではなくて報酬の袋の大きさだ。明らかに、僕のそれよりも倍はあるように見えたから……。
「アンデッドなら、専門のパーティーに依頼した方が良いと思うけど?」
「詳しく分からないが、その類いでは無いのだよ。むしろ、魔族かも知れないのだがね」
「それを調べてほしいって事ね」
「そう言う事になる。詳しく分ければ正式に討伐の手筈ができる。これ以上無駄に死なせる訳にもいかないのだよ……」
真面目な雰囲気は二人だけだった。黒剣さんの黒階級を見て複雑な案件を相談しようと思ったそうだ。……聞いてるのはフィリアだけども。
イーストファーシル近郊は、恩賞の地と言われる開拓の土地で所領が細分化して沢山ある。イーストファーシルも祖父カイン=ライトが爵位と共に拝領した所だったし。
その複数重なる境界の場所に、廃墟と化した砦がある。そこに何かが入り込んで、近隣て悪さをしているそうだ。若い娘さんをさらったり、家畜を奪ったりと……。
ここまでなら、盗賊か何かではないかと言う感じなのだけど、父上が昼間に私兵を率いて調べても何も無かったそうだ。
ただ、夜な夜なそんな感じは以後も続いて、父上も夜間に向かったんだけど……何者かに妨害されてそれを断念したそうだ。
「何か分からないのだが……『分からない』では話にならない。何度か行ったのだ。ただ、帰らぬ者が増えるばかりで、らちが明かない……」
父上の立場は少し微妙なのだそうだ。言ってしまえばここは辺境区。何かあれば王国に代わって、先ずは、アルター家がそれの代わりをする。まあ、辺境伯とか言う事だけど。
それで、家門閥で言うと父上はそっち側になる。だから、門閥内の体面な問題で「分からないでは話にならない」って事になるそうだ。――正直、よく分からないけども。
兎に角、黒剣さんのパンケーキに掴まれた胃袋が、結構な枚数で満たされて、フィリアが代わりに受けていたクエストの依頼の話に入って来た。
「貴族の依頼は受けない」
唐突な両断の黒剣さん。返す刀で、母上のお土産仕様なフライパンクッキーの袋。「お味見で。召し上がって」からの「チョコチップ入りも宜しければ、召し上がって」で、母上の勝利だった。
若干の勘違いで、僕も行く事に気付いた母上が別の感じであたふたしてた。――まあ、僕も冒険者だから、それはそれであれだ。
でも、黒剣さんが「クッキーの袋」で満足気なのには母上も喜んでいたし、フィリアも増えた袋で喜んでたし。
よく考えると黒剣さん。フィリアがいなかったら、クッキーで依頼受けそうなのが、ありそうで怖い。――彼女も実は大変なんだなと勘ぐってみる。まあ、居なかったら普通に野宿だな……。
……今日の今日だからと、とりあえず屋敷に滞在して後日に備えるって事になって。……夕食時に、黒剣さんの笑顔で平らげる様子に、母上がご満悦だった。
張り切る母上を見ると、大体、料理長や執事とメイドが迷惑だと思うんだけど。二人共にご機嫌だったからいいのか? って感じだ。
因みに、フライパンクッキーはもう、黒剣さんの胃袋の中だった。どんだけ食べるんだって所だけど。――あと、フィリアが母上を警戒してた。『女の感』だそうだ。何の事だか分からないけども……。
久しぶりに、自分のベッドで寝て、黒剣さんは床に寝たらしいけど。翌朝、庭で剣を振る彼の姿を起き抜けに見ていた。
多分あれが本当の彼なんだと思った。流れる様な動きで、美しい感じが、パーティーを組んで最近よく見る光景になる。
単純に、何と無く冒険者だった僕は、黒剣さんと。まあ、フィリアもだけど。一緒になって魔術師として少しましになった。――まだ、本格的なのは二回だけど。
ついでに出た彼女の事。今現在、頭爆発して廊下を歩いているフィリア事だけど、彼女は、属性偏の魔術師になる。
火と水の属性持ちで、「炎が好き」らしくあらかたそっちを選択していた。適正は水らしいけど。
「あっ、……フライパン、髪の毛何とかしたいんだけどさ。何処でやればいいの」
「いつも通り……その辺で――」
「はぁ?」
「あっ、いや、メイドの誰か呼びます」
「分かればいい。何であんたの屋敷にいるのに、自分で水出さなきゃいけないのよ……」
確かに、見た目は可愛い。僕より年上には見えない。なので、フィリアなんだけども、兎に角、彼女の僕と黒剣さんとの扱いが違い過ぎて……。
そんな事はと、まあ、一番話しやすいキャロンを呼んで何とかしてもらった。一応、自分の家だし、勝手は分かると言えばそうだけど。
そんな一幕を……あと、ガッツリ朝食的なのを黒剣さんはとってを挟んで。――せっかちなんだろう。黒剣さんのいきなりの言葉で、既に馬上から案内役のダニエル・ナヴァールの背中をみていた。
「昼間は無駄かも」と一応言った。「そうか」の後に「まあ、夜まで待てばいい」が続いて今に至ってた。……当然、僕の腰にはフライパンは下がっているけども。
確かに、距離的に正しいかもしれない。それと、関係無いかもまであるんだけど、黒剣さんの騎乗姿が格好いい。……おまけにフィリアもついているのは、あれだけど。
道なりに、昼食用に持たされた軽食を食べるを挟んで目的の場所についた。道中も、流石に「この辺褒美にやる」的な土地柄なのか、思い切り辺境の匂いがしていた。
――関係ないけども。
そんな感じと、国境に近い事もあって「砦」の跡とかいっぱいあった。目の前のこれもその一つになる。そのまま当たり前の黒剣さんの唐突。
「フライパン、ここか?」
「多分……と言うか、彼に聞いて貰わないと分からないです」
道案内の彼は、ファーシルの家名付きの騎士の一人だった。お兄さんと言うかおじさんの距離感がある彼も、案外面倒な人だ。――腕は立つけど。
「あー。……ここか?」
「そうです」
表情が変わらないダニエルが、そのままそう言っていた。一応自己紹介はしてたんだけど、後で話しとこ。ああいう人だからって、言っとかないと……
黒剣さんの「中見にいくぞ」声と行動で、なし崩しな緊張感無しの動きだしに、ダニエルの眉毛が「ちょっと」動いていた。
「若様。私から離れないでください。奥様からきつく言われておりますので」
「……はぁ、そう言う事なら仕方ないです」
――とりあえず、単なるクエストだ。……たぶん。
兎に角、黒剣さんが無造作に前を行くのに、馬を走らせておく。――まあ、あの人がいれは、どうでもない気もしていた。